ワグボクで学パロ!
クリスマス2
ワグナスはスービエの家を訪れた。
初デートが決まったものの振る舞い方がわからないため、経験豊富なスービエを頼ることにしたのだ。
彼の部屋にはサーフボードが飾られて、壁には海のポスターが何枚も貼ってある。従兄弟という立場柄、勝手知ったる場所だ。
「だからなんで俺を頼るんだよ」
何も言わないうちからスービエに叱られて、ワグナスはきょとんと瞬きをした。
「お前はこういうのに慣れているだろう?」
ワグナスは床に座り込み、鞄の中から雑誌を取り出した。派手な文字でクリスマスデートと書かれたものと、メンズファッション誌だ。
「デートの場所は自分たちで決めろ」
「それはすでにボクオーンと決めている」
「じゃあ、何を聞きにきたんだよ」
スービエはワグナスの正面に座り、雑誌をめくり始めた。
ワグナスは腕を組み、眉間に皺を寄せた。
普段とは違い、いかにもデートという場所が初めてなので、色々とわからないことだらけだ。
「デートとは何を着ていけば良いのだ?」
パラパラと雑誌をめくっていたスービエは、やがて難しい顔をして雑誌を床に置いた。
「いつもの格好でいいと思うぜ。多分、こういうチャラチャラしたのは似合わない。……いや、お前ならなんでも着こなせる気はするが、無難にしとけ」
「デートなのに、それで良いのか?」
スービエは深く頷いた。雑誌には異なることが書いてあったが、女性慣れしているスービエが言うのだからきっとそうなのだろう。
難しいなとつぶやきながら、ワグナスは取り出したメモ帳に『服は普段のまま』と書き記した。
次に付箋を貼っていたページを開いて、スービエに見せる。
「親密さを増すための行動とは、どこまで必要なのだ?」
「んなもん、必要ないだろ」
「しかし、雑誌には重要だと書いてある。視線を合わせる、気さくに肩に触れてみる、歩く位置や座る位置、エスコート、デートをする場所についての説明をして知的アピールをしてみる」
スービエは額に手を当ててかぶりを振っている。
ワグナスは不満げにその様子を眺めた。少しは真剣に考えてくれないだろうか。
「お前は説明が長いから、するな。賢いのはボクオーンも知ってるから今更アピールしなくても大丈夫だ。それ以外のもボクオーンに不審に思われたあげく揉めるのが目に見えているからやめてくれ。自然体でいけ。少なくとも、お前はエスコートはできるやつだ。従兄弟の俺が保証する。……この雑誌は没収」
雑誌が放り投げられるのを止めようとした手が宙をさまよう。哀れな雑誌は机に当たって床に落ちた。
スービエはため息をつきながら剣呑な眼差しを向けてくる。
「デートで浮かれる気持ちはわかるが、普段通りで行け。これ以上厄介ごとを増やすな」
デートに慣れている人間の言葉だ。真摯に受け止めることにしよう。
ワグナスは素直に頷き、メモ帳に『普段通り』と書いた。
「注意点はないか?」
「バックアッププランは作っておけ。晴天時、雨天時の動き。混雑しすぎていた時に回避する場所。あとはティーブレイクをする場所は多めに」
「なるほど、参考になる」
しばらくの間、ワグナスが走らせるペンの音だけが部屋に響いた。
静寂が訪れたとき、スービエは難しい顔をしながら問いかけてくる。
「ところで、デートではどこまで行くつもりだ?」
「都心に出てみようかと……」
「そうじゃない。キスまでをめざすとか、最後まで目指してホテルに連れ込むとか」
「日帰りできる場所なのでホテルはないな」
スービエは「そうじゃない」と再びつぶやき、肩を落として項垂れた。
ワグナスはふいに思い出して、鞄からノートを取り出す。
「そうだ、ボクオーンとの交際におけるロードマップを作ってみたのだ」
「……キスまでにかかる期間は?」
「半年かな」
ロードマップを渡すと、スービエはそれを破って捨てた。
さすがに腹を立てて文句を言うが、スービエは呆れたような視線を向けてきて、大袈裟にため息をついてきた。
「まず、お前にもキスの欲求があったことに安心した。だが一人で決めるな話し合え。そして決定権はボクオーンに委ねろ。ポンコツ仲間だがあっちの方が経験がある分、ましだ」
下の階からご飯が出来たことを告げる声が聞こえる。スービエの母親だ。今晩は夕食を食べて行けと言われていた。
スービエは返事をして、話は終わりだとばかりに部屋から出ていってしまった。
ワグナスはゴミ箱に捨てた無惨なロードマップを見下ろして、そっと息を吐いた。