10回目のプロポーズ
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最後に会ってから3か月以上はたった。
旅をしている以上、3ヵ月前なんてそれほど昔のことには感じないけれど、港に停泊する派手な船を見て、久しいなと思う。
あの日以来、でんでんむしはまた眠ったままだ。
「船長、久しぶりに普通の町なんだ、たまには遊びに行って来てくれ」
船医のプティルが、上陸の準備を終えるころにそう言ってきた。
「いいよ私は」
「この前デカい船を落として金も入ったんだから、たまにはこう、ショッピングなんかもいいとおもわねえかい?」
「まあ、たしかにそろそろ補充したいものもあるが…」
プティルにはいろいろと想像がつくのだろう。男には必要がなくても、女にはどうしても必要はものがいくつかあることが。そういった類のものは、やはり自分で仕入れるのが一番いい。
「お言葉に甘えて行って来ようかな」
「甘えるも何も、本来船長はこういう時一番遊び倒す権利があるんだけどなあ」
「船を守るのが船長の役目ともいえるけど」
「まあまあ」
とりあえず今日は、プティルの気遣いに甘えることにしよう。
**
活気のある街、派手な装備は外して出かけたから、私も一般人に紛れていることだろう。
生活に関わるものは最優先に買うべきとは思うが、久しぶりに雑貨などを見て回る。
なかなか誰かと一緒に下船すると、こういう店は入りにくいのだ。
なんて事のないガラス細工、可愛らしい置物、レースの服。
どうせ壊してしまうから買って帰る事はないが、見るのは好きだ。
それに婚活婚活と言いながら今更だろうけれど、あまり女らしいところを仲間たちに見せたくない気持ちもある。あいつらの前では、しっかり船長でいたいのだ。
「お姉さん、気になるならつけてみなよ」
考え事をしながら、とあるアクセサリーの前で立ち止まっていると、店員のお兄さんに声をかけられた。
「悪いけれど、私はこう見えてガサツな職業でね、買う気はないのよ」
「いいじゃないか別に、簪なんてうまく差せばそうそうとれないよ。それに、それすごくお姉さんに似合いそうなんだ。買わなくていいから、つけているところを見せてよ」
「商売上手だな、さては」
「本当のことさ」
愛嬌のある店員だ。たぶん彼はこんな風にして売り上げを上げているのだろう。それに付き合って、彼に任せて髪を結わえ、簪をつけてみる。背後から鏡を差し出され、前方の大きな鏡から後頭部が見えた。
私の髪に、赤い石をデザインの基盤にした繊細な簪がつけれられいる。店内を照らす電球に反応して、ちらちらと火花を散らすような輝きだ。
「きれいでしょう、これ。石の内部がすこし歪んでいるんだ。だからまっさらで美しい石にはない輝きがある。お姉さんのメラメラしている瞳に似ているよ」
「あら、そう見えたの?」
「お姉さん…なんとなくだけど、もしかして海賊…?」
「ふふ、それは秘密」
お兄さんははにかんだ。
結局、あの簪は買えなかった。とても気に入ったけれど、それだけに壊したくないような気がして。お兄さんは残念そうだったけれど、そういってもらえるのも職人としては嬉しいよと笑っていた。
後ろ髪をひかれながら必需品を買い込み、店員にチップを渡す代わりに船まで運ばせる。買えるときにまとめて買っておく方がいい、海は何があるかわからない。そうしているうちに昼を裕に過ぎてしまった。そろそろ休憩したい。夜は酒場、昼はカフェを経営する店を見つけ、中に入った。
偶然というのは結構なものだ。同じ島にいるのだから偶然というレベルではないのかもしれないけれど…。カフェにいるというイメージはあいつにはないが、夜は酒場に早変わりする店だ、多分あいつは夜を待っているのだろう。
私はいつの間に、お好きな席へ、と店員に言われ、奥へ進んでいた。
「コーヒーって顔じゃないのにね」
「……、俺だって飲むことくらいある」
深紅の暑苦しいコートに身を包んだ、懸賞金3億の男がそこに座っていた。
「座ってもいいのかしら?」
わざとらしく聞いてやると、ユースタスは店員を呼びつけ、私の分のコーヒーを注文した。
席に着いてすぐ、アイスコーヒーが運ばれてくる。
「久しぶりね」
「ああ、そうだな」
なんだか嫌に冷静な感じで、調子が狂う。いつもならあいつが話し出すのだけれど、今日はさっぱりで、航路は結局それたりしないのね、とかそんなことを私が話していた。
「この調子ならこの先もあんたたちには出会いそうね」
「そうだな」
「…そういえば、殺戮武人や網タイツ君たちは元気なの?」
「あいつらはいいが、ヒートのやつが調子悪そうだったな」
「火を吹く彼ね。あー、私と彼の能力って似てるじゃない? だから少し気になるのよ、戦い方とか」
