10回目のプロポーズ
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無人島で酔いつぶれた私の海賊団と、キッド海賊団は、翌日の昼頃ひどい二日酔いに悩まされながら出航した。一応少し出航時間はずらした。航路上、同じところから同じ時間に出ればおそらくログは同じ方向を指すだろう。そんなのはつまらない。私たちはその晩に、島の逆側まで迂回してからの出航になった。
「さー、次はどんな島かな」
ようやく二日酔いもぬけてきたところで、クルーたちはまた酒に浸りだす。いい加減に学習すればいいのだが、海賊はそういうものだ。
「しっかし昨日は、船長とユースタス、かなり盛り上がってたなあ」
「はあ? 盛り上がってないわよ。八割喧嘩」
「俺はお似合いかなって思ったけどなぁ」
「トニトルス、頭もぐよ」
「怖い怖い」
「だが一度はあいつにボロボロにされたんだ。そんな相手と呑んでるんだから生来気は合うんじゃないのか?」
オスカーが言いながら酒をあおる。
「船長何回求愛されたんだ?」
「あ? 毎回だ毎回。なめ腐りやがって」
「しっかし船長も気難しいよなあ。自分より強くなくちゃだめだっつって、いざその相手が見つかったら喧嘩して」
「あのね、自分より強ければ誰でもいいなんて言った覚えはないわけ」
「俺、ユースタスいいとおもうけどなぁ…」
「そんなに言うならトニトルス、お前がユースタスと結婚しろ」
「いやいや無茶言わんでくだせえ…」
トニトルスは顔を青くしていった。顔青くするような相手を人に勧めるもんじゃあない。
トニトルスの顔が面白くて肩を震わせて笑っていると、不意に上着に違和感を感じた。なんだかつっぱつような感覚だ。ポケットにかさばるものでも入れたろうかと手を突っ込むと、予想外のものが入っていた。
***
三回会ったとはいえ、前回故意的に航路をずらそうとしたおかげなのか、あれから数か月、ユースタスとは会っていない。
その間、私は上着のポケットに隠れていたアレを使うことができず、自室のテーブルに置き去りにしている。
ポケットに入っていたのは腹の立つ顔をしたでんでんむしだった。持ち主にそっくりの真っ赤なそいつは、まだ目を開けたことがない。最初のころはどうしたもんかと思い悩んでいたが、あちらが鳴らさないのだからと放置している。心の隅に引っかかってはいるが、相変わらずそのままだ。部屋に入るたび必要とされないそいつが目に留まる。クルーたちには慌てて隠して、でんでんむしの存在は隠している。
あの男のことはいけ好かない。謎の求婚も私を馬鹿にしているみたいで腹立たしい。ただ、1つ心に残っている。
ひとつなぎの大秘宝を語るあいつの姿。
極悪非道を絵にかいたような姿なのに、あのときのあいつは少年のような目をしていた。年齢は私と大差ないのだろうが、そう見えた。その目が、今も忘れられない。
「船長! 見てくだせぇこれ!」
部屋で物思いにふけっていると、外からグロームの声が聞こえた。返事をすると、扉が開いて手配書を持って入ってきた。
「ユースタスの手配書が更新されたんですよ」
「ほっほお? あいつは何をやらかしたんだいったい……さ、3億1千500万……マジで何をしたらこうなるんだ…?」
「立ち寄った島の海軍駐屯地をすべて破壊して回ってたとか」
「それで最近妙に海軍が少なかったのか……」
あいつの能力を使えば、海軍駐屯地のひとつやふたつ、なんてことはないだろう。遊ぶようなものだ。それでもわざわざ潰して回っているのは、こうして懸賞金を上げることでより強い相手と出会おうというのが目的のように思える。
