ワグボクで学パロ!
犬を見つめる金色の瞳
体育館は様々な音であふれていた。
バスケットボールの弾む音。シューズの擦れる音。応援の野太い声と、黄色い歓声。
ボクオーンは二階のギャラリーに立ち、練習試合が繰り広げられるコートを見下ろしていた。
一階も二階も女生徒達でぎっしりなのに、ボクオーンの周りだけはぽっかりと空間ができていた。ボクオーンが動くと、まるでモーゼの海割りのように皆が引いていく。
その様があまりにも面白くて、意味もなくギャラリーを歩き回ってみた。
ワグナスが放ったボールが綺麗な放物線を描いて、音も立てずにリングに吸い込まれていった。
――ナイスシュート!
心の中で賛辞を送ると、耳を塞ぎたくなるような黄色い声が体育館に響き渡った。
得点を入れたワグナスがこちらへ視線を送ってくる。灰色の瞳が何かを望むようにじっと見つめて来た。
ワグナスに犬の耳と尻尾が見えた。かっこいいはずのワグナスが可愛らしく見え、ボクオーンは戸惑った。
どうすれば良いのか分からず、とりあえず賞賛するように拍手をしてみた。
するとワグナスは目尻を下げ、ふわりと柔らかく微笑んだ。
思わず瞬きをする。そんなに褒められたかったのだろうか。
キャーと女生徒達の悲鳴が上がった。うるさくて思わず眉を顰めると、それに苦笑をしたワグナスが手を振って自陣へと戻っていった。
ワグナスはその後も得点に絡むプレイを連発した。
試合を見に来たのは久しぶりだが、中学の頃に比べて格段に上手くなっている。
――だが。
ワグナスがダンクシュートを決めて体育館内が騒然とする。
ボクオーンはワグナスに愛想笑いを送りながら手を振り、思った。
――さすがにボールを持ちすぎなのでは?
少し張り切りすぎのようだ。自分が監督だったら説教をしてしまうかもしれない。
ただ、ボクオーンの金色の瞳には、シュートを決める度にこちらを伺うワグナスの、頭にないはずの犬耳がひょこひょこ動く幻覚が見えて、笑いをこらえていた。
練習試合が終わり、ボクオーンは体育館の出入り口でワグナスを待った。
ファンクラブの女生徒達も出待ちをしているが、ボクオーンの後ろにまとまって立っている。彼女達のリーダーのように見えるので、やめてほしい。
しばらくするとワグナスとクジンシーが並んで出てきた。ワグナスは笑顔でボクオーンに駆け寄ってくる。
――やはり今日はワグナスが犬に見える。
ボクオーンは苦笑しながら、彼を迎えた。
「忙しいのに、一日付き合ってくれてありがとう」
「いえ、応援に来るのも久しぶりでしたし、楽しんでいましたよ。クジンシーもボール拾いで大活躍でしたね」
「嫌味か」
そのまま帰ろうとしたが、ファンクラブの壁は厚い。
ボクオーンは目つきを鋭くして前方を睨んだ。すると、モーゼ現象が発生して、校門までの道が開けた。
「さあ、参りましょう」
ボクオーンはワグナスの手を取り、歩き出す。
ふるりとワグナスの手が震え、少し間を置いて控えめに握り返された。
どうしたのかと見上げるが、ワグナスは毅然とした表情のままじっと前を向いていた。
「バスケ部の練習試合はしばらくないが、また来てくれると嬉しいよ」
「はい、それはもちろん。今度は何か差し入れでも作って来ましょう」
ワグナスは驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに顔を綻ばせる。白い尻尾がぶるんぶるんと揺れているような気がした。
「次は中間テスト。ボクオーンは大丈夫だろうが、クジンシーは赤点を取らぬように。しばらく補習になるし、部活に復帰したのちは地獄のしごきが待っているぞ」
クジンシーは情けなさそうに眉根を下げて涙目になった。
その様子を横目で見て、ボクオーンは笑いながら提案した。
「ふふふ。今日は二人とも頑張ったので、ご褒美にアイスを奢ってあげましょう。クジンシーは明日から勉強を頑張るように」
「買い食いか。久しぶりだな」
少しだけわくわくした様子でワグナスが微笑む。
「え、俺も一緒でいいの!? 邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
「気を使わないでくれ。せっかくだから一緒に食べよう」
ワグナスの言葉にボクオーンも頷くと、物言いたげな顔をしたクジンシーが従った。
ファンクラブの女生徒は嫉妬混じりの視線で、遠巻きにこちらを眺めるだけ。最近のワグナスは女子達にまとわりつかれて迷惑をしていたので、彼が落ち着いた学生生活を送るためには今の状況は悪くないのかもしれない。
道に出たので手を離す。
――もう少し見せつけたほうが良いのだろうか。
そんなことを考えていると、ワグナスの指がそっとボクオーンのそれに絡まった。
触れ合う指先に力を込められて、なぜかくすぐったい気持ちになり、ついつい口元が緩んだ。