あなたを鳥にしたい。(連載中)
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「いやあああああああ!!!よかったあああああ!!まだここにいたああ!!!よかったあああああ!!!」
朝、部屋を出ると真っ先に叫び声が聞こえた。思わず身構えたが、よくよくよくあたりを見回すと昨日酒で寝ちまったカヤを放り込んだ部屋から聞こえる声だった。
うるせぇなあいつは。朝っぱらから。
呆れていると扉がバーンと開かれ、あいつが飛び出してきた。すげぇ寝ぐせだ。
「は、てか、お前…髪どころかひでぇ顔だな」
「ぎゃひ! ききき、キッド様…! おはようございます! 泣くと不細工になるのです! お目汚しを…。あ、そういえばこの部屋はどなたのお部屋なのですか!」
「あ? てめぇにやったんだよ」
好きに使え、と返す前にあいつはその場にぶっ倒れやがった。会話も出来ねぇのかこの女…。能力者でもあるし、面白半分に乗せてみたはいいが、思った以上に手を焼きそうだなこりゃあ…。
「――っは! しまった失神してた!」
「自分で起きるのかよ」
「失礼しました! しかしお部屋貸していただけるなんてありがとうございます、今日から死ぬ気で働きます!」
そりゃあ、いい心がけだ。
「舎弟の仕事その1」
「はい!!」
「洗濯」
「よっしゃあああ仕事貰ったあああああああ!!!!」
親切に説明でもしてやろうと思ったのだが、あいつは叫ぶと走り去っていった。飯も食わず馬鹿なのかあいつは…。
***
俺は襲撃でもない限りはのんびりやっているわけだが、今日はあの新米を観察だ。
飯を食って甲板に出ると、3日分の洗濯物が5つのカゴに積まれて宙に浮いていた。何事かと思ったが、あいつの能力でカゴに羽根を生やして運んでいるようだ。なかなか便利な能力だな。
実は前に籠を金属にしてみたこともあったが、服の方がそこら中に舞っちまったことがある。あの能力ならその心配もなさそうだ。
「っしゃー! 働くぞおらー! イエスサー!」
誰から教わったのか、洗濯板と水の入ったいくつかのオケも後ろから運ばれてきた。
さて、洗濯はどうするんだとみていると、ほっせぇ白い腕で、よいしょよいしょと一枚一枚洗い始めた。
運ぶまでは余裕そうだが、たしかに洗うのは一枚一枚やるしかねぇな。それにしても…。
「俺の方がまともに洗えるぞおい…」
ガキが親の手伝いでもしてるような手つきだ。なんでもするとほざいたわりに、頼りねぇ。
あんまりちんたらやってるもんだから、ヒートのやつが茶化しに行くのが見える。
「おい新米」
「ぬぬ! お主はヒート殿!」
「何キャラだそれは…。てか、なんだその手つきは」
「洗濯もの初心者なのであります!」
「はあ? あんた、箱入りか?」
「いえ、私がいた世界には洗濯物を洗ってくれる機械があったのです!」
「え、何言ってんのお前」
「私もよく説明できないのですが、ホーキンスさんに聞いてください。とにかく、そんなわけで洗濯は初心者です!」
「よくわかんねぇけど俺らみたいな海賊でもできるんだぞ、洗濯も出来ねぇなんて嫁にいけねぇぞ」
「ではこれは花嫁修業…! お姑さん、鍛えてくださいまし!」
「おいだれがお姑だよ誰が」
話しながら手を動かしてはいるが、ヒートはいてもたってもいられなくなったんだろうな、手伝い始めた。何やってんだあいつは。
「舎弟の仕事つったろうが」
やることもねえし、眺めているといつの間に陽が頭上まで上がっていた。午前いっぱいかけてようやく全て片付いたようだ。なんだか先が思いやられる…。
それにやはり、あいつが言っていた「私のいた世界」とやら、なにか引っかかりがある。そもそもおかしな話だ。どうみても海賊じゃねぇ、それどころか一人で生きたこともなさそうな女が、なぜ俺たちのことを知り、ホーキンスの船に乗り、海賊になりたいなんざほざきやがったのか。ついノリでつれてきちまったが、色々と納得のいかない点は多い。
「まあ、どうでもいいか」
わざわざ聞く必要もねぇだろう。とりあえず雑用係は欲しいと思っていたところだ、生きてる限りは「舎弟」として使ってやろうじゃねぇか。