「追い抜いてやるって思っていたが、並大抵じゃいかないな」
「今回の更新で、懸賞金1憶を超えた海賊たちが超新星と呼ばれているらしい」
「あんなのがごろごろいるのか、おそろしいねえ」
「良かったじゃねぇか、船長」
「は?」
「まだまだあんたより強い男はいる…チャンスはまだあるぜ…!」
「って婚活の話かい!」
ソワソワとそういったグロームに、思わず突っ込んだ。
「何度言わせるんだい! もう婚活はついでだって!」
「ほしいものすべて手に入れるのが海賊じゃねぇか! たとえついででも、ほしいと思ってるなら手に入れてこそ船長よ!」
「地味に説得力はあるな!」
グロームの言うことは分かるが…。そろそろ、グランドライン中間地にあたるシャボンディ諸島も近くなってきた。つまり。
「新世界が近づいて来てるっていうのに、婚活してる余裕は残念ながら今の私にはない」
「だからこそだ。海賊と結婚すりゃあ、お互いが統合して戦力2倍、新世界を生き抜くために同盟を組む海賊団も少なくねえ。船長は念願の王子と結ばれ海賊団は強化され、一石二鳥!」
「今日はやけに頭が回るんだなお前…」
「どうしても船長の花嫁姿が見たい! …ん?」
とんでもないことをデカい声で言ったグロームは、急に静かになって目を細めた。
「なんだい今度は」
「あ、ありゃあ…」
「…?」
「船長…それならそうと言ってくれりゃあ…」
「な、なんだよ…」
「オスカー! 宴だー! 船長俺たちに内緒で付き合ってやがった!!」
突然何とんでもないことを言い出すんだ!
グロームがよろよろとテーブルに近づく。
彼が手に持ったのは真っ赤なアレ。
ああ、しまった、わすれていた。アレをしまうのを。
「どどどどどうしたグローム! どういうことだ!!」
「オスカー落ちつけ、一度も使ってない」
「ゆ、ユースタスのでんでんむし…!」
「だから、いちども、つかってないんだって! あいつが勝手に私の上着のポケットに入れたんだ」
「なのに一度も使っていないんですか」
大慌てで来てグロームと一緒に騒ぎ立てるかと思いきや、オスカーはじっとでんでんむしを見つめる。そしてガクっと唐突に膝をついた。
「船長、一度くらいつかってやってくださいよ…」
「お前は誰の味方なんじゃ!」
「え、だってあれ以来ですよね? ユースタスのやつ、ずっと待ってるんじゃないんですか…さすがに不憫ですよ、せっかく懸賞金も上がったんだから電話かけてあげましょうよ」
「あ、おい勝手に触るな!」
『ぷるぷるぷる』
「ああ! かかっちゃったじゃないの!」
「さぁグローム行くぞ! 俺たちにできるのはここまで…」
『ぷるぷるぷる』
「船長、しっかり、な」
「おいなんだそのグッドサインは!」
『がちゃ』
「!!」
手を伸ばして二人を止めようとしたのだが、その瞬間電話がつながってしまった。グロームとオスカーはにやにや笑いながらさっさと部屋を出て行く。突然訪れた沈黙。
「……」
『……』
「……」
『……おい、かけといて無言はねえだろうが』
「不可抗力だった」
『まさか今までポケットにしまいっぱなしだったなんて』
「ことは、ない。」
『だよなあ。まあいい、かかってくりゃあ儲けくらいに思ってたからな』
「女性のポケットに手を突っ込むとは、悪趣味」
ふ、とでんでんむしの向こうでかすかな笑い声がする。
話題があったわけでもなく、暫し沈黙が続く。椅子にでも腰かけるように、布ずれの音が聞こえる。
『お前、今どこにいんだよ。いつ結婚してくれんだぁ?』
「海。結婚はしない」
『おおざっぱすぎるだろ』
「うそはついてないじゃない」
『大雑把に言えば、同じところにいるようなもんか。俺も今海だ』
