短編
夏イベントを満喫しよう企画その5。
七英雄がスイカ割りをする話。
ワグボク成分は少なめ。
「あれは何をしているのだ?」
海岸線に沿うように引かれた道を歩いている最中、ワグナスが尋ねてきた。
ワグナスの視線を追うと、浜辺でスイカ割りをしている若者達がいる。
「スイカ割りですね。地面にスイカを置いて、目隠しをした者が周囲の声だけを頼りに、スイカを割ることができるかを競う遊びです」
ボクオーンの説明に、ワグナスは「なるほど」と呟いて頷いた。
しかし興味を引かれているのか、視線は浜辺に釘付けのままだった。
「やってる間は笑えるけど、スイカは普通に切った方がうまいよ」
経験者らしい口ぶりで、クジンシーが笑いながら言う。
「俺がスイカを叩いたら木っ端微塵になっちまう」
「俺もだな」
ダンターグとノエルも笑う。
正直、ボクオーンも彼らの意見と同じだ。余興としては面白いが、スイカが食べたいのであれば普通に切って食べた方がいい。
だが、ワグナスがやりたいのであれば――。恋人に甘すぎる自覚はあるが、今更だ。
そっと仲間を見ると、スービエとロックブーケがこちらを見ていた。彼らも同じ気持ちのようだ。協力者がいればやりやすい。
三人は視線を交わし、そっと頷いた。
「面白そうなので、試しにスイカ割りをやってみましょうか?」
ワグナスに提案をすると、彼は一度大きく瞬きをして苦笑を浮かべる。
「いや、やめておこう。遊びに来たわけではないのだ」
相変わらず頭が硬いようだ。
だけどボクオーンは見逃さなかった。断る前にワグナスの視線が一瞬泳いだことを。ボクオーンの目を欺こうなど片腹痛い。
そっとロックブーケへ目配せを送る。彼女はその意図を察してそっと頷き、手を上げた。
「私、スイカ割りをしてみたいですわっ。やったことがありませんの」
彼女が賛成を表明すれば、おそらくノエルとクジンシーはついてくる。
「お、良いんじゃね。たまには息抜きも必要だろ」
さらにスービエがワグナスの肩を叩き、ニヤリと笑みながら追従した。
ロックブーケとスービエを見つめて頷くワグナスの口元が、わずかに微笑みの形を作っていた。
「そうか。皆が行いたいのであれば、反対はしない」
ボクオーン達三人はそっと視線を交わし、小さくガッツポーズをした。
かくしてスイカ割りが決行されることとなった。
大きな入道雲がかかる青い空。寄せては返す波の音が響く砂浜に、七英雄は遊びに来た。
午前中は泳いだり磯遊びをして楽しんだ。
そして昼食後にスイカ割りが始まった。
シートの上に置かれたスイカの表面を水滴が伝う。午前中のうちにスービエによって深海へと沈められて冷えたスイカだ。
「では、最初はワグナス殿に挑戦していただきましょう」
スイカ割りのルールは伝えた。あとは実践あるのみである。
「この布で目を覆ってください」
「ああ。……その後は、十回回ってから歩き始める、だな。君の声を頼りにさせてもらうよ」
柔らかい微笑みが眩しくて、思わず見つめ合う。
「っふざけんなっ! お前ら、なに二人の世界を作ってるんだよっ。そうじゃないだろっ。この光景が変だと思わないのかよっ」
クジンシーの叫び声が響いた。
二人の時間を邪魔されたことに舌打ちをしながら、ボクオーンは冷ややかに彼のことを一瞥した。
「全く思いません。皆を楽しませる余興だと思って、観念なさい」
クジンシーはスイカの右側に埋まっていた。開始地点から見ると、スイカとクジンシーの頭が仲良く並んでいるように見える。
「暑いし苦しいし、剣の達人の一撃を喰らったら死ぬぅぅぅ」
「じゃあ、スービエとダンターグから選んでもよろしくてよ」
「どっちも嫌に決まってるじゃないかぁぁぁ。せめてロックブーケにしてくれよっ」
「却下ですわ」
泣きながら「嫌だー」と叫ぶクジンシーがうるさくて、スイカ割りを始めることができない。
「ぶん殴って眠らせるか?」
