10回目のプロポーズ
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まだ三回目というべきか、もう三回目というべきか。
「なんんんでまたあいつらと同じ島に停泊してるんだ!!」
前回の島を出てからいくつか島を回った。たぶん、ユースタスたちとは同じ航路を選んでしまったのだろう。一か月ぶりに私はあいつの船を目にしていた。
今回の島は無人島。ログは二日。停泊する前にかなりでかい猛獣を見かけた。あいつらも食料をあさりに森に入るだろうから、その前に私が狩りを済ませてくるとしよう。
「船長、あいつらもこの辺を拠点にするみたいだぞ」
「そのようだ、というわけで私は狩りに行ってくる!!」
「あ、船長一人でいかねぇでくだせぇ!」
「だいじょぶだー! 危なくなったら雷で呼ぶ!」
心配するあいつらには悪いが、でかいやつとってくるから許してくれ。
***
「で、なんでお前と遭遇してんだああああ!!」
「よう」
「よう、じゃねえよ! 絶対私のこと探してたろ!」
「あたりめぇだ」
「死んでくれ!」
なんとか一日分くらいの肉をつけていそうなイノシシを見つけて追いかけていると、なんとユースタスと遭遇してしまった。
せっかく出てきたのに最悪だ!
「お前のせいでイノシシ逃げてったし」
「あ? イノシシ? そんなもんくらい、いくらでも捕まえてきてやるぜ」
「いや、頼んでないけども…」
というか、無人島ではこの男の鉄を操る力は全く使えないはずだ。ところが予想外なことに、あいつは石を拾うとものすごい勢いで森の中に投げ飛ばした。そして、石を投げた方向に歩いて行き、ずるずると何かを背負って戻ってきた。こ。これは…
「さっきのイノシシ…」
「ほーらお前にやるよ。男は女養ってなんぼだぜ」
「っく、いるか貴様からの施しなど…!」
「なに? これじゃ足りねぇだと?」
「どう変換したらそうなる!」
「上等だお前が満足するほどデカいやつを狩ってやるぜ」
「勝手にやっててくれもう…」
こいつの力は認めるが、色々と意味が分からない。
そもそもなぜ私にこうも構うんだろうか。女の海賊なんて、珍しいけれど探せばその辺にいるだろうに。
私をだましてどうこうする気かとも思ったが、あれだけ力があってそんなことをする必要はない。
気まぐれなんだろうが、なぜその気まぐれが一瞬でも自分に向いているのか理解しがたい。
「おい、こいつでどうだ」
「だから、お前からの施しはうけないって言ってんの!」
「欲張りな奴だな。まぁ海賊王の妻だ、そうでなきゃいけねぇ」
「いろいろ妄想飛びすぎ!」
「さあ、こいつでどうだ」
「もうやめてくれ、この島の生態系が傾きそう…!」
もう疲れた。
とぼとぼ歩いていると森を抜け、船が目に入る。最初のところに戻ってきたようだ。
「キッド! なんだそのデカブツは!」
「セアラにやろうと思ってな。おいお前ら、お姫様の気に入らなかった肉がその辺に転がってるから回収してきて食え」
「いや私いらないって言ってるんだけどねまったく」
聞こえちゃいないか…と半ばあきらめていると、殺戮武人には聞こえていたらしい。こんなことを言い出した。
「キッド、女性への贈り物に生肉はさすがにどうかと思うぞ。
うちで料理してやるからそっちにしろ」
「嫌お前は自分の船長を止めてくれせめて…!」
「それもそうか。よし、俺の船来い、お前ん所のクルーもだ」
「私の声が聞こえていないんだわあの人たちきっと…」
そんなわけで、なにがどういうわけなのか、私たちの海賊団は仲良く焚火を囲んで夕食を迎えることとなった。さすがに敵船で夕飯を食べるのは嫌だと言ってそれだけは避けてもらった。とはいえ、今も普通の状況じゃないのは確かだ。
ちなみに焚火をおこしたのは向こうの能力者の火を吹く男だった。
私と能力が似ているのもあり、この前の闘いで海水をぶっかけたことはこっそり謝っておいた。
「キッドの頭、飯ができました!」
「おう、もってこい。ワイヤー、ヒート、酒運んで来い」
「俺も手伝おう」
「グローム、手伝うのはよせ」
「だが船長、タダ酒飲めるんだぜ? そのくらいは許してくれよ」
「まったく……」
とにかく今晩中の我慢だ。
仕方なく座ると、殺戮武人と目が合った気がした。マスク越しで彼の顔はわからないが、間違ってはいなかったらしく、こちらへ近づいてきた。
「傷はもうなんともないのか」
「ええ、この前会った時にはもうぴんぴんしてたわよ」
「すまないな。俺の提案とはいえ。自分を傷つけた男と焚火を囲むのは、あまりいい気分ではないだろう」
「それはもういいわ。それに、まるで私がユースタスを怖がっているみたいには思わない事ね」
「そうか。だが誓って、今日は戦いには持ち込まん。せめて飯だけでも楽しんでいってくれ」