自分で言いだした雑な答えだけれど、つい笑みがこぼれてしまった。あちらに漏れていないといいけれど。
「じゃあ、またね」
『がちゃ』
これ以上話していると、なれ合いになると思って受話器を置いた。
四回目、同じ海にて。
「さー、次はどんな島かな」
ようやく二日酔いもぬけてきたところで、クルーたちはまた酒に浸りだす。いい加減に学習すればいいのだが、海賊はそういうものだ。
「しっかし昨日は、船長とユースタス、かなり盛り上がってたなあ」
「はあ? 盛り上がってないわよ。八割喧嘩」
「俺はお似合いかなって思ったけどなぁ」
「トニトルス、頭もぐよ」
「怖い怖い」
「だが一度はあいつにボロボロにされたんだ。そんな相手と呑んでるんだから生来気は合うんじゃないのか?」
オスカーが言いながら酒をあおる。
「船長何回求愛されたんだ?」
「あ? 毎回だ毎回。なめ腐りやがって」
「しっかし船長も気難しいよなあ。自分より強くなくちゃだめだっつって、いざその相手が見つかったら喧嘩して」
「あのね、自分より強ければ誰でもいいなんて言った覚えはないわけ」
「俺、ユースタスいいとおもうけどなぁ…」
「そんなに言うならトニトルス、お前がユースタスと結婚しろ」
「いやいや無茶言わんでくだせえ…」
トニトルスは顔を青くしていった。顔青くするような相手を人に勧めるもんじゃあない。
トニトルスの顔が面白くて肩を震わせて笑っていると、不意に上着に違和感を感じた。なんだかつっぱつような感覚だ。ポケットにかさばるものでも入れたろうかと手を突っ込むと、予想外のものが入っていた。
***
三回会ったとはいえ、前回故意的に航路をずらそうとしたおかげなのか、あれから数か月、ユースタスとは会っていない。
その間、私は上着のポケットに隠れていたアレを使うことができず、自室のテーブルに置き去りにしている。
ポケットに入っていたのは腹の立つ顔をしたでんでんむしだった。持ち主にそっくりの真っ赤なそいつは、まだ目を開けたことがない。最初のころはどうしたもんかと思い悩んでいたが、あちらが鳴らさないのだからと放置している。心の隅に引っかかってはいるが、相変わらずそのままだ。部屋に入るたび必要とされないそいつが目に留まる。クルーたちには慌てて隠して、でんでんむしの存在は隠している。
あの男のことはいけ好かない。謎の求婚も私を馬鹿にしているみたいで腹立たしい。ただ、1つ心に残っている。
ひとつなぎの大秘宝を語るあいつの姿。
極悪非道を絵にかいたような姿なのに、あのときのあいつは少年のような目をしていた。年齢は私と大差ないのだろうが、そう見えた。その目が、今も忘れられない。
「船長! 見てくだせぇこれ!」
部屋で物思いにふけっていると、外からグロームの声が聞こえた。返事をすると、扉が開いて手配書を持って入ってきた。
「ユースタスの手配書が更新されたんですよ」
「ほっほお? あいつは何をやらかしたんだいったい……さ、3億1千500万……マジで何をしたらこうなるんだ…?」
「立ち寄った島の海軍駐屯地をすべて破壊して回ってたとか」
「それで最近妙に海軍が少なかったのか……」
あいつの能力を使えば、海軍駐屯地のひとつやふたつ、なんてことはないだろう。遊ぶようなものだ。それでもわざわざ潰して回っているのは、こうして懸賞金を上げることでより強い相手と出会おうというのが目的のように思える。
「追い抜いてやるって思っていたが、並大抵じゃいかないな」
「今回の更新で、懸賞金1憶を超えた海賊たちが超新星と呼ばれているらしい」
「あんなのがごろごろいるのか、おそろしいねえ」
「良かったじゃねぇか、船長」
「は?」
