10回目のプロポーズ
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「船長、今日は簪つけてないんですか?」
「おはよーオスカー」
「おはようございます」
「今日はシャボンディに着くだろう? デカい街だし、海賊もたくさんいるし、落としたらと思うとな」
「たしかに船で落とす分には誰か見つけてくれますが、島じゃそうはいきませんからね」
「そうそう」
白々しくそう答えたが、ユースタスに会ってしまった時、これをしている姿を見られたくないと思っているのが本音だ。
私たちは今日、偉大なる航路の中間地点に到着する。既に島は遠目に見えている。
「船長、本当に気に入って買ったんですね」
「ああ、まあ、たまには、ね」
また、白々しく言う。本当は私が買ったんじゃない。たぶんだが、ユースタスはあの日私がこの簪を店でつけているのを、見ていたんだと思う。偶然やタイミングに驚きはしたが、それ以上にやはり欲しかったいう気持ちがぶり返して、結局ありがたく頂戴してしまった。
本当はつけている姿を見せるのが、送り主に対する礼なのだろうが、照れくささみたいなものがそれを阻む。
「はぁ、こんな十代の女の子みたいなことしてる場合じゃないのになぁ」
「え?」
「なんでもない。お前ら! 上陸準備の時間だ!」
手を叩きながら、クルーたちを促した。
**
「この街には、天竜人も、ルーキーたちもいる。何かしでかせば海軍も強い奴らも寄ってくる。てなわけで、お静かに過ごすようにお願いしたい」
シャボンディ諸島は噂通り、地面からシャボンが湧いて出る不思議な島だった。何人かが船のコーティングに言ってくれることになり、残りは船を降りて探索をすることになった。
ざっと島を見るだけでも、手配書で顔くらいは見たことのある連中がごろごろいた。普段ならば喧嘩になりかねないが、暗黙のおきてでお互い知らないふりをする。
「船長、なに食います?」
「なにがいいかなぁ、大体のものはコックが作ってくれるしなぁ。まあ、やっぱり肉は食べたいね」
「海じゃ魚は釣れても、肉は釣れませんからね」
海賊にとって魚介類なんて、当たり前の食事なのだ。
肉料理の店を選び、遠慮するなと皆に言う。運ばれてきた肉料理を皆で食べる。
「船長、食ったら探しに行かなきゃなあ!」
「ん?」
「あんたの旦那をよ!」
「グローム、もう酒入ってんのかい」
「だってよ、こんなに海賊だらけの街なんて、今後ないだろうしよ」
そのとおり、とプティルのやつがヤジを入れる。
「だがいったい、この中のどれだけが本気でアレを探そうとしているのか、疑わしいところだよ」
「あんたが一緒に航海しながら本気にさせりゃいいじゃねぇか」
「はあ? 嫌だよそんなの。最初からガッツのある男がいい」
「ほほぉ、そりゃあいいことを聞いた」
反射的にフォークを背後に投げつけた。だが金属はその男に歯向かうことはなく、床に落とされた。きたな、こいつ…
「アレを本気で探していてガッツのある男だとよ、キラー。俺だよな」
「違いない」
「いや違うから」
「ふっ、照れやがって、おいお前らこの店にすんぞ」
「ちょっと勝手にこっちに座るな!」
「船長良かったなぁ、ダンナ候補が自らお見えになったぜ」
「グロームお前覚悟しとけよ」
ひゅ~と口笛を吹きどこ吹く風の部下に一瞬こぶしを握るが、思いなおしてやめておく。店で騒ぐのは主義じゃないんでな。
ユースタスのクルーたちも続々店に入ってきて、いつだかの島での光景を思い出す。さすがに3億の男がきたからか、ほかの海賊はいつのまに居なくなっていた。
ユースタスは図々しく私のクルーたちをかき分けて、私の隣にどっかり腰かける。クルーたちもむしろ、どうぞどうぞと席を寄せて、ユースタスのクルーたちを間に座らせ始めるのだから、どうしようもない。
「しっかし、おいお前なんて言ったっけ」
「俺かい? 俺はオスカー、でこっちがグローム」
「お前ら二人、苦労するだろう、こんな強気の船長で」
「お前に言われたくねぇけども!」
「いや、船長、あんたはユースタスの言う通り強気で俺たちゃ苦労してるぜ」
「おいなんでそっち側につくんだ」
グロームの言葉に、オスカーが小さく笑った。
「だがそんな船長に心底惚れてるよ」
「奇遇だな、俺もだ」
「ねぇなぜか全然嬉しくない」
グロームとユースタスは肩を叩きあって笑う。
まったく、不愉快な連中だ。
だが、本気なのかそうじゃないのかわからない連中と居るよりは気が楽な気がする。
「お前らこの後どうすんだ?」
「コーティングが終わったらさっさと魚人島にいって新世界入りするわよ」
「んなこと分かってんだよ。それまでだ」
「プライベートな質問はお控えください」
顔の前に手を突き出して言うと、ユースタスのクルーたちが面白そうに笑った。
「キッドの頭、相変わらずですね」
「うるせぇ、簡単に口説き落とせる女にゃ興味ねぇよ」
「ハラタツなその言い草」
「で、俺たちはこの後見物にヒューマンショップにでも行くが、どうだ?」
「はぁ? 最悪のデートスポットじゃない」
「俺は別にデートで、とは言ってないぜ」
「なっ…! あんたの妙な調子に流されただけだし!」
なんなんだもう!
にんまりと弧を描く赤い口が小憎たらしい。
「でも船長、ヒューマンショップの会場には色々な海賊もいるし、なかなか見ものだとは思いますよ」
「トニトルスあんた悪趣味だね」
「珍しいじゃないか、どうどうと開催してるヒューマンショップなんて。海賊だって目ぇつけられない場所なんだし」
「まあそれもそうだね。明日行きたい奴らでいけばいいよ」
「えー船長こないんですかー?」
「だって興味ないし」
「じゃあ俺とデートか」
「あの、ユースタスさん黙ってもらえますぅ?」
「いつまでユースタスだなんて他人行儀な呼び方してんだ、キッドと呼べ」
「ぜってぇに イ ヤ 」
否定しているのに、ユースタスは言いあうのが楽しいとでも言いたげな顔だ。あいつのクルーたちも私たちのやり取りを面白そうに見ていて。
はじめはこんなつもりじゃなかったんだけどなぁ。
「殺戮武人」
「?」
「今回はウチのおごりだ。らしくもないが、無事ここまで来たことを互いに祝おうじゃないか」
「おいなんでキラーに言うんだ」
「あんたの船の財布握ってるの、彼かなと思って」
「違いない」
「アネさん、ゴチになります」
「ちょっと網タイツ! アネさんて何!?」
やはりなんだかんだ、同志といるのは、この海の上では心地よいのだ。
6回目 シャボンディ諸島にて