「あいつは真正面から火ぃ吹くだけだ」
「そう…」
なんだろう、この空回ってるいる感じ。よくよく考えたら、話したことがあるのではなくて、話してもらったことがあるという方が正しかったのかもしれない。そう思うほど、会話がうまく続かない感じがした。
調子でも悪いのか、でもそんなこと、聞けるわけもない。
三億の海賊にもなると、黙って威厳を示すものなのかもしれない。
私と遊びのような口論などする暇もないのかもしれない。
女でも、できたのかもしれない。
全部どうでもいい、私には関係のないことだけけれど。
どれかしら当てはまるなら、張り合いがなくなったというか、すこし物足りない気さえする。
「セアラ」
「え?」
「急に黙って、なんかあったか」
「何かあったかっていうか、むしろあなたが…なんとうか…」
「静かで調子狂うってか?」
「そうそう、って自覚あるの!?」
いつもと様子が違う自覚があるなら、たちが悪い。そんなのわざとやっているみたいじゃない。
ユースタスは口元を抑えると、赤い口元を釣り上げておかしそうに笑った。
「お前、自分からここへ来た割に、いやに話がぎこちねぇじゃねぇか」
「うるわいわね。普段おしゃべりなあんたが静かだから気を遣っちゃったじゃない」
「気を遣うのか、海賊の女が」
「あー!もう!ハラタツ!」
「だが予想外に効いたようだな、押してダメなら引いてみろ作戦」
「別にそういう意味じゃないから! あー!くそ!」
色々考えちゃったけど、全部一時の気の迷いだ!
「帰る!」
「おいおい、まだコーヒー残ってんぞ。あと数時間待てば酒も飲める」
「お前のおごりでも飲まん!」
「つれねぇなぁ、まあいい。これだけ持っていけ」
「怪しい」
ユースタスは立ち上がろうをする私の手を掴むと、なにか茶色い紙袋を握らせた。突き返そうとしたが、やはり力では勝てず、しぶしぶ受け取る。
「ここへ来る前仕入れたばっかりだ、小細工してる時間はねぇよ」
「時間あったら小細工してたんだ」
「そうひねくれんな」
一番ひねくれる顔の男には言われたくない。
「次はたぶんシャボンディ諸島で会うだろう。デート楽しみにしてるぜハニー」
「誰が! 船を全速力で飛ばしてやるアバヨ!」
「おお、またな」
また、なんて本来海賊同士が口にする言葉ではないのだけれど。
あいつは楽しそうにそれを口にして、余裕そうに珈琲をすすった。
五回目、カフェにて。
旅をしている以上、3ヵ月前なんてそれほど昔のことには感じないけれど、港に停泊する派手な船を見て、久しいなと思う。
あの日以来、でんでんむしはまた眠ったままだ。
「船長、久しぶりに普通の町なんだ、たまには遊びに行って来てくれ」
船医のプティルが、上陸の準備を終えるころにそう言ってきた。
「いいよ私は」
「この前デカい船を落として金も入ったんだから、たまにはこう、ショッピングなんかもいいとおもわねえかい?」
「まあ、たしかにそろそろ補充したいものもあるが…」
プティルにはいろいろと想像がつくのだろう。男には必要がなくても、女にはどうしても必要はものがいくつかあることが。そういった類のものは、やはり自分で仕入れるのが一番いい。
「お言葉に甘えて行って来ようかな」
「甘えるも何も、本来船長はこういう時一番遊び倒す権利があるんだけどなあ」
「船を守るのが船長の役目ともいえるけど」
「まあまあ」
とりあえず今日は、プティルの気遣いに甘えることにしよう。
**
活気のある街、派手な装備は外して出かけたから、私も一般人に紛れていることだろう。
生活に関わるものは最優先に買うべきとは思うが、久しぶりに雑貨などを見て回る。
なかなか誰かと一緒に下船すると、こういう店は入りにくいのだ。
なんて事のないガラス細工、可愛らしい置物、レースの服。
どうせ壊してしまうから買って帰る事はないが、見るのは好きだ。
それに婚活婚活と言いながら今更だろうけれど、あまり女らしいところを仲間たちに見せたくない気持ちもある。あいつらの前では、しっかり船長でいたいのだ。
「お姉さん、気になるならつけてみなよ」
考え事をしながら、とあるアクセサリーの前で立ち止まっていると、店員のお兄さんに声をかけられた。
「悪いけれど、私はこう見えてガサツな職業でね、買う気はないのよ」
「いいじゃないか別に、簪なんてうまく差せばそうそうとれないよ。それに、それすごくお姉さんに似合いそうなんだ。買わなくていいから、つけているところを見せてよ」
「商売上手だな、さては」
「本当のことさ」
愛嬌のある店員だ。たぶん彼はこんな風にして売り上げを上げているのだろう。それに付き合って、彼に任せて髪を結わえ、簪をつけてみる。背後から鏡を差し出され、前方の大きな鏡から後頭部が見えた。
