短編

クリスマス


 クリスマスを間近に控え、ワグナスもボクオーンも仕事に忙殺されて会えない日が続いていた。
 ある日、少しだけ時間が空いたからとボクオーンが訪ねてきた。
 ワグナスも仕事を中断してソファに並んで座り、他愛のない話をしながらお茶を楽しんだ。
 日頃は神経質な位に目つきを鋭くして気を張っているボクオーンも、二人きりの時には緩んだ優しい瞳をワグナスに向けてきた。
 そっと口付けを交わして寄り添い合う。
 一緒に過ごすだけで、疲労で重かった心も体も癒されていく。愛というのはすごいものだと感心しながら、その温もりに身を浸した。
「そうだ」
 ふとワグナスは思い出し、ボクオーンに悩み事の相談を始めた。
 その内容はもうすぐやってくるクリスマスの贈り物についてだ。身近なところにいるノエルやスービエならば当たりはつくのだが、それ以外の仲間が欲しい物には皆目見当がつかない。
 ボクオーンはワグナスに寄りかかりながら平坦な声で助言をくれた。さすがはボクオーンだ。仲間達のことをよく見ていると、感心をする。
 やがてボクオーンは甘えるように膝にごろんと寝転がって来た。猫のようでとても可愛い。ワグナスは彼の柔らかい髪を優しく撫でた。
「ダンターグは武器などどうだろう」
「彼は自分の武器は自分で選びたい人種ですよ。余計なお世話だと受け取ってもらえないでしょう。それならば強い敵でも用意してあげれば良いのでは」
 ワグナスは腕を組んでうーんと唸った。
 魔物を街の中に入れるわけにはいかない。ならば次の作戦で前線に出せば良いのだろうか。
 もそもそとボクオーンが動く。
 視線を下に向けると、じっとこちらを見上げる金色の瞳があった。何かを訴えるような眼差しに、問いかける。
「どうした?」
 ボクオーンは首を振ってワグナスの太ももに顔を埋めてしまった。
 ワグナスは首を傾げて、ボクオーンの頭を優しく撫でた。そして話を戻す。
「さすがに敵は難しいな。他には何か候補はないだろうか?」
「箱にノエル殿でも入れておけば良いんじゃないですか」
 そっけなく告げられた言葉。
 ワグナスの頭に雷が落ちたような衝撃が走った。
「その手があったか!」
「……は?」
 素っ頓狂な声をあげて、大きく目を見開くボクオーン。目が合うと、ワグナスはしっかりと頷き微笑みを浮かべた。
「ノエルには砥石を送ろうと思っているが、思う存分その力を披露できる舞台も用意しよう」
 ボクオーンが体を起こして、ワグナスと目線を同じにする。彼は驚きというよりは不審が強い顔で、呆然とワグナスの顔を見つめていた。
「正気ですか?」
「もちろんだとも」
 ワグナスが鷹揚に頷くと、ボクオーンは二の句が継げなくなったように口を開いたまま固まった。
「……色々突っ込みたいことはありますが。まず、ノエル殿が入ることができる大きさの箱なんて用意できないのでは?」
「それなら寝室にあるよ」
「なぜ⁉︎」
 いつも冷静なボクオーンが大声を上げる。
 ワグナスは得意げな笑みを浮かべて、寝室へと向かった。慌てたボクオーンが後についてくる。
 寝室にどんと鎮座していたのはワグナスの腰の高さの箱である。ワグナスが膝を抱えれば入れるサイズを作らせたので、ノエルもきっと大丈夫だろう。
 ボクオーンは怪訝な顔をしながらも箱の前に立ち、その表面を指でなぞっている。
 そんな光景を見ていたら、唐突に思い出してしまった。あの箱はボクオーンへの贈り物を入れるために用意したものだ。うっかり晒してしまうとは痛恨の極みだった。
 ここは目的を誤魔化すしかないが、どう言えば良いのだろうと焦る。うまく言葉を紡ぐことができず、誤魔化すように咳払いをしていると、全てを見透かす透明な輝きがワグナスを写した。
「それで? これは何のために用意したものなのでしょうか」
「ダンターグへの贈り物のために……」
「それはたまたまですよね。元々はあなたが使う予定だったのではありませんか?」
 ――あ、バレてる。
 硬直するワグナスを一瞥し、ボクオーンはこちらに背を向けた。そして箱に顔を押し付けて肩を震わせる。
 何を言っても墓穴を掘りそうだったのでワグナスは無言で見守ることにした。
 やがて立ち直ったボクオーンはワグナスに体を向け、まだ緩んでいる口元を押さえた。
「そうですね……そういえばダンターグは狩猟刀を欲しがっていましたよ」
 ボクオーンはゆっくりとワグナスに近づいてくる。その硬質な足音が部屋に響き、ワグナスは思わず唾を飲み込んだ。
 ワグナスの目の前で立ち止まったボクオーンは微笑み、その瞳に艶やかな色を滲ませる。煽るような、媚びるような、誘惑の表情に背筋がぶるりと震えた。
「皆に贈り物を考えているようなので、当然私にもあるのですよね? 楽しみにしていますよ」
 それでは仕事に戻りますと告げながら、すれ違いざまにするりと腕を撫でられ、思わずワグナスは硬直をした。
 機嫌よく去っていったボクオーンが扉を閉める音が聞こえたが、ワグナスは立ち尽くしたまま動けずにいた。
 ボクオーンが驚くクリスマスプレゼントを用意しようと思ったのだ。従兄弟に相談したところ、ワグナス自身をプレゼントすればいいとアドバイスを受けたので、秘密裏に箱を作らせて用意をしていた。だが、ボクオーンは全て察してしまっただろう。
「どうしたものか……」
 今から別のものを用意するか。しかしボクオーンは楽しみにしていると言っていたのだから、彼にこの身を捧げるべきか。
 ワグナスは難しい顔をして唸り声を上げた。
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