10回目のプロポーズ
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時を同じくして、ヴィクトリア・パンク号の甲板にて。
「おい、キッド、どうするんだ」
「あ?」
「彼女は、もしかしたら…」
10日前のシャボンディ諸島での大騒ぎなどまるで嘘のように、静かな島だ。ただ人が済むだけで、見もの客もいない。海賊もほかに停泊していない。
キッド海賊団のクルーたちは、傷はもう癒えている。各々新世界に向け、力を蓄えていた。
「まだ騒ぎは収まらん。しばらくはここにいるのもかまわないが」
「明日には出る。ここで追いかけてこねぇなら、それまでだったってことだ」
キッドはそういうと、コートを翻して自室へ戻った。
テーブルの端に忘れ去られたように置かれた、かざりけの無いでんでんむしが目に留まった。これと対になる赤いでんでんむしは、あの船と共に壊されたのだろう。二度と、目が明くことはない。
セアラが自分の誘いを断ったのは、別に驚くことではなかった。むしろ、ああ、こいつは海賊だったと安堵さえ抱いた。
だが一瞬、彼女の目に深く傷ついた色が見えて、後悔した。
自分がもし同じ状況下であんなふうに言われていたら、同じように傷ついただろう。
だが、海賊のプライドを捨てまいとするセアラの姿を確認しなければ、自分が不安だったのだ。
あの場で、はい、助けてくださいと彼女が手を取ったら、それを振り払っていたかもしれない。
「なぁ、お前は、こんなところで終わるのか?」
彼女の悲しみは、想像しかつかない。同じ気持ちを理解することはできない。だがキッドには、たとえ最後の一人になっても戦い続ける自信があった。酷かもしれないが、それを求めてしまうのだ。
「だが、挫折なんざ人生何度でもあるもんだ」
様子くらいなら、見に行ってもいいだろうか。
**
この島には病院が一つしかない。セアラが船を降りる時も見送らなかったキッドだが、場所は安易に突き止めることができた。
グロームなら、彼女の場所も知っているだろう。
この島では浮く風貌のキッドに、病院の受付は一瞬ざわついたが、そのおかげか理由も問われず病室へ通された。
病室からは話し声が聞こえ、足を止める。ドアがかすかに空いていた。らしくもなくそこから中を覗くと、ベッドの横にトニトルスが腰かけ、横たわるグロームの横にセアラがいた。
「船長、行くんだな」
「ええ。でもこのちんけな島じゃ、小舟だって手に入るか怪しいわ」
「まーだそんなこと言ってるのか」
「ふふ、まあ、そこは流れに身を任せるとして。トニトルス、うちの副船長のこと、頼んだよ」
「なんだ、俺って一応、副船長だったんだな」
船に乗っていた一週間の間には聞こえなかった、三人の笑い声がする。
「そうだグローム、あなたにひとつ、預けたいものがあるの」
「これは…」
キッドの目にもそれが見えた。
いつかの島で渡した、あの赤い簪だった。
「船長、最近船の上でつけてたよな。気に入ってるんじゃなかったか?」
「これ、ユースタスがくれたのよ」
「は?」
「無くしそうだし、なによりしている所見られるのが恥ずかしくて、あいつには見せてないんだけどね、してるところ」
「そ、それこそ持っていかなきゃダメだろうが…!していなくても、持ち歩いてたから残ってるんだろう?」
「ちょっと悩んだのよ。くれたのに隠すのも、悪いかなって。でもそれでいいの。私、いつでもあいつと競ってたいんだわ。そりゃ力じゃ圧倒的に負けるかもしれないけど。これはなくしたことにして、あんたに預ける!」
「いやますます訳わからん!」
「あんたが私に追いついたら、私はそれしてる姿あいつに見せてやるわよ」
ほら、早く治そうっておもえたでしょう?
