ワグボクで学パロ!

クリスマス1



 特別な用事はないが休日は一緒に過ごしたくて、塾や部活の合間に互いの家に通うことが多くなった。
 ワグナスと共有する時間は心地よい。
 ボクオーンは勉強を一人でやりたい主義であったが、ワグナスは無駄口を叩かないので集中できるし、解き方に悩むところがあれば教えてもらうこともできる。何より、まだ一年も先だが受験という共通の目的に挑む仲間という意味でも心強い。
 ワグナスから質問を受けた問題の説明を終えた折、ふと目が合う。
 とくんと鼓動が大きく鳴った。
 そっと目を閉じる。
 しかしいつまで待てども、欲しい熱は与えられない。
 薄目を開けると、ワグナスは鞄を漁って何かを探しているところであった。
 気恥ずかしくなって、ボクオーンは誤魔化すように机に向かった。カチカチとシャーペンの芯を出す音が部屋に響く。
「ボクオーン……」
 何かを机に乗せ、こちらを向いたワグナスが微笑みを浮かべる。
 欲しいなら自分から動くかと、彼を上目遣いに見やってそっと顔を近づけた。しかし、目に眩しい赤色の背景にうるさい文字が並んだ雑誌が二人の間を遮り、雑誌にキスをする羽目になる。
「クリスマスの予定は空いているか? クリスマスデートなどしてみたいと思っているが、どうだろう」
 ワグナスは頬を染め、キラキラと瞳を輝かせながら提案をした。
 ボクオーンはクリスマスデート特集と書かれた雑誌とワグナスを交互に見つめ、こくりと頷いた。
 表面上は平静を装っているが、胸の中はモヤモヤで埋め尽くされていく。
 ――自分だけなのか?
 彼と熱を交換して、もっと親密になりたいのは。確かに、自分とは違いワグナスからは俗物的な気配は皆無である。彼には性的欲求などないのであろうか。
 自分に魅力がないはずはない。自分の容姿がワグナスの好みかどうかはわからないが、少なくとも身だしなみは整えているしワグナスと話も合う。性格が異なるのは今さらだし、互いにその溝は埋めようとしている。
 ならば彼をその気にさせるには、どうすれば良いのだろうか。
 ボクオーンには仙人を俗世に堕とす手段が思い浮かばなかった。

「――というわけなのですが、みなさんどう思いますか?」
 ざわざわと人がざわめくファストフード店内で、ボクオーンは友人達に問いかけた。
 対面にスービエ、その隣にノエル。
 ボクオーンの隣に座るダンターグは、トレイに乗った大量のハンバーガーを一つずつ手に取っては、三口ほどで平らげていた。
「自業自得だ」
 口に含んだ氷をガリガリと噛み砕きながら、半眼になってスービエが告げた。彼は限定バーガーのセットを頼んでいたが、あっという間に平らげて、今はボクオーンのトレイからポテトをつまんでいる。
 意味がわからないとばかりに眉根を寄せると、スービエに足を蹴られた。
「ワグナスからキスをされた後の自分の行動を、胸に手を当てて思い出してみろ」
「もう済んだ話ではありませんか」
「お前にとってはそうでも、ワグナスにとってはトラウマ級の出来事だったんだよ」
 あの時は動揺してワグナスを避ける行動を取ってしまったが、その後、和解をして改めて交際をすることになったのだ。そこは仕切り直しではないのだろうか。
「じゃあ、私から攻めてみますか……」
 あまりにも避けられるようなら薬でも盛ってみるか、などと考えていると、
「一服盛るのはやめてくれ。また拗れる」
 ノエルに念を押された。
「そんなことしませんよ」
 信用ないですね、と爽やかな笑みを浮かべたら、スービエとノエルから疑惑の目を向けられた。
 アイスティーで喉を潤し、ポテトをつまむ。ボクオーンが食べる速度よりも速くスービエがポテトを攫っていくので、叩き落としてやろうとしたがかわされた。
 ノエルは限定バーガーを食べているし、ダンターグの前に山のように積まれたハンバーガーは半分に減っていた。ボクオーンはポテトだけだが、このあと各自帰宅した後の夕飯は食べられるのだろうか。
「こんなところで相談してねぇで、素直に誘ったらいいだろ。前も言っただろ。ワグナスだってただの高校生男子なんだから、エロいことだって考えるだろって」
 ダンターグのコメントに対する意見を求めるようにスービエを見る。彼は肩をすくませながら告げた。
「ワグナスの部屋にはエロ本はない。何度か探したが、見つからなかった」
 ほらやっぱりとばかりに得意げな顔をすると、ダンターグは信じられんと呟いて首を振った。
「話がそれているぞ。……ともかく、俺もダンターグの言うように、ワグナスと話をすることを勧める」
 真剣な顔のノエルの言葉に、スービエが追従した。
「キスがしたいってちゃんとワグナスにも分かりやすく言うんだぞ。あいつには恋愛の駆け引きとか無理だし、お前もワグナスが絡むとポンコツになるし」
「誰がポンコツですか」
 三人が揃ってボクオーンを指差す。
「俺はもう手を貸さないからな」
 ダンターグの言葉に「俺も」「俺も」と同意する言葉が続き、ボクオーンは頬杖をつきながら唇を尖らせた。

 まあ、もうすぐクリスマスだ。デートでキスをせがんでみるかと、ボクオーンは心の中でつぶやいていた。
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