「当然よ。ご飯に罪はないわ」
この男も、多分ユースタスに感化されただけなのだ。ちょっとかわいそうなので、もうこいつに怒るのはやめてあげよう。
「おいキラー、俺の獲物に手ぇだしてんじゃねぇだろうな」
殺戮武人と変に和んだところで、この男の登場だ。離れたところにいてくれればいいものを、わざわざジョッキを二つ持ってやってくるのだからたちが悪い。隣で飲む気満々だ。
「詫びを入れただけだ」
「ユースタス、この男すんごい常識人よ。女に傷をつけておいて詫びないあんたとは大違いね」
「そりゃあ終わったことだろうが。それにいずれ俺のモノになるんだ、傷の一つや二つ、関係ねぇだろ。それよりなんだよキラーみたいな細いのが好みかよ」
「そんな話してないでしょうが。まーそれにしてもあんたの倫理観は聞いて驚くわ。もちろん謝ってほしいわけないけど」
「キッド、穏便にな」
殺戮武人、今はふっさふさだけどこのままじゃ苦労の末禿げそうだわ、かわいそうに。彼はため息をつきながら、別の輪の方に行ってしまった。
「じゃ、宴と行くか」
「不本意なね」
「おら、てめぇら存分に飲めよ!!」
「「「おおおぉおおお!!」」」
「くそ、あいつら酒に飲まれて私を売ったな…」
すでに楽しそうに酒を開封するグロームとオスカー。
あとで覚えてろよな。
「お前、酒はいける口か」
「まあまあよ」
「じゃあこっちだな。この前仕入れたイーストブルー産の酒だ」
このお酒、見たことがある。たしかに度数は低めのものだ。どうやら酔いつぶれさせるなどという下品な発想はないらしい。
ユースタスはそれを私のジョッキに注ぐ。
次いで自分にはノースブルー産の強い酒を注いだ。寒い地域の酒は、身体をたためるために強いものが多い。
「乾杯くらいはしてくれるんだろうな」
「あんたのおごりだからね、それくらいはしてやるわよ」
乾杯。
私たちはしばらく、まるで兄弟のように一緒に騒ぎ立てるクルーたちを眺めていた。最初のうちは彼らもこちらを少し気にしていたが、酔いが回ってくると船長の恋路なんてそっちのけで騒ぎ出す。
ここからが本番だ。
「お前のところクルーは元気だな」
「あんたのところのには負けるわ。すごいわね網タイツ」
「そうか?」
「見慣れるって怖い」
そんなところから始まり、気がつけばユースタスに質問されるがままに、クルーたちのことを話していた。
グロームは最初の仲間で、私に海賊として惚れたと言って勝手についてきたこと。
オスカーは二番目で、私たちのことを面白がってこれもまた勝手にてきたこと。
他の奴らも、私は婚活中だって言ってるのに、勝手に海賊としてついてきたやつらばかりだ。船医のプティルも、狙撃手のトニトルスもそうだ。
「はじめは本気で婚活が目的だったけど、いつしかあいつらを高見に連れて行ってやりたいと思うようになった。海賊を選んだからには、無謀だろうが目指すところは一つ。
正直今は、能力者に海水ぶっかけでもしなきゃ生き残れない。それでもあがいて、あいつらをちゃんと海賊にしてやりたいと思ってる」
「……」
「あんたたちの目的も、私たちと同じ?」
「――ああ、ひとつなぎの大秘宝…」
「正直今それに近いのはあんたたちだ。でも必ず追い抜いて見せる」
ユースタスはぐっと酒をあおった。
さすがにかなり強い酒に、顔は少し赤らんでいる。
「お前のクルーの気持ちも分かる気がするぜ」
「え?」
「っはは。さっさと俺の嫁になれば、追い抜かなくても高見に行けるぜ」
「そんなのつまんないじゃない」
ユースタスはにやりと笑った。
それはなんだか、はじめて戦った後にみたあの表情とよく似ていた。
三度目、宴にて。
「なんんんでまたあいつらと同じ島に停泊してるんだ!!」
前回の島を出てからいくつか島を回った。たぶん、ユースタスたちとは同じ航路を選んでしまったのだろう。一か月ぶりに私はあいつの船を目にしていた。
今回の島は無人島。ログは二日。停泊する前にかなりでかい猛獣を見かけた。あいつらも食料をあさりに森に入るだろうから、その前に私が狩りを済ませてくるとしよう。
「船長、あいつらもこの辺を拠点にするみたいだぞ」
「そのようだ、というわけで私は狩りに行ってくる!!」
「あ、船長一人でいかねぇでくだせぇ!」
「だいじょぶだー! 危なくなったら雷で呼ぶ!」
心配するあいつらには悪いが、でかいやつとってくるから許してくれ。
***
「で、なんでお前と遭遇してんだああああ!!」
「よう」
「よう、じゃねえよ! 絶対私のこと探してたろ!」
「あたりめぇだ」
「死んでくれ!」
なんとか一日分くらいの肉をつけていそうなイノシシを見つけて追いかけていると、なんとユースタスと遭遇してしまった。
せっかく出てきたのに最悪だ!