そう笑ったセアラに、キッドは思う。
なんて素直じゃないんだろう。なんて意地っ張りなんだろう。でも、そこが良かったのだ。
「っは、これ以上あいつのプライドは傷つけられねぇなぁ」
キッドは楽しげに笑うと、扉を押し開けた。
そして驚いた顔のセアラに言った。
「おら、いつまでノロノロしてんだ、行くぞ新婚旅行」
「な、あんたねぇ…!」
「新世界でおもいっきり暴れてやろうぜ!」
9回目 病室にて
「おい、キッド、どうするんだ」
「あ?」
「彼女は、もしかしたら…」
10日前のシャボンディ諸島での大騒ぎなどまるで嘘のように、静かな島だ。ただ人が済むだけで、見もの客もいない。海賊もほかに停泊していない。
キッド海賊団のクルーたちは、傷はもう癒えている。各々新世界に向け、力を蓄えていた。
「まだ騒ぎは収まらん。しばらくはここにいるのもかまわないが」
「明日には出る。ここで追いかけてこねぇなら、それまでだったってことだ」
キッドはそういうと、コートを翻して自室へ戻った。
テーブルの端に忘れ去られたように置かれた、かざりけの無いでんでんむしが目に留まった。これと対になる赤いでんでんむしは、あの船と共に壊されたのだろう。二度と、目が明くことはない。
セアラが自分の誘いを断ったのは、別に驚くことではなかった。むしろ、ああ、こいつは海賊だったと安堵さえ抱いた。
だが一瞬、彼女の目に深く傷ついた色が見えて、後悔した。
自分がもし同じ状況下であんなふうに言われていたら、同じように傷ついただろう。
だが、海賊のプライドを捨てまいとするセアラの姿を確認しなければ、自分が不安だったのだ。
あの場で、はい、助けてくださいと彼女が手を取ったら、それを振り払っていたかもしれない。
「なぁ、お前は、こんなところで終わるのか?」
彼女の悲しみは、想像しかつかない。同じ気持ちを理解することはできない。だがキッドには、たとえ最後の一人になっても戦い続ける自信があった。酷かもしれないが、それを求めてしまうのだ。
「だが、挫折なんざ人生何度でもあるもんだ」
様子くらいなら、見に行ってもいいだろうか。
**
この島には病院が一つしかない。セアラが船を降りる時も見送らなかったキッドだが、場所は安易に突き止めることができた。
グロームなら、彼女の場所も知っているだろう。
この島では浮く風貌のキッドに、病院の受付は一瞬ざわついたが、そのおかげか理由も問われず病室へ通された。
病室からは話し声が聞こえ、足を止める。ドアがかすかに空いていた。らしくもなくそこから中を覗くと、ベッドの横にトニトルスが腰かけ、横たわるグロームの横にセアラがいた。
「船長、行くんだな」
「ええ。でもこのちんけな島じゃ、小舟だって手に入るか怪しいわ」
「まーだそんなこと言ってるのか」
「ふふ、まあ、そこは流れに身を任せるとして。トニトルス、うちの副船長のこと、頼んだよ」
「なんだ、俺って一応、副船長だったんだな」
船に乗っていた一週間の間には聞こえなかった、三人の笑い声がする。
「そうだグローム、あなたにひとつ、預けたいものがあるの」
「これは…」
キッドの目にもそれが見えた。
いつかの島で渡した、あの赤い簪だった。
「船長、最近船の上でつけてたよな。気に入ってるんじゃなかったか?」
「これ、ユースタスがくれたのよ」
「は?」
「無くしそうだし、なによりしている所見られるのが恥ずかしくて、あいつには見せてないんだけどね、してるところ」
「そ、それこそ持っていかなきゃダメだろうが…!していなくても、持ち歩いてたから残ってるんだろう?」
「ちょっと悩んだのよ。くれたのに隠すのも、悪いかなって。でもそれでいいの。私、いつでもあいつと競ってたいんだわ。そりゃ力じゃ圧倒的に負けるかもしれないけど。これはなくしたことにして、あんたに預ける!」
「いやますます訳わからん!」
「あんたが私に追いついたら、私はそれしてる姿あいつに見せてやるわよ」
ほら、早く治そうっておもえたでしょう?
そう笑ったセアラに、キッドは思う。
なんて素直じゃないんだろう。なんて意地っ張りなんだろう。でも、そこが良かったのだ。
「っは、これ以上あいつのプライドは傷つけられねぇなぁ」
キッドは楽しげに笑うと、扉を押し開けた。
そして驚いた顔のセアラに言った。
「おら、いつまでノロノロしてんだ、行くぞ新婚旅行」
「な、あんたねぇ…!」
「新世界でおもいっきり暴れてやろうぜ!」
9回目 病室にて