「いやいや。それじゃあ悲鳴が聞こえなくなるから、つまんねぇだろ」
無責任なダンターグとスービエの会話が聞こえてくる。
ふいに、静観していたノエルが動いた。
「クジンシー、君をこんな目に合わせてすまない」
彼はクジンシーの傍に跪いて謝罪をした。
目に涙を溜めたクジンシーがすがる視線をノエルに向ける。しかしノエルは彼に手を貸すことはなく、スイカを挟んだ逆側に移動をした。
ノエルは場所を見定めて、気合いを入れた一突きを砂に放った。風圧で砂が持ち上がり、ズドンと低い音と共に穴が穿たれた。
「外れが片側だけではバランスが悪い。こちら側は俺が務めよう。誰か砂をかけてくれないか?」
あっけに取られた皆が固まる中、ワグナスだけが平然とした顔でノエルの元へ寄っていく。穴に入ったノエルに砂をかける彼を見ながら、ボクオーンはこめかみに手を当てて首を振った。
「えー。……とりあえず、皆でノエル殿の体を埋めることにしましょうか」
その一言で皆が我に返って動き出した。
場を整え終えて、仕切り直しとなった。
ボクオーンはワグナスの目元に白い布を巻いた。妙な背徳感に背筋がむずむずする。
スイカの両隣には、泣きそうなほどに怯えたクジンシーと、眼光鋭いノエルの頭がある。ノエルの圧が凄すぎて直視できず、そっと視線を逸らした。
「では、始めてください」
棒を持ったワグナスがその場で回転をする。
「ワグナス様、頑張ってくださいー」
「ほら、ワグナスっ。もっと高速で回れよ」
ロックブーケの応援の声と、スービエが囃し立てる声が青空の下に響く。
ボクオーンはスイカの向こう側へ移動した。
回転を終えたワグナスが歩き出す。
最初はフラフラと千鳥足だったが、すぐに足取りがしっかりとする。
「ワグナス殿、こちらですよ」
一瞬彼の動きが止まり、逸れかけていた進路を修正した。
これは良い感じなのではないかと微笑んだその時――
「ぎゃーーーー! こっちに来るなぁぁぁ! やめろぉぉ!」
クジンシーの絶叫が響いた。あまりな音量に思わず耳を塞ぐ。
「クジンシー、往生際が悪いぞ。覚悟を決めろ」
ノエルが嗜めるが、クジンシーは止まらない。
「そんな覚悟いらねぇよぉぉぉ。俺は死にたくないぃぃぃ」
ワグナスの足がうろうろと彷徨う。これでは本当にクジンシーの頭が粉砕される。
「ワグナス殿、右です。そう、そのまま真っ直ぐ」
「こっちに来るなぁ」
ボクオーンの声はクジンシーの叫びでかき消された。
こめかみに青筋が走る。誰のために声を張り上げていると思っているのだ、少しは分かれ。
せめてノエルのように圧をかけて、ワグナスに気配を悟らせろ。
「ワグナス殿、少し左です、そう、そうです。そのまま――」
クジンシーの悲鳴は止まらないが、ボクオーンの指示の通りにワグナスは進む。
「そこですっ」
その一言とともに、ワグナスは棒を振り上げ、鋭く振り下ろした。
ズシャッと小気味の良い音が響き、スイカは木っ端微塵に飛び散った。赤い果実がクジンシーに降りかかり、ちょっとしたホラーじみた有様になる。
手応えを感じたらしいワグナスが、少しだけ得意げな表情で目隠しを解いた。
そしてこの惨状を目の当たりにする。
大きく目を見開いた彼は、次の瞬間声を上げて笑い出した。
彼の珍しいその表情を、ボクオーンは眩しいものを見るように見守った。
楽しそうな彼の姿を見て、スイカ割りを提案してよかったと心の底から思った。
青空の下、仲間達はスイカを食べていた。
ダンターグ、スービエ、クジンシーが横一直線に並び、スイカの種飛ばしをしている。
「皆、楽しそうだな」
ワグナスは少し離れたパラソルの下で、自らが割ったスイカを食べていた。普段はスイカもナイフとフォークで食べる彼は、少し食べにくそうにしている。
「ナイフとフォークを持ってきましょうか?」
「いや。この拾い食いをしている感じが、少し背徳感があって楽しいよ」