私の髪に、赤い石をデザインの基盤にした繊細な簪がつけれられいる。店内を照らす電球に反応して、ちらちらと火花を散らすような輝きだ。
「きれいでしょう、これ。石の内部がすこし歪んでいるんだ。だからまっさらで美しい石にはない輝きがある。お姉さんのメラメラしている瞳に似ているよ」
「あら、そう見えたの?」
「お姉さん…なんとなくだけど、もしかして海賊…?」
「ふふ、それは秘密」
お兄さんははにかんだ。
結局、あの簪は買えなかった。とても気に入ったけれど、それだけに壊したくないような気がして。お兄さんは残念そうだったけれど、そういってもらえるのも職人としては嬉しいよと笑っていた。
後ろ髪をひかれながら必需品を買い込み、店員にチップを渡す代わりに船まで運ばせる。買えるときにまとめて買っておく方がいい、海は何があるかわからない。そうしているうちに昼を裕に過ぎてしまった。そろそろ休憩したい。夜は酒場、昼はカフェを経営する店を見つけ、中に入った。
偶然というのは結構なものだ。同じ島にいるのだから偶然というレベルではないのかもしれないけれど…。カフェにいるというイメージはあいつにはないが、夜は酒場に早変わりする店だ、多分あいつは夜を待っているのだろう。
私はいつの間に、お好きな席へ、と店員に言われ、奥へ進んでいた。
「コーヒーって顔じゃないのにね」
「……、俺だって飲むことくらいある」
深紅の暑苦しいコートに身を包んだ、懸賞金3億の男がそこに座っていた。
「座ってもいいのかしら?」
わざとらしく聞いてやると、ユースタスは店員を呼びつけ、私の分のコーヒーを注文した。
席に着いてすぐ、アイスコーヒーが運ばれてくる。
「久しぶりね」
「ああ、そうだな」
なんだか嫌に冷静な感じで、調子が狂う。いつもならあいつが話し出すのだけれど、今日はさっぱりで、航路は結局それたりしないのね、とかそんなことを私が話していた。
「この調子ならこの先もあんたたちには出会いそうね」
「そうだな」
「…そういえば、殺戮武人や網タイツ君たちは元気なの?」
「あいつらはいいが、ヒートのやつが調子悪そうだったな」
「火を吹く彼ね。あー、私と彼の能力って似てるじゃない? だから少し気になるのよ、戦い方とか」
「あいつは真正面から火ぃ吹くだけだ」
「そう…」
なんだろう、この空回ってるいる感じ。よくよく考えたら、話したことがあるのではなくて、話してもらったことがあるという方が正しかったのかもしれない。そう思うほど、会話がうまく続かない感じがした。
調子でも悪いのか、でもそんなこと、聞けるわけもない。
三億の海賊にもなると、黙って威厳を示すものなのかもしれない。
私と遊びのような口論などする暇もないのかもしれない。
女でも、できたのかもしれない。
全部どうでもいい、私には関係のないことだけけれど。
どれかしら当てはまるなら、張り合いがなくなったというか、すこし物足りない気さえする。
「セアラ」
「え?」
「急に黙って、なんかあったか」
「何かあったかっていうか、むしろあなたが…なんとうか…」
「静かで調子狂うってか?」
「そうそう、って自覚あるの!?」
いつもと様子が違う自覚があるなら、たちが悪い。そんなのわざとやっているみたいじゃない。
ユースタスは口元を抑えると、赤い口元を釣り上げておかしそうに笑った。
「お前、自分からここへ来た割に、いやに話がぎこちねぇじゃねぇか」
「うるわいわね。普段おしゃべりなあんたが静かだから気を遣っちゃったじゃない」
「気を遣うのか、海賊の女が」
「あー!もう!ハラタツ!」
「だが予想外に効いたようだな、押してダメなら引いてみろ作戦」
「別にそういう意味じゃないから! あー!くそ!」
色々考えちゃったけど、全部一時の気の迷いだ!
「帰る!」
「おいおい、まだコーヒー残ってんぞ。あと数時間待てば酒も飲める」
「お前のおごりでも飲まん!」
「つれねぇなぁ、まあいい。これだけ持っていけ」
「怪しい」
ユースタスは立ち上がろうをする私の手を掴むと、なにか茶色い紙袋を握らせた。突き返そうとしたが、やはり力では勝てず、しぶしぶ受け取る。
「ここへ来る前仕入れたばっかりだ、小細工してる時間はねぇよ」
「時間あったら小細工してたんだ」
「そうひねくれんな」
一番ひねくれる顔の男には言われたくない。
「次はたぶんシャボンディ諸島で会うだろう。デート楽しみにしてるぜハニー」
「誰が! 船を全速力で飛ばしてやるアバヨ!」
「おお、またな」
また、なんて本来海賊同士が口にする言葉ではないのだけれど。
あいつは楽しそうにそれを口にして、余裕そうに珈琲をすすった。
五回目、カフェにて。