短編

姫はじめの話のその後のワグナスとスービエ。

姫はじめ・その後


 午前中の訓練を終え、愛用の槍の手入れをしていた時のこと。
 太陽の光で暖を取っていたというのに、唐突に影が差して、誰の仕業だとスービエは視線を上げた。
 そこにいたのは幼い頃からよく見知った顔であった。全体的にゆったりとした白を基調とする服を着込んだワグナスは身なりこそ整えているが、目の下にはくまが出来ているし頬も少し痩けているしで、憔悴の様子が見て取れた。その割には活力に満ち溢れている雰囲気がある。
 これは、昨晩はお楽しみだったのだな、とスービエは察した。
 ノーパン作戦がうまくいったのか興味はあったが、ボクオーンならばともかくワグナスにこの手の話題は厳禁だ。
「よぅ、珍しいな。どうした」
 笑顔で挨拶をすると、ワグナスのこめかみに青筋が浮かぶ。
「ボクオーンに妙なことを吹き込むのはやめてくれ。からかって遊ぶような真似はよしてほしい」
 その後は品がないだとか、過去の行いがどうとか、九割くらいどうでもいい内容を連ねあげられる。
 ワグナスは腑は煮え返っているのだろうが、語調を荒げずに淡々と語っていた。神官や教師にでも説教を食らっている気分だ。
 ぐうう、と腹が不満を訴える。
 そうだな。そろそろ昼飯の時間だよな、と腹に同意を示した。
 手を上げて制止をすると、ワグナスの言葉が止まる。
「ところで、お前ら、何日くらいやってなかった?」
 ワグナスの眉間に深い皺が刻まれ、腕を組んで沈黙をする。黙秘なのか数えているのか。
 彼の出方を待っていると、衝撃の回答を告げられた。
「ひと月……」
 驚愕のあまり思わず「ありえない」と叫んで立ち上がった。その勢いに押されて、ワグナスが一歩後ずさる。
「あのなぁ。昨日の会議中、ボクオーンはずっとお前のことを目で追っていたからな。あの朴念仁のノエルですら気付くほどだ。お前が気付かないでどうする」
「そ、それは……」
「忙しい、は、言い訳だ。どうにかしろ。あ、そうだ。まさかお前、俺が余計なちょっかいを出したことへの苛立ちをボクオーンにぶつけてないだろうな」
 ワグナスの目が泳ぐ。
 うわっ、お前まじかよとドン引きする。恋愛慣れしていない男はこれだから困ると、大袈裟にため息をついてやった。
「そんな可哀想な扱いをしてると、俺が取っちまうぞ」
 言葉の途中で殺気を感じて、条件反射で飛び退いて槍を構える。
 目前には無表情のワグナスだけがいた。
「おいっ、身内相手に殺気を飛ばすな。冗談に決まってるだろ」
 文句を言うと、彼は無言のままでそっぽを向いて去ってしまった。
 はぁ、と二度目のため息をついて構えを解いた。何か言ってから行け、子供か、と胸中で悪態をつく。
 万人を愛するよりは一人に執着している方が人間らしくて良いが、ボクオーンは大変だなと同情する。その一方で面白くなりそうでいいなと思い、ニヤリと笑うスービエであった。
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