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「シェーンコップ中将、今日も素敵です」
「シェーンコップ中将、本日もまことにっ……もう言葉にできぬほど……」
「中将、聞いてください今日もあなたが大好きなんです」
「ちゅーじょー! あーいーしーてーまぁぁあす!」
毎日、伝える。それは付き合ってほしいとか結婚してほしいのではなくて、ただ私の気持ちを知ってほしくて。
伝えるたび中将は「それはどうも」って言ったり「また下らんことをいっているな」って言うけれど、一度もやめろと言ったことはない。
だから、中将は私に振り向いてくれなくても、この想いだけはちゃんと受け止めてくれていると思っていた。
それでよかった。伝えて、伝わっていれば私はそれで良いと思っていた。
なのに。
「お前も懲りずに私なんかを気に留めていないで、そろそろ身を固めたらどうなんだ」
「え?」
「ヤン提督も結婚なさったんだ、お前は行き遅れるんじゃないぞ」
「え、で、でもでも……」
なぜ突然私の結婚の話になったのか、分からないけれど。
でも。
「や、やだなぁーまったく中将ってば。私は毎日恋愛にいそしんでいますよ。
今日も朝いちばんにあなたに愛の告白をしたではありませんか」
「そんなことだから……はぁ。冗談はそろそろやめておきなさい」
「中将……それ本気で、本気で言ってるんですか」
「もちろんだともフロイライン」
あきれたようにワインを一口飲んで、中将は言った。
その瞬間、なんだかすべてがどうでもよくなって、なんか、悲しくなった。
私の毎朝の告白は、受け入れられてるんだと思っていたのに、全部子供の冗談だと思われていたんだ。
そうだよね、そうだよね。
中将からしたら、私なんか子供だよ。
歳だって親子位離れてるし。
でも、辛いじゃない。
「……泣くこともなかろう」
「なっ、泣きますわそりゃあ!」
食堂の真ん中でお昼食べてるなんてこと忘れて、私は立ち上がって叫んでいた、シン、と静まる。
中将は驚いたようにこっちを見ている。でも、止まらない。
「中将に娘さんがいたこと、知ってました。
女遊びがやばい不良中年だってことも当然わかってるし、そんな女遊びの激しいあなたが手を出してこないくらいだから私なんて女としての魅力は無いってこと、分かってますよ!
でも、でも中将は私を受け入れられないかわりに、私の想いだけは知ってくれているって思ってた……なのに、なにも何も伝わってなくて、私自分が馬鹿みたいです!」
涙がとまらなくて、自分を嘲る笑みがむなしく顔に浮かぶだけ。
私はそのまま、沈黙の食堂を走って逃げだした。
「中将のばかー!あほーっ!」
最悪、顔真っ赤で、多分ひどい泣き顔で。
部屋まで一直線に駆け抜けて、角を曲がって誰かに激突。
「わっ、ご、ごめんなさっ」
「いってぇ……お、なんだフロイラインか。
あんまり走るなよー、人生走り抜けるばかりが良いものではないからな!
もっと気楽に……って、お前、泣いてるのか?」
年長者ぶって説教じみたこと言いかけた中佐は私の酷い顔を見て言葉を途切れさせた。
なんだか中佐のどこかぬけたような顔を見ていたら急にまた涙が。
「うっ…ぅぅ…」
「な、なんだぁ? フラれたのか?」
「ぐすんっ」
「ま、まじかよ……」
「ちゅうさぁ」
「なんだ?」
「私、おんなじ女ったらしならまだポプラン中佐に恋しておけばよかったぁっうぇぇえんっ」
「え、え、なに!? 俺この状況悲しむべきなの!?喜ぶべき!?」
うわーんっ、子供みたいな泣き声を上げて、私はまた走り出して今度こそ自室にたどり着いた。
一方、そのころの食堂では。
「…………」
「…………しぇ、シェーンコップ」
「はぁ、なんですかなヤン提督」
「その、私が言うのもあれだけど……追いかけなくていいのかな、なんて……」
アッテンボローはヤンの言葉にうんうん、と頷いて見せる。
少し離れた場所ではまた兵士たちの会話が戻りつつあるが、シェーンコップの周りは皆彼を見ている。
「フロイラインがシェーンコップ中将を好いていることなんて、このヤン提督下で知らぬ奴はいないってほどなのに、当の本人がそれを分かっていないと。
こりゃ歴史に残るな」
「……はぁ。おまえたち私をバカにしているがな、想像してみろ。
私はフロイラインより歳が一回りも上なんだ。
毎日毎日、飽きもせずああいわれて、私だっていい加減本気にしたくもなったさ。
だがそれはいかんと、あいつは毎日冗談好きな奴だ、あるいは上司である私への憧れにすぎないと、そう思いすごそうとしたのに……それでこのざまだ」
「不良中年からそろそろ引退してもらいたいものですねぇ。な、ユリアン」
「えぇえ!ぼ、僕に話を振らないでくださいよ」
アッテンボローに話をフラれてユリアンは焦る。
ただ少し考え込んだ後で、師匠に向かってこういった。
