10回目のプロポーズ
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海賊なので興味が湧くのはわかるが、ヒューマンショップはあまり好かない。趣味が悪いし、たとえ見物でも気分が悪い。
そんなわけで翌日、わたしはトニトルスとコーティング屋の近くのカフェで、船の安全を見張っていた他の連中や昨日船につきっきりだったやつらは、面白半分にヒューマンショップの見物に出かけていった。
「トニトルス、あんたよかったの?ここに私と残って」
「狙撃手が残れば、船に不審な奴が近づいてもこっから守れるからな!」
「確かに。接近戦が得意のうちらの中じゃ、あんたの力は重宝してるよ」
「俺は唯一無二になりたくてここを選んだんだ、そうでなきゃな」
「なんだそれ」
「遠距離攻撃が得意な集団にいたら埋もれちゃうだろう。男子ってのは目立ちたいものなんだよ」
「ふ、ふふ、お陰様で助かってます」
ずいぶん面白いカミングアウトに笑う、昼下がり。
自分たちを守ってきてくれた船が、シャボン玉に包まれていく様子はファンシーすぎて不思議な感覚がする。いつも働きづめなんだし、船にも休んでもらいたい。コーティングと同時にメンテナンスも行なっており、カンカン、と金属音が響いてくる。
暖かな日差しと、シャボンと漂う音も相まって、少し眠たくなってしまう。
ここを永住地にする人や、コーティング屋の弟子につく人も、案外多いのかもしれない。
好きで航海しているとはいえ、疲れた体や心が癒されるのを感じる。もっとも、地区によってはこうはいかないのだが…。
あいつらも気色の悪いもん見てないで、ここにいたらよかったのに。
そんな時間は、突然トニトルスが立ち上がり、椅子が倒れる音でパチンと弾けた。
驚いて彼に目を向けると、目を大きく開いてカフェに設置されているモニターに釘付けになっていた。
「せ、船長…」
「なんだい急、に…」
同じくモニターを見て、唖然とした。そこに移されたのはヒューマンショップの会場。そして、なぜか倒れている天竜人と、麦わら帽子の海賊が殺気立っている様子だった。
「あいつはルーキーのモンキー・D・ルフィか…! なんだ?あいつがやったのか?あれに手を出したのか…!?」
「まさか…大将が来るぞ!」
あいつらはどこにいるんだ!
モニターは会場全体は写していない。そのカメラも、何かの力で砂嵐に変わった。
「せ、船長あいつら多分…」
「ああ、あの会場にいるぞ…すぐ行くぞ!!」
船もコーティング途中だし、どうなるかわからないが、とにかく今はみんなと合流しなくては!!
ヒューマンショップまでは、走ってもそこそこかかるだろう。私は狙われるのも承知で、雷を空に放った。せめて、混乱時でも方角が伝わればいいが…!
おそらくだが、本当にあの場所で麦わらが天竜人を倒してしまったとしたら、海軍大将や軍艦が来るだろう、会場で近くにいたとしたら巻き込まれることは間違いない。こうなって仕舞えば海軍にとっては誰がやったとかは問題じゃないのだ、その場にいた海賊は皆殺しだろう、捕まるならまだましだ。
「間に合え!間に合え…!」
その時、どこかで何か塊が倒れるような音と爆発した音が聞こえた。
「急げトニトルス!」
部下を急かし、鍵をすり抜けて走る。嫌な予感に汗がにじむ。
「ああ!」
ヒューマンショップに近づいていくと、倒れた海賊が目に入った。
「くそ!
グローム!オスカー!いるかー!!」
「プティル!いるなら返事してくれ!」
「船長!なにか光線みたいなものの焼け跡があっちまで残ってる!!」
危険度はわかりながら、その光線をたどる。そして目に移った光景は、見たことのない、地獄だった。
「せ、んちょ…」
「グローム…!?」
グロームだけじゃない、ヒューマンショップに行った全員が、その場に倒れていた。
あまりの衝撃に、汗が吹き出、体が震え、心臓が大鐘を打った。トニトルスの方が先に動いて、倒れたみんなに駆け寄る。
「なあ、おい、プティル嘘だろ?あんたがついてながら…おい、冗談はよしてくれ、こんな時に寝たふりか…?