「お前のせいでイノシシ逃げてったし」
「あ? イノシシ? そんなもんくらい、いくらでも捕まえてきてやるぜ」
「いや、頼んでないけども…」
というか、無人島ではこの男の鉄を操る力は全く使えないはずだ。ところが予想外なことに、あいつは石を拾うとものすごい勢いで森の中に投げ飛ばした。そして、石を投げた方向に歩いて行き、ずるずると何かを背負って戻ってきた。こ。これは…
「さっきのイノシシ…」
「ほーらお前にやるよ。男は女養ってなんぼだぜ」
「っく、いるか貴様からの施しなど…!」
「なに? これじゃ足りねぇだと?」
「どう変換したらそうなる!」
「上等だお前が満足するほどデカいやつを狩ってやるぜ」
「勝手にやっててくれもう…」
こいつの力は認めるが、色々と意味が分からない。
そもそもなぜ私にこうも構うんだろうか。女の海賊なんて、珍しいけれど探せばその辺にいるだろうに。
私をだましてどうこうする気かとも思ったが、あれだけ力があってそんなことをする必要はない。
気まぐれなんだろうが、なぜその気まぐれが一瞬でも自分に向いているのか理解しがたい。
「おい、こいつでどうだ」
「だから、お前からの施しはうけないって言ってんの!」
「欲張りな奴だな。まぁ海賊王の妻だ、そうでなきゃいけねぇ」
「いろいろ妄想飛びすぎ!」
「さあ、こいつでどうだ」
「もうやめてくれ、この島の生態系が傾きそう…!」
もう疲れた。
とぼとぼ歩いていると森を抜け、船が目に入る。最初のところに戻ってきたようだ。
「キッド! なんだそのデカブツは!」
「セアラにやろうと思ってな。おいお前ら、お姫様の気に入らなかった肉がその辺に転がってるから回収してきて食え」
「いや私いらないって言ってるんだけどねまったく」
聞こえちゃいないか…と半ばあきらめていると、殺戮武人には聞こえていたらしい。こんなことを言い出した。
「キッド、女性への贈り物に生肉はさすがにどうかと思うぞ。
うちで料理してやるからそっちにしろ」
「嫌お前は自分の船長を止めてくれせめて…!」
「それもそうか。よし、俺の船来い、お前ん所のクルーもだ」
「私の声が聞こえていないんだわあの人たちきっと…」
そんなわけで、なにがどういうわけなのか、私たちの海賊団は仲良く焚火を囲んで夕食を迎えることとなった。さすがに敵船で夕飯を食べるのは嫌だと言ってそれだけは避けてもらった。とはいえ、今も普通の状況じゃないのは確かだ。
ちなみに焚火をおこしたのは向こうの能力者の火を吹く男だった。
私と能力が似ているのもあり、この前の闘いで海水をぶっかけたことはこっそり謝っておいた。
「キッドの頭、飯ができました!」
「おう、もってこい。ワイヤー、ヒート、酒運んで来い」
「俺も手伝おう」
「グローム、手伝うのはよせ」
「だが船長、タダ酒飲めるんだぜ? そのくらいは許してくれよ」
「まったく……」
とにかく今晩中の我慢だ。
仕方なく座ると、殺戮武人と目が合った気がした。マスク越しで彼の顔はわからないが、間違ってはいなかったらしく、こちらへ近づいてきた。
「傷はもうなんともないのか」
「ええ、この前会った時にはもうぴんぴんしてたわよ」
「すまないな。俺の提案とはいえ。自分を傷つけた男と焚火を囲むのは、あまりいい気分ではないだろう」
「それはもういいわ。それに、まるで私がユースタスを怖がっているみたいには思わない事ね」
「そうか。だが誓って、今日は戦いには持ち込まん。せめて飯だけでも楽しんでいってくれ」
「当然よ。ご飯に罪はないわ」
