10回目のプロポーズ
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シャボンディ諸島を離れ、別の島に停泊するまで、一週間ほどかかった。グロームはあれから目を覚まさないし、トニトルスは死んだように座り込んでいる。
この船も、しばらくはこの海域を拠点にし、騒ぎが落ち着いた頃にコーティングしに戻らなくてはならない。新世界を目前に二の足を踏みんでいるからか、ユースタスの機嫌はよろしくなさそうだ。いや、いつもこうなのかもしれないが…。
私はあてがわれた個室で、ただ生きているだけの毎日を過ごしていた。
毎日キラーが食事を与えてくれたが、ユースタスは決して現れなかった。
島に停泊し、グロームを島の病院に運び込む。わたしもここで船を降りることにした。
「本当に行くのか、財産はその財布しかないのだろう」
「ありがとうキラー、食費はいつか倍にして返すよ、部屋代と医療費も」
「そんなのは気にしなくていい」
「わたしはここのクルーでも仲間でもない。借りはきちっと返すよ。お金で払えないくらいに感謝してる」
「…俺たちもしばらくここで休むつもりだ、何かあれば頼ってくれ。キッドは、そっとしといてやろうと姿を見せないが、お前を待ってる」
「…なぜ、そんなに優しいことを言ってくれるの?」
船でも客として扱ってくれた。もう十分にしてもらった。
「…キッドの同志は、貴重だからな」
「それだけ?」
「ああ。張り合いが出て、最近のあいつは楽しそうなんだ。その礼とでも思ってくれ」
「…そう。私も今だから言えるけれど。楽しかったのよ、多分」
「ああ」
「でもユースタスには言わないわ」
「そうか」
「うん。今後どうするかは、もう少し考える。また海に出るか、辞めるのか。とりあえず、今はグロームが眼を覚ますまで待って、考えるよ」
「ああ。じゃあ、また」
「ええ…」
また、とは返せなかった。
***
「トニトルス、あんたはどうするか、決めたかい」
グロームの病室で尋ねると、狙撃手はそっと顔を向けた。
「遠くからでも船を守れるなんて言ったくせに、結局それもかなわず、一人無事に残り。俺は今、挫折してるよ、海賊として。
正直、すまない、船長。……わからない」
「謝るなよ。私こそ、わからないよ…」
やはり、グロームが起きない限りは、答えは出ない。
彼の右腕は焼け焦げて消えた。彼は熱にうなされて、点滴につながれて目を開けないまま。
もしこのまま目覚めなくても、私はこのまま老いぼれてもこの窓辺で待つような気さえした。
その時、ユースタスはどうしているだろう。見えない海の先で、栄光を手にするのか。
同じ海にいるのに、このままここにいたら、果てない、知らぬ海へ行くのだ。
「…ぅ、」
「グローム?」
彼が目覚めたのは、突然だった。
あわてた私たちは医者を呼び、それから数刻後、彼は意識を完全に取り戻した。
OKが出され、病室に飛び込んだ瞬間、そこにいたグロームは明らかに怒りの表情を浮かべていた。
「船長、なぜここにいるんだ」
「は?目覚めて一言目がそれか!?お前が心配で…」
「心配なんてすんじゃねえ!!あんたはここにいたらいけねぇんだよ!!」
掠れた声で、グロームは血管が浮き出るほど拳を握って叫んだ。
「ユースタスはいっちまったのか!?」
「いやまだ、港に…」
「すぐ追いかけろ!頭下げてでも乗れ!」
「な、なんでお前にそんなこと…」
「あんたが陸にいたら、それは俺が憧れたあんたじゃねえ!!」
「…!」
起きたばかりで大声を出し、むせる。トニトルスが駆け寄って背中をさするが、私はその場で硬直した。
「俺たちは志半ばで死んじまった。その志、あんたが諦めちまったらアイツらは成仏できねえ!!
そして…この左腕は、オスカーが守ってくれた左腕、こいつは、いつかあんたを追いかけて、高みを目指すために鍛え上げる。だから、あんたは今は前へ進むんだ…!」
ぶわっとグロームの目から涙があふれ出た。
それを見ていたら、私もやっと、涙が湧いて出てきて、だらしない顔で泣くしかできなかった。
「ユースタスがいいだなんて、俺たち全員ずっとそんな態度だったじゃねぇか。あんたの一つ目の願い、ここで叶えてあいつらの役目果たさせてやってくれ…。
言ってたぞ、ユースタスは。あんな女初めてだったんだって。だからこの先この海を渡るなら、俺が嫁にするのはあいつしかいねぇと。自分で道を切り開ける、強いお前じゃなきゃだって」
「ああ、言ってたよ。船長が酒でフラフラした後で。こっそりさ。俺もきいたよ」
私は、バカだ。
意地でチャンスを逃しかけて。
海賊を続けるかも自分で決められないなんて。
悪いなユースタス、私は自分で道を切り開ける強い女なんかじゃない。いままでずっとこいつらに支えられてきた。
だが、こいつらがいなくなった今、私は本当の意味で強くならなきゃいけない。
グロームが、この瀕死の縁から立ち上がって、また私に着いてこようと思えるようにならなきゃならない。
いままでの旅を否定なんてしたくない。
たとえ一人になっても、海を進み続けなければ、あいつらの死は、いったい何だったんだ?
「すまない、すまないグローム、私がバカだったよ…!」
「本当に、あんたは大馬鹿もんだぁ!」
私とトニトルスは、ベッドの両脇からグロームの肩に手を置き、しばらくの間大声で泣いていた。
8回目 自分には明かさなかった、本当の理由。