10回目のプロポーズ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
初めて旅に出た時。
絶対にいい男を捕まえてやるんだと見渡した青い海。
夕日を映して赤く染まり
夜を映して黒く沈み込み、
雨と共に濁り
己を映す。
海にふれればたちまち自分はその世界へ沈んでしまうのに、怖いとは思わなかった。
陸を出てすぐにわかった。もう、自分は陸の世界へは戻れまいと。
一度は、海から離れようともしたが、それは間違いなく己を殺す行為だった。魚は海の空気しか吸えないのだ。
「おい、黄昏てんな」
「あ? 黄昏てない」
小さくなる陸と、もうゴマ粒くらいにしか見えない二人のクルーをみつめる。船の縁に肘をつき、彼らが追い付いてくることを願って。
憎たらしいことに、突然病室に突入してきたユースタスは、私を半ば無理やりに連れ出して、こうして出航した。
頼んでもいないのに、俺がそうしたいとばかりに。まるで、私が頼めないことなど分かっていたかのように。
「目的ってのは、複数より一つに絞った方がいい」
「?」
「それに向かって突き進めばいいからだ。お前はこれからは大秘宝のことだけを考えりゃいいんだ。婿探しは決着したからな」
「何勝手に決着つけてんのよ」
見えなくなった二人から目を離す。ユースタスはにやっと笑うと一歩ずつ寄る。肘を縁から離し、ユースタスに向き合うが、決して自分から後ろにずれたりはしない。
私の両脇の縁に手を置く。
これまでにこんなにも近くに寄ったことはなかった。それでも、表情を変えずに彼を見つめた。
「俺と、海賊王を目指そうぜ」
燃える真っ赤な瞳。あの簪と同じ色。
けれど、そこにあるのは戦闘中に見せた余裕と自信にあふれる顔ではなく、ほんの少しの不安が入り混じった表情。そのほんのわずかな色が、彼が本気だと教えてくれる。
「――まだ私独身なんだから、あんたが腑抜けたらいつでも浮気してやるわよ、キッド」
「は…」
にんまりと笑ってユースタスを見る。見たこともないくらい驚いた顔に、思わず笑いが込み上げてきた。
最後に、ついでのような軽いキスを真っ赤な唇に送り、するりとその腕から離れた。
「ふふ」
口元を手で覆ったキッドは、耳まで赤く染め上げていた。
「ほら、いくわよ」
帆を上げろ。
舵を切れ。
船員たちの声。
夕日を映して赤く染まり
夜を映して黒く沈み込み、
雨と共に濁り
己を映す。
海の色は今日も変わらない。
新しい色を見つけに行く旅は、この船の上から再開される。
10回目 新たな旅立ちの時に。
完結
11/11ページ