なぁ、おい、なぁ…!なんで誰も返事してくれねぇんだ!!」
「とに、とるす…」
「グローム、あんただけなのか!?」
膝をつくトニトルス。倒れた血まみれのグロームと目が合う。その瞬間、彼の目から大粒の涙が流れた。
「…っグローム、なにが…一体なにが…」
「すまねぇ、すまねぇ船長…俺ぁ、誰も守れなかった…ビームを放つ大男がひと暴れして、こっちへ逃げてきた海賊は皆殺しだ…」
「お前、右腕が、、、」
「オスカー、すまねぇ、プティル、ああ、すまねぇ…」
逃げなくては。
わかっていても、体は動かない。
音が聞こえない気がした。
笑いあって海を渡った仲間たち。
最後に交わした言葉はなんだった?
悪趣味なショーへいってらっしゃい、だったか?
なんて、なんて呆気ない…!
「セアラ ! 」
「っ!?」
肩を強く叩かれて、周囲の音が戻った。驚いて立ち上がれば、そこにいたのはユースタスだった。かすり傷と疲労を浮かべながら、彼のこんなにも必死な顔を見たことがあろうか。
「おい!急げまた来るぞ、あのパシフィスタは!」
「ゆー、すた、す」
「お前らが預けたコーティング屋も出航できない状態だ、来い!」
「いや…嫌だ…! 置いていけない!!」
「バカか!! 死んだ奴のために死ぬな!!」
「私のクルーだ! 置いてける訳ないだろう!!」
「キッド、」
「先に行けキラー。ワイヤー、ヒート、お前らの飲み仲間を連れてけ」
ユースタスに呼ばれた二人が、瀕死のグロームを担ぐ。だが、死んだオスカーたちから目が離せない。ユースタスに痛いほど手を引かれた。
「お前に嫌われても構わねえ!!
だがお前がここでくたばるのは許せねぇ!!」
「やめろ!放せ!!
オスカー!
オスカー!!」
***
ユースタスの船に乗り込んで、後のことはあまり覚えていない。医務室に運ばれていったグロームにトニトルスが泣きながら付き添っていった。私は船長なのに、そんなことさえできずに、全速力で進む船の上から、小さくなり、やがて見えなくなったシャボンディ諸島を見つめることしかできなかった。
なにもできなかった。
あっという間だった。
麦わら。
ことの発端であるあいつにさえ、怒りなど湧かない。見てもいない敵に仲間達を奪われ、自分の不甲斐なさと悲しみだけが残った。
危険がある島だとはわかっていたはず。それなのに別行動をとったのは過ちだった。仲間も、船さえも失った。
なにもない。残ったのは傷ついた二人の部下。
「オスカー、すまない…」
お前らを守らなきゃだったのに。
食堂で、私の愚痴を聞いて微笑むオスカーの姿が浮かぶ。
医務室で必死に私を手当てしてくれた、プティル。
こんな私なんかについてきてくれたあいつら。
なにがひとつなぎの大秘宝だ。
なにが、あいつを追い抜くだ。
それ以前の問題だ。
「…セアラ、少しは落ち着いたか」
「…」
甲板の端に座り込む私に、赤い影が近づいてきて、そう言った。
「…あんたには感謝してる…。気持ちは晴れないが、私がすべきだったのは残った二人を連れて逃げることだった。
いや。あんたが来なかったら、動けないグロームさえ見殺しにしなきゃいけなかったろう。今の私は、船長失格だ」
「俺の船に乗るか?」
「…!!」
予想できない言葉ではなかったはずだ。
だが、その言葉が胸に突き刺さる。苦しくなった。あいつが本当にからかいでなく、私を好いているから出る言葉だろう。今の私に海賊団としての価値はないから。
だが、その言葉はただ、女である自分に向けられた言葉。それが、とてつもなく悔しい。
もし男だったら、あの場で助けられず死んでいたろう。そう思えば今自分が一命をとりとめたのは偶然にも女で、こいつと面識があったから、ただそれだけなのだ。
全て失った海賊にとっては、屈辱でしかない。
「悪いが、その誘いは断る。
こんなでも、失格だろうが不甲斐なかろうが、私は海賊。
そのプライドすら捨てたら、あいつらに…あいつらに顔向けできない…!」