「まだまだあんたより強い男はいる…チャンスはまだあるぜ…!」
「って婚活の話かい!」
ソワソワとそういったグロームに、思わず突っ込んだ。
「何度言わせるんだい! もう婚活はついでだって!」
「ほしいものすべて手に入れるのが海賊じゃねぇか! たとえついででも、ほしいと思ってるなら手に入れてこそ船長よ!」
「地味に説得力はあるな!」
グロームの言うことは分かるが…。そろそろ、グランドライン中間地にあたるシャボンディ諸島も近くなってきた。つまり。
「新世界が近づいて来てるっていうのに、婚活してる余裕は残念ながら今の私にはない」
「だからこそだ。海賊と結婚すりゃあ、お互いが統合して戦力2倍、新世界を生き抜くために同盟を組む海賊団も少なくねえ。船長は念願の王子と結ばれ海賊団は強化され、一石二鳥!」
「今日はやけに頭が回るんだなお前…」
「どうしても船長の花嫁姿が見たい! …ん?」
とんでもないことをデカい声で言ったグロームは、急に静かになって目を細めた。
「なんだい今度は」
「あ、ありゃあ…」
「…?」
「船長…それならそうと言ってくれりゃあ…」
「な、なんだよ…」
「オスカー! 宴だー! 船長俺たちに内緒で付き合ってやがった!!」
突然何とんでもないことを言い出すんだ!
グロームがよろよろとテーブルに近づく。
彼が手に持ったのは真っ赤なアレ。
ああ、しまった、わすれていた。アレをしまうのを。
「どどどどどうしたグローム! どういうことだ!!」
「オスカー落ちつけ、一度も使ってない」
「ゆ、ユースタスのでんでんむし…!」
「だから、いちども、つかってないんだって! あいつが勝手に私の上着のポケットに入れたんだ」
「なのに一度も使っていないんですか」
大慌てで来てグロームと一緒に騒ぎ立てるかと思いきや、オスカーはじっとでんでんむしを見つめる。そしてガクっと唐突に膝をついた。
「船長、一度くらいつかってやってくださいよ…」
「お前は誰の味方なんじゃ!」
「え、だってあれ以来ですよね? ユースタスのやつ、ずっと待ってるんじゃないんですか…さすがに不憫ですよ、せっかく懸賞金も上がったんだから電話かけてあげましょうよ」
「あ、おい勝手に触るな!」
『ぷるぷるぷる』
「ああ! かかっちゃったじゃないの!」
「さぁグローム行くぞ! 俺たちにできるのはここまで…」
『ぷるぷるぷる』
「船長、しっかり、な」
「おいなんだそのグッドサインは!」
『がちゃ』
「!!」
手を伸ばして二人を止めようとしたのだが、その瞬間電話がつながってしまった。グロームとオスカーはにやにや笑いながらさっさと部屋を出て行く。突然訪れた沈黙。
「……」
『……』
「……」
『……おい、かけといて無言はねえだろうが』
「不可抗力だった」
『まさか今までポケットにしまいっぱなしだったなんて』
「ことは、ない。」
『だよなあ。まあいい、かかってくりゃあ儲けくらいに思ってたからな』
「女性のポケットに手を突っ込むとは、悪趣味」
ふ、とでんでんむしの向こうでかすかな笑い声がする。
話題があったわけでもなく、暫し沈黙が続く。椅子にでも腰かけるように、布ずれの音が聞こえる。
『お前、今どこにいんだよ。いつ結婚してくれんだぁ?』
「海。結婚はしない」
『おおざっぱすぎるだろ』
「うそはついてないじゃない」
『大雑把に言えば、同じところにいるようなもんか。俺も今海だ』
自分で言いだした雑な答えだけれど、つい笑みがこぼれてしまった。あちらに漏れていないといいけれど。
「じゃあ、またね」
『がちゃ』
これ以上話していると、なれ合いになると思って受話器を置いた。
四回目、同じ海にて。