ワグボクで学パロ!
クリスマス3
クリスマス当日。
あいにく終業式と重なっていたため、昼ご飯を食べた後に駅に集合となった。
ボクオーンはショルダーバッグにクリスマスプレゼントを忍ばせ、待ち合わせ時間の三十分前に目的地へたどり着いた。
流石に早すぎだと思っていたが、駅の切符売り場の前にはすでにワグナスが立っていた。白いセーターに黒のスリムパンツ、その上にグレーのチェスターコートを羽織っている。とてもシンプルな服装なのに、スタイルが良いワグナスが着ると迫力があった。道ゆく人が振り返るほどに、かっこいい。
思わず歩みを止めて見とれていると、ボクオーンに気付いたワグナスが微笑みを浮かべた。
ズキュン、と胸を射抜かれる。
自分の恋人がカッコ良すぎて困る。
小走りで近寄ってくるワグナスは頭の上の犬耳があればひょこひょこと動いていそうな気がする。眩しいくらいにかっこいいのにとても可愛らしい。
「お待たせしました。……しかし、あなたは少し早すぎなのでは?」
「楽しみで仕方がなくて、帰宅してすぐに出てきてしまった」
「……昼ごはんを食べていないのですか。電車に乗る前に何かつまみましょうか?」
「いや、軽く摘んではきたよ。それよりも、早く行こう」
遊園地ではしゃぐ子供のように、ワグナスはボクオーンの手を引いて歩き出す。
ボクオーンは苦笑を浮かべて、歩調をワグナスに合わせて歩き出した。
ちょうど良いタイミングで来た電車に乗り込むと、平日の昼間なのに座る場所がない程度には混んでいた。
二人は車両の一番端を陣取って立った。
「まだ時間に余裕がありますし、着いたら何か食べましょう。リクエストはありますか?」
「プラネタリウムの近くに紅茶が美味しい喫茶店があるようだ。行ってみないか?」
美味しい紅茶とは興味がそそられる。二つ返事で頷くと、ワグナスは満足そうに口元を緩めた。
電車が止まり、プラットホームから人が流れ込んでくる。
ワグナスがそっと立ち位置を変えて、小柄なボクオーンが潰されないように腕を伸ばして守ってくれた。
ボクオーンが好きそうな喫茶店を探してくれたことにも、些細な気遣いにも、今日は胸がときめきっぱなしだ。
電車特有の軽い音が響く中、ボクオーンはワグナスの腕を引っ張り、近づいてきた彼の耳元でそっと囁いた。
「今日のワグナスがカッコ良すぎて、惚れ直しそうです」
ワグナスは大きく瞬きをして、次の瞬間、とろけるような顔をしてはにかんだ。
ワグナスが案内したのは、紅茶が自慢の落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。ミルクティーの豊かな味わいも、アンティーク調のクラシカルな内装も、ボクオーンはすぐに気に入った。
「デートでこの街に来ると言ったら、伯父さんが教えてくれたのだ」
丁寧にミルフィーユを食べながらワグナスが言った。甘いものに目がない彼は、目元を緩めて満足げな顔をしている。
芳香豊かななミルクティーの香りに包まれ、ボクオーンもまた感嘆の息を吐いた。一緒に頼んだスコーンとの相性が良すぎて、幸せな気持ちになって顔も緩みっぱなしだ。
ふと顔を上げると、ワグナスと視線が絡んだ。
するとワグナスは頬を染め、狼狽するように慌ててミルフィーユへと目線を落としてしまった。
――変なワグナスだな。
そんなことを思いながらボクオーンはスコーンを頬張った。
テーブルに置いてある冊子を開くと、この喫茶店で出されている紅茶の銘柄や仕入れ先が書いてあった。紅茶に限らず、お茶を飲むことが好きなので、自宅でもこの味を再現したいとスマホにメモを取った。
熱心に冊子を読むボクオーン横顔を、ワグナスは優しげな眼差しで見つめていた。
今日のデートのメインはプラネタリウムだ。
あらかじめ予約をしていたので、待つこともなく中に入ることができた。
「演目はクリスマスにちなんだ星のようですね。無難に冬の星座の説明もするのでしょうか」
まだ開演までは時間があるというのに、周りにはすでに多くのカップルが座っている。
ワグナスはどこか落ち着かない様子でそわそわと天井を眺めていた。
声をかけようと口を開いたその時、照明が落ちて視界が闇に閉ざされた。
ぎくりと体が強張る。
しかしすぐに横から伸びてきた手が、ボクオーンの手を握り締めた。胸に安堵が広がり、ほっと息を吐く。
「大丈夫か?」
そっと肩を抱かれて、その温もりに身を委ねた。
闇が苦手だと思われているのは過保護だと思う反面、そんな気遣いに胸がくすぐったくなる。
ふいに、鈴の音が聞こえてきた。
気のせいかと思うほどの小さな鈴の音が、徐々に大きくなって響いてくる。
視界が濃紺で覆われた。
そして視界に光が溢れた。
宙に浮かび上がったもみの木は黄金に輝き、夜の闇を優しく照らした。
天井に冬の星の強い光が煌めく中、柔らかな光を放つ雪が降り注ぐ。実際に降って来ることはないのに、思わず受け止めるように手を伸ばしてしまった。
とても美しかった。息をすることも忘れて、心地よい静謐に身を浸す。
「プログラムの上演までの間、イルミネーションのサービスがあるそうだ」
ワグナスが耳元でそっと告げてきた。
顔を横に向けると、間近にあるワグナスの顔が光を受けて青白く浮かび上がっていた。
プラネタリウムに行こうと決めたのは二人でだったが、場所の詳細は任せろと言われたので触れなかった。わざわざ遠いところに連れてこられたので不思議に思っていたが、ワグナスはボクオーンが興味を持ちそうな演目や演出を探してくれたのだろう。
胸の奥がむずがゆくて、愛おしさが溢れて、たまらなくなる。そっと彼の頬に触れた。
「キスがしたいです」
彼にだけ聞こえるように囁くと、ワグナスは目を見開いた。
動揺した様子で固まっているワグナスがもどかしくて、ボクオーンはそっと顔を近づけて唇を奪った。
呆然と固まるワグナスを見やり、ボクオーンは満足げに微笑みながら距離を空ける。
やがて、重なったままの手が強く握られた。
「次は心の準備をする時間をくれないか。心臓が止まるかと思ったよ」
大真面目にそんなことを言われ、鈴の音に混じってボクオーンが吹き出す声が響いた。