「…そうか」
「ユースタス、あんたには感謝してる。だが、島に着いたら降りるよ」
「…わかった、好きにしろ」
7回目 命の淵にて
そんなわけで翌日、わたしはトニトルスとコーティング屋の近くのカフェで、船の安全を見張っていた他の連中や昨日船につきっきりだったやつらは、面白半分にヒューマンショップの見物に出かけていった。
「トニトルス、あんたよかったの?ここに私と残って」
「狙撃手が残れば、船に不審な奴が近づいてもこっから守れるからな!」
「確かに。接近戦が得意のうちらの中じゃ、あんたの力は重宝してるよ」
「俺は唯一無二になりたくてここを選んだんだ、そうでなきゃな」
「なんだそれ」
「遠距離攻撃が得意な集団にいたら埋もれちゃうだろう。男子ってのは目立ちたいものなんだよ」
「ふ、ふふ、お陰様で助かってます」
ずいぶん面白いカミングアウトに笑う、昼下がり。
自分たちを守ってきてくれた船が、シャボン玉に包まれていく様子はファンシーすぎて不思議な感覚がする。いつも働きづめなんだし、船にも休んでもらいたい。コーティングと同時にメンテナンスも行なっており、カンカン、と金属音が響いてくる。
暖かな日差しと、シャボンと漂う音も相まって、少し眠たくなってしまう。
ここを永住地にする人や、コーティング屋の弟子につく人も、案外多いのかもしれない。
好きで航海しているとはいえ、疲れた体や心が癒されるのを感じる。もっとも、地区によってはこうはいかないのだが…。
あいつらも気色の悪いもん見てないで、ここにいたらよかったのに。
そんな時間は、突然トニトルスが立ち上がり、椅子が倒れる音でパチンと弾けた。
驚いて彼に目を向けると、目を大きく開いてカフェに設置されているモニターに釘付けになっていた。
「せ、船長…」
「なんだい急、に…」
同じくモニターを見て、唖然とした。そこに移されたのはヒューマンショップの会場。そして、なぜか倒れている天竜人と、麦わら帽子の海賊が殺気立っている様子だった。
「あいつはルーキーのモンキー・D・ルフィか…! なんだ?あいつがやったのか?あれに手を出したのか…!?」
「まさか…大将が来るぞ!」
あいつらはどこにいるんだ!
モニターは会場全体は写していない。そのカメラも、何かの力で砂嵐に変わった。
「せ、船長あいつら多分…」
「ああ、あの会場にいるぞ…すぐ行くぞ!!」
船もコーティング途中だし、どうなるかわからないが、とにかく今はみんなと合流しなくては!!
ヒューマンショップまでは、走ってもそこそこかかるだろう。私は狙われるのも承知で、雷を空に放った。せめて、混乱時でも方角が伝わればいいが…!
おそらくだが、本当にあの場所で麦わらが天竜人を倒してしまったとしたら、海軍大将や軍艦が来るだろう、会場で近くにいたとしたら巻き込まれることは間違いない。こうなって仕舞えば海軍にとっては誰がやったとかは問題じゃないのだ、その場にいた海賊は皆殺しだろう、捕まるならまだましだ。
「間に合え!間に合え…!」
その時、どこかで何か塊が倒れるような音と爆発した音が聞こえた。
「急げトニトルス!」
部下を急かし、鍵をすり抜けて走る。嫌な予感に汗がにじむ。
「ああ!」
ヒューマンショップに近づいていくと、倒れた海賊が目に入った。
「くそ!
グローム!オスカー!いるかー!!」
「プティル!いるなら返事してくれ!」
「船長!なにか光線みたいなものの焼け跡があっちまで残ってる!!」
危険度はわかりながら、その光線をたどる。そして目に移った光景は、見たことのない、地獄だった。
「せ、んちょ…」
「グローム…!?」
グロームだけじゃない、ヒューマンショップに行った全員が、その場に倒れていた。
あまりの衝撃に、汗が吹き出、体が震え、心臓が大鐘を打った。トニトルスの方が先に動いて、倒れたみんなに駆け寄る。
「なあ、おい、プティル嘘だろ?あんたがついてながら…おい、冗談はよしてくれ、こんな時に寝たふりか…?