「まぁ、僕から言わせてもらえば中将、彼女は本気ですよ。
時々僕の所へ来て、貴方のことを語っていくのですが、その時の顔はとても冗談を言っているようには見えませんでしたから」
「だ、そうだ。ほら、早く行ってやってくださいよ」
あとで俺が慰めに行くのは面倒だとアッテンボローに言われ、シェーンコップはついに立ち上がった。
「はぁ、それじゃ、ちょっと行ってきますかね」
しかたないと言う風なくせに、歩き出したシェーンコップの顔は隠しきれない焦りを映している。
ヤン達はその後ろ姿を見て含み笑いをするのだった。
「同じ女ったらしなら俺に恋したほうがよかったそうですよ」
廊下に出ると皮肉にもポプランが言った。シェーンコップは一瞥くれてやって「私はお前ほどの女ったらしにはなれんよ」と言ってやった。
あのあわてようで出て行ったなら、おそらくは自室の鍵を閉め忘れている。
フロイラインはそういう人間だ。
すぐにそう推測できる自分にシェーンコップは笑ってしまう。
さっきだってまだまだ若い彼女に結婚の話を出したのは、はやく想い人を見つければ自分に毎朝告白なんてしないだろうと踏んだからだ。
本当は、彼女にひかれている。
それでも自分の想いに素直になるには歳が離れすぎていた。
だが、彼女の想いが偽物でもなく、一時の迷いでもないならば……(フロイラインがシェーンコップに告白をするようになってからもうだいぶたつのである)
シェーンコップは彼女の部屋を見つけると開閉ボタンを押す。
思った通り、鍵は開いたままだ。
せっかくオートロック機能があるのに、フロイラインは鍵を持ち出し忘れて締め出しをくらってばかりなのでそれを使っていないのだ。
ドアが開くと、ベッドにつっぷしていたフロイラインはあからさまに驚いた。
すぐに布団をかぶって丸まってしまう。
「……フロイライン」
「嫌です」
「何も言っとらんじゃないか」
「いいんです、慰めの言葉なんかいらないです。むしろごめんなさい、もう明日からは馬鹿なこと言いませんから帰ってください。自分がみじめです。
明日からはユリアンにでも恋することにします。そうします、ユリアン、ユリアン、ああユリアンあなたが大好きなの」
棒読みだとしても、彼女が自分以外へ大好きなどと言うのを、もう今のシェーンコップは黙認できなかった。
「フロイライン、お前のせいで面倒なことになった。私の自制の努力をどうしてくれる」
「いいですよ自制なんて。嫌いなら嫌いっていってくだされば」
「なら、そうしよう」
ぴくり、とフロイラインの肩が震える。
嫌いと言えば、彼女やっぱり泣くけれど、それを受け入れるだろう。
でも、もし好きと伝えたら。
シェーンコップはフロイラインのベッドに腰かけて、言った。
「好きだ」
「っ……」
「先刻までの私のようにこの言葉を信じないなら、今度は私が毎朝想いを伝えることにしよう。
それならば納得してもらえるでしょうな?」
「う、嘘ですそんなの! 嘘に決まってる!」
「そう、実に! 私も同じように思っていた。こんなに歳の離れた娘が本気で言っているわけがないと思い込もうとした!
だが、間違いだった」
「……」
振り向くと、いつの間に布団の隙間から少しだけ顔を出していたフロイラインと目が合う。
まだ疑っている目だ。
「はぁ、フロイライン。布団から出て私に向き合いなさい」
「……はい」
まだ体に布団をかぶったまま起き上がる彼女を、シェーンコップは抱きしめた。
息の飲むのが聞こえる。なんて小さい体だろうか。
シェーンコップが今まで抱いたような女たちには、女らしさで言うとたしかに劣るかもしれない。
いつかローゼンリッターに認めてもらうのだと白兵戦のために訓練しているためか、体も女にしては少しばかり固い気がする。
胸だってないし、香水の香りもない。
けれどシェーンコップにはそれが良かった。
抱きしめるのにはちょうど良い大きさだが、力を込めても壊れたりしない。
偽りの香りがしないのもまた、安心させる。
「ちゅっ、ちゅじょう!」
「さて、キスくらいしてもいいだろう」
「ま、ま、まってくだひゃいいぃい」
「なに、これからはお前以外にキスはしないさ」
「そういうんじゃ――」
キスをしてしまえば、彼女はおとなしかった。いや、あんまり驚いて固まっただけかもしれない。
シェーンコップにすればお遊びのような軽いキスでも、フロイラインにとっては生涯初めてのキスなのだ。
シェーンコップはそれを知っていて、優しく唇を押し当てた。
「すまなかった、私は心底――フロイライン、お前に惚れている」
「中将……わ、わたしも、私も好きすぎて死にそうです……!」
「ああ」
やっと伝わったんだ、と彼女は顔を真っ赤にしながら嬉しそうに笑う。
扉の前でポプラン達が聞き耳を立てていることを、二人は知らない。
伝える、伝わる
2015,10,23