シートの上のスイカをつまんで口に入れ、口角をあげていたずらっぽく笑う。
「だが、口の中の種はどうすれば良いのだ?」
「皆に混ざって種を飛ばしてみては?」
種飛ばし競争にノエルが誘われて参戦しようとしていたようだが、「下品です」とロックブーケに怒られている。
ワグナスは困ったように眉を下げていた。
さすがにそこまではできないか――。
ボクオーンは紙を差し出した。
「これに出してください」
「すまない。助かるよ」
それからしばらくの間、二人はふざけ合う仲間達と、その背後に広がる海を静かに眺めていた。
仲間達は戯れ合いながら遠くへ走っていった。声が遠くなり波の音がよく聞こえるようになる。
「スイカ割りの最中……」
おもむろに話し始めたワグナスを見上げる。
彼の視線は海のままだが、その脳裏に浮かんでいる光景はまた別なのだろう。切れ長の瞳が優しく細められた。
「クジンシーの悲鳴が響く中、君の声は私の耳に鮮明に届いていたよ」
どきりと鼓動が高鳴る。ボクオーンは何も言えず、ただ彼のことを見つめた。
「視界が覆われた闇の中で、君の声は私を導いてくれた。その声にどれほど安心したか」
その声が甘く胸に響く。その眼差しが慈しみを込めてボクオーンに注がれる。
ボクオーンは恥ずかしくなって、頬を染めながらそっと視線を逸らした。
普段は冷静でいられる自分が、彼の前では簡単に心を乱されてしまう。少しだけ悔しくて、でも甘酸っぱくて幸せな気持ちになる。
穏やかな顔のままで、ワグナスは立ち上がった。
「せっかくの海だ。皆で賑やかに過ごすのも悪くはないが、少し二人で歩こうか」
その手をボクオーンに差し伸べる。陽の光に照らされたワグナスの髪が輝きを放った。
綺麗だなと見とれながら、ボクオーンはその手を取った。
「ええ。参りましょうか」
うん、と頷いたワグナスと並んで歩き出す。手をしっかりと握ったまま、波打ち際をゆっくりと。
穏やかで楽しそうな彼の顔を仰いで、ボクオーンもそっと微笑みを浮かべた。
七英雄がスイカ割りをする話。
ワグボク成分は少なめ。
スイカ
「あれは何をしているのだ?」
海岸線に沿うように引かれた道を歩いている最中、ワグナスが尋ねてきた。
ワグナスの視線を追うと、浜辺でスイカ割りをしている若者達がいる。
「スイカ割りですね。地面にスイカを置いて、目隠しをした者が周囲の声だけを頼りに、スイカを割ることができるかを競う遊びです」
ボクオーンの説明に、ワグナスは「なるほど」と呟いて頷いた。
しかし興味を引かれているのか、視線は浜辺に釘付けのままだった。
「やってる間は笑えるけど、スイカは普通に切った方がうまいよ」
経験者らしい口ぶりで、クジンシーが笑いながら言う。
「俺がスイカを叩いたら木っ端微塵になっちまう」
「俺もだな」
ダンターグとノエルも笑う。
正直、ボクオーンも彼らの意見と同じだ。余興としては面白いが、スイカが食べたいのであれば普通に切って食べた方がいい。
だが、ワグナスがやりたいのであれば――。恋人に甘すぎる自覚はあるが、今更だ。
そっと仲間を見ると、スービエとロックブーケがこちらを見ていた。彼らも同じ気持ちのようだ。協力者がいればやりやすい。
三人は視線を交わし、そっと頷いた。
「面白そうなので、試しにスイカ割りをやってみましょうか?」
ワグナスに提案をすると、彼は一度大きく瞬きをして苦笑を浮かべる。
「いや、やめておこう。遊びに来たわけではないのだ」
相変わらず頭が硬いようだ。
だけどボクオーンは見逃さなかった。断る前にワグナスの視線が一瞬泳いだことを。ボクオーンの目を欺こうなど片腹痛い。
そっとロックブーケへ目配せを送る。彼女はその意図を察してそっと頷き、手を上げた。
「私、スイカ割りをしてみたいですわっ。やったことがありませんの」
彼女が賛成を表明すれば、おそらくノエルとクジンシーはついてくる。
「お、良いんじゃね。たまには息抜きも必要だろ」
