ワグボクで学パロ!
『好きな人』
ボクオーンは生来の負けず嫌いである。
だからこの体育祭、他クラスの生徒会メンバーの運動神経が化け物揃いだろうとも、負けたくなかった。
純粋な力や速さの勝負では勝ち目がないため、それらの要素が左右されない種目に力を入れる策をとった。
現在は二位。逆転勝利のためにも、次の借り物競走は絶対に負けられない戦いだった。
だというのに――
『好きな人』
借り物競走で引いた紙を手に、ボクオーンは震えた。
このくじを入れたやつと責任者、来年度予算を会計権限を使って大幅にカットしてやる。――など言いたいことは山ほどあったが、ボクオーンは即座に走った。
「ワグナスっ」
生徒会席に駆け込み、ワグナスの腕を取った。
ワグナスは素直に従い、駆け出した。そして二人は一位でゴールテープを切る。
ほっと胸を撫で下ろしていると背後から手が伸びてきて、ボクオーンの手の中から紙が抜き取られた。
振り返ると、マイクを手にしたスービエが立っていた。
「ボクオーン君への指示は『好きな人』でしたぁ。え、お前、ワグナスのことが好きだったの?」
「……仕込んだのはあなたですね」
低く呟かれた声は生徒達の悲鳴にかき消された。
ボクオーンは舌打ちをしながらマイクを奪った。
「私は、生徒会長としてのワグナス君を尊敬し、そのリーダーシップと性格に惚れ込んでいます」
「『好きな人』判定NGだと思う人ー」
スービエの声が校庭に響くと、身勝手な観客達からの賛成の声が上がった。
「というわけで、一位撤回になるけど?」
「じゃあ好きで良いです。ワグナスのことが好きです」
「だ、そうだけど。お前どうすんの?」
マイクを向けられたワグナスは戸惑うように瞳を揺らした。
これはまずい。優しいワグナスのことだから、皆の前でボクオーンに恥をかかせる選択はしないだろう。
「……そうだな。私も、ボクオーンのことが好きだよ」
「はい、カップル成立ー」
歓声と悲鳴とが入り混じり、ちょっとした恐慌状態になる。
ボクオーンが注意をしようとすると、スービエがさらに言葉を続けた。
「それじゃあご祝儀にボクオーンとワグナスのチームに百点プレゼントー」
周りから「異議なしー」の声が上がる。
百点は喉から手が出るほど欲しい。だから文句の言葉をぐっと飲み込んで、スービエに促されるままに手を繋いで一位の旗の前に並んだ。
スタートのピストルの音が青空に吸い込まれていった。
周囲の歓声を背に走る生徒。それをワグナスは無表情で静かに見つめていた。
彼が何を思うかは分からない。だが、その指先が微かに動き、ボクオーンの手を握り直した。
つい一位と百点という餌に目がくらんでしまった。
全部、自分が悪い。
「……これはどうすれば良いんだ?」
手の温もりに戸惑いながら、ボクオーンは途方に暮れたまま、心の中で呻いた。