なぁ、おい、なぁ…!なんで誰も返事してくれねぇんだ!!」
「とに、とるす…」
「グローム、あんただけなのか!?」
膝をつくトニトルス。倒れた血まみれのグロームと目が合う。その瞬間、彼の目から大粒の涙が流れた。
「…っグローム、なにが…一体なにが…」
「すまねぇ、すまねぇ船長…俺ぁ、誰も守れなかった…ビームを放つ大男がひと暴れして、こっちへ逃げてきた海賊は皆殺しだ…」
「お前、右腕が、、、」
「オスカー、すまねぇ、プティル、ああ、すまねぇ…」
逃げなくては。
わかっていても、体は動かない。
音が聞こえない気がした。
笑いあって海を渡った仲間たち。
最後に交わした言葉はなんだった?
悪趣味なショーへいってらっしゃい、だったか?
なんて、なんて呆気ない…!
「セアラ ! 」
「っ!?」
肩を強く叩かれて、周囲の音が戻った。驚いて立ち上がれば、そこにいたのはユースタスだった。かすり傷と疲労を浮かべながら、彼のこんなにも必死な顔を見たことがあろうか。
「おい!急げまた来るぞ、あのパシフィスタは!」
「ゆー、すた、す」
「お前らが預けたコーティング屋も出航できない状態だ、来い!」
「いや…嫌だ…! 置いていけない!!」
「バカか!! 死んだ奴のために死ぬな!!」
「私のクルーだ! 置いてける訳ないだろう!!」
「キッド、」
「先に行けキラー。ワイヤー、ヒート、お前らの飲み仲間を連れてけ」
ユースタスに呼ばれた二人が、瀕死のグロームを担ぐ。だが、死んだオスカーたちから目が離せない。ユースタスに痛いほど手を引かれた。
「お前に嫌われても構わねえ!!
だがお前がここでくたばるのは許せねぇ!!」
「やめろ!放せ!!
オスカー!
オスカー!!」
***
ユースタスの船に乗り込んで、後のことはあまり覚えていない。医務室に運ばれていったグロームにトニトルスが泣きながら付き添っていった。私は船長なのに、そんなことさえできずに、全速力で進む船の上から、小さくなり、やがて見えなくなったシャボンディ諸島を見つめることしかできなかった。
なにもできなかった。
あっという間だった。
麦わら。
ことの発端であるあいつにさえ、怒りなど湧かない。見てもいない敵に仲間達を奪われ、自分の不甲斐なさと悲しみだけが残った。
危険がある島だとはわかっていたはず。それなのに別行動をとったのは過ちだった。仲間も、船さえも失った。
なにもない。残ったのは傷ついた二人の部下。
「オスカー、すまない…」
お前らを守らなきゃだったのに。
食堂で、私の愚痴を聞いて微笑むオスカーの姿が浮かぶ。
医務室で必死に私を手当てしてくれた、プティル。
こんな私なんかについてきてくれたあいつら。
なにがひとつなぎの大秘宝だ。
なにが、あいつを追い抜くだ。
それ以前の問題だ。
「…セアラ、少しは落ち着いたか」
「…」
甲板の端に座り込む私に、赤い影が近づいてきて、そう言った。
「…あんたには感謝してる…。気持ちは晴れないが、私がすべきだったのは残った二人を連れて逃げることだった。
いや。あんたが来なかったら、動けないグロームさえ見殺しにしなきゃいけなかったろう。今の私は、船長失格だ」
「俺の船に乗るか?」
「…!!」
予想できない言葉ではなかったはずだ。
だが、その言葉が胸に突き刺さる。苦しくなった。あいつが本当にからかいでなく、私を好いているから出る言葉だろう。今の私に海賊団としての価値はないから。
だが、その言葉はただ、女である自分に向けられた言葉。それが、とてつもなく悔しい。
もし男だったら、あの場で助けられず死んでいたろう。そう思えば今自分が一命をとりとめたのは偶然にも女で、こいつと面識があったから、ただそれだけなのだ。
全て失った海賊にとっては、屈辱でしかない。
「悪いが、その誘いは断る。
こんなでも、失格だろうが不甲斐なかろうが、私は海賊。
そのプライドすら捨てたら、あいつらに…あいつらに顔向けできない…!」
「…そうか」
「ユースタス、あんたには感謝してる。だが、島に着いたら降りるよ」
「…わかった、好きにしろ」
7回目 命の淵にて