さらにスービエがワグナスの肩を叩き、ニヤリと笑みながら追従した。
ロックブーケとスービエを見つめて頷くワグナスの口元が、わずかに微笑みの形を作っていた。
「そうか。皆が行いたいのであれば、反対はしない」
ボクオーン達三人はそっと視線を交わし、小さくガッツポーズをした。
かくしてスイカ割りが決行されることとなった。
大きな入道雲がかかる青い空。寄せては返す波の音が響く砂浜に、七英雄は遊びに来た。
午前中は泳いだり磯遊びをして楽しんだ。
そして昼食後にスイカ割りが始まった。
シートの上に置かれたスイカの表面を水滴が伝う。午前中のうちにスービエによって深海へと沈められて冷えたスイカだ。
「では、最初はワグナス殿に挑戦していただきましょう」
スイカ割りのルールは伝えた。あとは実践あるのみである。
「この布で目を覆ってください」
「ああ。……その後は、十回回ってから歩き始める、だな。君の声を頼りにさせてもらうよ」
柔らかい微笑みが眩しくて、思わず見つめ合う。
「っふざけんなっ! お前ら、なに二人の世界を作ってるんだよっ。そうじゃないだろっ。この光景が変だと思わないのかよっ」
クジンシーの叫び声が響いた。
二人の時間を邪魔されたことに舌打ちをしながら、ボクオーンは冷ややかに彼のことを一瞥した。
「全く思いません。皆を楽しませる余興だと思って、観念なさい」
クジンシーはスイカの右側に埋まっていた。開始地点から見ると、スイカとクジンシーの頭が仲良く並んでいるように見える。
「暑いし苦しいし、剣の達人の一撃を喰らったら死ぬぅぅぅ」
「じゃあ、スービエとダンターグから選んでもよろしくてよ」
「どっちも嫌に決まってるじゃないかぁぁぁ。せめてロックブーケにしてくれよっ」
「却下ですわ」
泣きながら「嫌だー」と叫ぶクジンシーがうるさくて、スイカ割りを始めることができない。
「ぶん殴って眠らせるか?」
「いやいや。それじゃあ悲鳴が聞こえなくなるから、つまんねぇだろ」
無責任なダンターグとスービエの会話が聞こえてくる。
ふいに、静観していたノエルが動いた。
「クジンシー、君をこんな目に合わせてすまない」
彼はクジンシーの傍に跪いて謝罪をした。
目に涙を溜めたクジンシーがすがる視線をノエルに向ける。しかしノエルは彼に手を貸すことはなく、スイカを挟んだ逆側に移動をした。
ノエルは場所を見定めて、気合いを入れた一突きを砂に放った。風圧で砂が持ち上がり、ズドンと低い音と共に穴が穿たれた。
「外れが片側だけではバランスが悪い。こちら側は俺が務めよう。誰か砂をかけてくれないか?」
あっけに取られた皆が固まる中、ワグナスだけが平然とした顔でノエルの元へ寄っていく。穴に入ったノエルに砂をかける彼を見ながら、ボクオーンはこめかみに手を当てて首を振った。
「えー。……とりあえず、皆でノエル殿の体を埋めることにしましょうか」
その一言で皆が我に返って動き出した。
場を整え終えて、仕切り直しとなった。
ボクオーンはワグナスの目元に白い布を巻いた。妙な背徳感に背筋がむずむずする。
スイカの両隣には、泣きそうなほどに怯えたクジンシーと、眼光鋭いノエルの頭がある。ノエルの圧が凄すぎて直視できず、そっと視線を逸らした。
「では、始めてください」
棒を持ったワグナスがその場で回転をする。
「ワグナス様、頑張ってくださいー」
「ほら、ワグナスっ。もっと高速で回れよ」
ロックブーケの応援の声と、スービエが囃し立てる声が青空の下に響く。
ボクオーンはスイカの向こう側へ移動した。
回転を終えたワグナスが歩き出す。
最初はフラフラと千鳥足だったが、すぐに足取りがしっかりとする。
「ワグナス殿、こちらですよ」
一瞬彼の動きが止まり、逸れかけていた進路を修正した。
これは良い感じなのではないかと微笑んだその時――
「ぎゃーーーー! こっちに来るなぁぁぁ! やめろぉぉ!」