この男も、多分ユースタスに感化されただけなのだ。ちょっとかわいそうなので、もうこいつに怒るのはやめてあげよう。
「おいキラー、俺の獲物に手ぇだしてんじゃねぇだろうな」
殺戮武人と変に和んだところで、この男の登場だ。離れたところにいてくれればいいものを、わざわざジョッキを二つ持ってやってくるのだからたちが悪い。隣で飲む気満々だ。
「詫びを入れただけだ」
「ユースタス、この男すんごい常識人よ。女に傷をつけておいて詫びないあんたとは大違いね」
「そりゃあ終わったことだろうが。それにいずれ俺のモノになるんだ、傷の一つや二つ、関係ねぇだろ。それよりなんだよキラーみたいな細いのが好みかよ」
「そんな話してないでしょうが。まーそれにしてもあんたの倫理観は聞いて驚くわ。もちろん謝ってほしいわけないけど」
「キッド、穏便にな」
殺戮武人、今はふっさふさだけどこのままじゃ苦労の末禿げそうだわ、かわいそうに。彼はため息をつきながら、別の輪の方に行ってしまった。
「じゃ、宴と行くか」
「不本意なね」
「おら、てめぇら存分に飲めよ!!」
「「「おおおぉおおお!!」」」
「くそ、あいつら酒に飲まれて私を売ったな…」
すでに楽しそうに酒を開封するグロームとオスカー。
あとで覚えてろよな。
「お前、酒はいける口か」
「まあまあよ」
「じゃあこっちだな。この前仕入れたイーストブルー産の酒だ」
このお酒、見たことがある。たしかに度数は低めのものだ。どうやら酔いつぶれさせるなどという下品な発想はないらしい。
ユースタスはそれを私のジョッキに注ぐ。
次いで自分にはノースブルー産の強い酒を注いだ。寒い地域の酒は、身体をたためるために強いものが多い。
「乾杯くらいはしてくれるんだろうな」
「あんたのおごりだからね、それくらいはしてやるわよ」
乾杯。
私たちはしばらく、まるで兄弟のように一緒に騒ぎ立てるクルーたちを眺めていた。最初のうちは彼らもこちらを少し気にしていたが、酔いが回ってくると船長の恋路なんてそっちのけで騒ぎ出す。
ここからが本番だ。
「お前のところクルーは元気だな」
「あんたのところのには負けるわ。すごいわね網タイツ」
「そうか?」
「見慣れるって怖い」
そんなところから始まり、気がつけばユースタスに質問されるがままに、クルーたちのことを話していた。
グロームは最初の仲間で、私に海賊として惚れたと言って勝手についてきたこと。
オスカーは二番目で、私たちのことを面白がってこれもまた勝手にてきたこと。
他の奴らも、私は婚活中だって言ってるのに、勝手に海賊としてついてきたやつらばかりだ。船医のプティルも、狙撃手のトニトルスもそうだ。
「はじめは本気で婚活が目的だったけど、いつしかあいつらを高見に連れて行ってやりたいと思うようになった。海賊を選んだからには、無謀だろうが目指すところは一つ。
正直今は、能力者に海水ぶっかけでもしなきゃ生き残れない。それでもあがいて、あいつらをちゃんと海賊にしてやりたいと思ってる」
「……」
「あんたたちの目的も、私たちと同じ?」
「――ああ、ひとつなぎの大秘宝…」
「正直今それに近いのはあんたたちだ。でも必ず追い抜いて見せる」
ユースタスはぐっと酒をあおった。
さすがにかなり強い酒に、顔は少し赤らんでいる。
「お前のクルーの気持ちも分かる気がするぜ」
「え?」
「っはは。さっさと俺の嫁になれば、追い抜かなくても高見に行けるぜ」
「そんなのつまんないじゃない」
ユースタスはにやりと笑った。
それはなんだか、はじめて戦った後にみたあの表情とよく似ていた。
三度目、宴にて。