想いを乗せて花は咲く

浮遊島5


 焦げた地面に横たわった赤色の魔物は、塵となり、消えた。
 赤色の粒子が辺りに散り、花を咲かせ、やがて空へ溶けていく。
 風が吹いた。
 フィネアの花弁が攫われ、空へと吸い込まれていく。
 まるで、彼女を優しく連れて行くように。
 ボクオーンはただ、呆然とそれを見上げた。

 彼女の魂は、愛する者の元へ辿り着くことができるのだろうか。
 ボクオーンは手のひらに感じた熱を逃さぬように、拳を握りしめた。
 彼女を吸収したことで、彼女の記憶と感情が胸をいっぱいにする。憎しみの心は浄化されたのか、人間だった頃の綺麗な思い出ばかりが心に響いた。
 彼女は赤いちっぽけな花のような少女だった。地に根を生やして、健気に生きているだけの存在。空を仰いではその温かい光と優しい風を司るものに憧れを抱いていた。
 届かぬ光に恋焦がれる気持ちはよく分かる。
 鬱屈とした闇に差した温かい光に憧れたのは、自分も同じだ。
 今心を満たしているこの苦しさは彼女のものなのだろうか。
 いや、そうではない。
 ボクオーン自身の、どうしようもない気持ちだった。
 ぽろりと、涙が一粒、零れた。

「ボクオーンっ」
 突然目の前に飛び込んできた黒い長髪。見慣れた顔を目に止めた瞬間、胸が張り裂けそうになる。
 ワグナスは倒れていたボクオーンを抱き起こした。指先から感じる熱にぞくりと体が震える。
「そんな戦い方をするなと、言ったはずだ」
 咎めるその声が、掠れていた。ワグナスは泣きそうなくらいに顔を歪めて、ボクオーンをきつく抱きしめてくる。
「君を失いたくないんだ」
 その指先が、声が、震えていた。
 ワグナスはボクオーンの肩に額を押し付けて、もどかしげに、苦しそうにゆっくりと告げる。
「君を愛しているんだ」
 ボクオーンは息を呑んだ。
 深い闇に光が溢れ、その熱がボクオーンの氷のようだった心を溶かしていく。
「だから、生きてくれ。そして、そばにいてくれ。愛してくれなくても良いから」
 抑えきれずに涙が溢れ出す。想いが、痛みが、全部流れ出すように。
 愛おしい。とても、愛おしい。
 狂おしいくらいの切ない愛情が胸の内で爆発した。
「私も、愛しています」
 ワグナスがゆっくりと顔を上げる。
 見つめられる瞳には熱がこもっていた。ボクオーンはふわりと、とろけるような笑みを浮かべた。
 歯がぶつかるくらいの勢いで噛み付くように唇が重ねられる。それに応えるようにボクオーンは彼の首に手を回した。
 ぼやけた視界に映るワグナスは切実で、苦しそうな顔をしていた。
 触れた指先から熱が移る。
 凍えていた魂を優しく包んでくれるように。

 赤い花が舞う。
 円を描きながら、光の射す方へ、吸い込まれるように。
 彼女が焦がれた空へ、光へ、ボクオーンも手を伸ばしてみる。
 胸に湧き上がる痛みも狂おしさも、全部抱きしめて。
 彼女の気持ちはボクオーンが受け止めよう。彼女の記憶と力と共に、この先ずっと抱えて行こう。
 恋焦がれる苦しみも全部。

 ただ、今だけは。この幸せを享受させて欲しいと。永遠を願うことを許して欲しいと――。
 愛おしい男の胸に抱かれながら、ボクオーンは静かに目を閉じた。
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