クジンシーの絶叫が響いた。あまりな音量に思わず耳を塞ぐ。
「クジンシー、往生際が悪いぞ。覚悟を決めろ」
ノエルが嗜めるが、クジンシーは止まらない。
「そんな覚悟いらねぇよぉぉぉ。俺は死にたくないぃぃぃ」
ワグナスの足がうろうろと彷徨う。これでは本当にクジンシーの頭が粉砕される。
「ワグナス殿、右です。そう、そのまま真っ直ぐ」
「こっちに来るなぁ」
ボクオーンの声はクジンシーの叫びでかき消された。
こめかみに青筋が走る。誰のために声を張り上げていると思っているのだ、少しは分かれ。
せめてノエルのように圧をかけて、ワグナスに気配を悟らせろ。
「ワグナス殿、少し左です、そう、そうです。そのまま――」
クジンシーの悲鳴は止まらないが、ボクオーンの指示の通りにワグナスは進む。
「そこですっ」
その一言とともに、ワグナスは棒を振り上げ、鋭く振り下ろした。
ズシャッと小気味の良い音が響き、スイカは木っ端微塵に飛び散った。赤い果実がクジンシーに降りかかり、ちょっとしたホラーじみた有様になる。
手応えを感じたらしいワグナスが、少しだけ得意げな表情で目隠しを解いた。
そしてこの惨状を目の当たりにする。
大きく目を見開いた彼は、次の瞬間声を上げて笑い出した。
彼の珍しいその表情を、ボクオーンは眩しいものを見るように見守った。
楽しそうな彼の姿を見て、スイカ割りを提案してよかったと心の底から思った。
青空の下、仲間達はスイカを食べていた。
ダンターグ、スービエ、クジンシーが横一直線に並び、スイカの種飛ばしをしている。
「皆、楽しそうだな」
ワグナスは少し離れたパラソルの下で、自らが割ったスイカを食べていた。普段はスイカもナイフとフォークで食べる彼は、少し食べにくそうにしている。
「ナイフとフォークを持ってきましょうか?」
「いや。この拾い食いをしている感じが、少し背徳感があって楽しいよ」
シートの上のスイカをつまんで口に入れ、口角をあげていたずらっぽく笑う。
「だが、口の中の種はどうすれば良いのだ?」
「皆に混ざって種を飛ばしてみては?」
種飛ばし競争にノエルが誘われて参戦しようとしていたようだが、「下品です」とロックブーケに怒られている。
ワグナスは困ったように眉を下げていた。
さすがにそこまではできないか――。
ボクオーンは紙を差し出した。
「これに出してください」
「すまない。助かるよ」
それからしばらくの間、二人はふざけ合う仲間達と、その背後に広がる海を静かに眺めていた。
仲間達は戯れ合いながら遠くへ走っていった。声が遠くなり波の音がよく聞こえるようになる。
「スイカ割りの最中……」
おもむろに話し始めたワグナスを見上げる。
彼の視線は海のままだが、その脳裏に浮かんでいる光景はまた別なのだろう。切れ長の瞳が優しく細められた。
「クジンシーの悲鳴が響く中、君の声は私の耳に鮮明に届いていたよ」
どきりと鼓動が高鳴る。ボクオーンは何も言えず、ただ彼のことを見つめた。
「視界が覆われた闇の中で、君の声は私を導いてくれた。その声にどれほど安心したか」
その声が甘く胸に響く。その眼差しが慈しみを込めてボクオーンに注がれる。
ボクオーンは恥ずかしくなって、頬を染めながらそっと視線を逸らした。
普段は冷静でいられる自分が、彼の前では簡単に心を乱されてしまう。少しだけ悔しくて、でも甘酸っぱくて幸せな気持ちになる。
穏やかな顔のままで、ワグナスは立ち上がった。
「せっかくの海だ。皆で賑やかに過ごすのも悪くはないが、少し二人で歩こうか」
その手をボクオーンに差し伸べる。陽の光に照らされたワグナスの髪が輝きを放った。
綺麗だなと見とれながら、ボクオーンはその手を取った。
「ええ。参りましょうか」
うん、と頷いたワグナスと並んで歩き出す。手をしっかりと握ったまま、波打ち際をゆっくりと。
穏やかで楽しそうな彼の顔を仰いで、ボクオーンもそっと微笑みを浮かべた。