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▽いつわりの笑み
嘘をつかれるのが嫌いだ。
だから時々航路で出会うこの男のことが、あまり好きではない。
「また会ったわね、キッド海賊団」
「あ?おめぇか」
「雑な態度ね」
「もう見飽きたんだよそのツラ。もういちいち喧嘩する気にもなれねぇ、消耗するだけだ」
「同意だわ」
その男の船長も、気に食わない男だけれど。愚直に見えて冷静になれば頭の回る男だ。あんまり航路で会おう事が多いから、もういちいち喧嘩にすら発展しなくなった。ああ、口喧嘩は別だけれど。
「ねえ、キラーはいるの? ちょっと貸してよ」
「あいつならもうお前らの船見て逃げてったぞ」
「はぁ? 何よそれ、つまんない」
「おめぇがあいつに絡みすぎるんだ」
「あんまり好きじゃないんだけど、もしかしたら好きになれそうな相手っていない?そういう相手ほど、気になっちゃうのよ」
「ほぉ? 本気で言ってんのか」
「彼の顔見るまで本気になれるかはわからないわ」
「はぁ、せいぜい自分ちの船長とオレには迷惑かけねぇようにするこった」
「半分くらいは善処するわ」
その半分っていうのも、自分の船長にって意味だけど。
そう、その男の名前はキラー。いつもおかしなヘルメットをかぶっているスタイルのいい男。見た目はあんなだけど、ちょっと話してみたら常識人で、そんな感じが気になっている。
嘘つきっていうのは、彼の笑い声のこと。取引先にでもするように、そっと息を吐くように笑うだけ。一度だけ大笑いさせそうになったことがあったのよ。でも、トイレににげられちゃった。
だからあいつが気になるし、お互い嫌いじゃないはずなのになかなか壁を崩さないところが、好きじゃない。
「せんちょー、ちょーっと出かけてきていいかしら」
「お前、さっき船番するって言ったろうが」
「そうおもったけれど、暇つぶしがどっかに出掛けちゃったらしいのよ。ってわけで代わりによろしくねん」
「なんてクルーだお前は本当に…」
たまのわがままなんだから、聞いてくれたっていいじゃない。バッグをひっつかんで、街に繰り出した。
この街にはパスタの専門店があった。
まあでも、私から逃げてるんだから、パスタ屋にいると見せかけて向かいのカフェにいるような気がする。覗くと、一番奥の席にいるのがすぐにわかった。目立つに決まってるわよ、その恰好は。
「ハァイ、相席いいかしら?」
「……席は他にも空いていているように見えるが?」
「釣れない男ね。女性から誘ってるのよ?」
「逃げてきたと知っているくせに、ずいぶんな物言いだなドルカ」
カフェオレ一つを店員に頼む。キラーはそれを見てポケットに手を伸ばした。
「まだコーヒーがずいぶんと残ってるじゃない」
「口に合わなかっただけだ」
「なら私が頼んだのと交換しましょう。口に合うかも。」
私が頼んだのはホットだ。すぐに運ばれてきて、キラーのアイスコーヒーと交換する。ホットにストローはつかない。彼は私がくわえたストローをみてため息をついた。
「いいのよ~そのメット外して飲めばいいのよ」
「つくづく嫌な女だ。年下のおことをいじめて楽しいか」
「そういいながら付き合ってくれるのね」
腕を伸ばして、マスクに手をかける。その手をキラーがつかむ。
「その下を知っている女はいるの?」
「故郷にはな」
「ここはグランドラインよ、あなたの故郷にはもう戻れない。だから、居ないのね、マスクの下を知ってる女は」
ねえ、見せてよ。
秘め事のように、そっとつぶやく。
ほらほら、コーヒー冷めちゃうわよ。
「見せればお前は消えるか」
「嫌よ、なんでやっと壁を取っ払ったところで消えなきゃなの」
「後悔する。世の中顔を隠すのは大抵ブ男だ」
「美男子なんて求めてないわ」
キラーは深くため息をついた。後頭部に手を回し、がちゃん、とキーの外れるような音がする。まだ、マスクに手をかけていた。
もう好きにしろと言いたげだ。昼間のカフェなのに、夜のホテルのような緊張感が走る。
そうっともち上げ、彼の結ばれた赤い口元が見えた。
「誰がブ男ですって?」
拒否する様子もないので、そのまま腕を上げていく。もっさりと毛量の多い髪が現れた。その隙間から、下まつげの長い目が覗き見えた。
「…気はすんだか」
「私は珈琲を飲めるように上げてあげたのよ」
キラーはカップを持ち上げて、口元に運ぶ。初めて見るこの男の顔。
「ふ、なんだその顔は」
「照れてる女を見て笑う男だったのね」
「ふ、ふふ、ファッファッ、」
ふぅん
本当はそんな風に笑うのね、あなたって。
ひとしきり笑い終えると、彼はもうマスクをかぶりなおす様子もなく机に置き、椅子に背を預けた。
「で、感想は?」
「あなたが嫌いだったところなおしてくれたから、惚れちゃったわよ」
やるじゃない。
そういうと、キラーは口の端をニヤリとあげて、誘うようにもう一度カップに口づけをした。
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▽いつわりの笑み
嘘をつかれるのが嫌いだ。
だから時々航路で出会うこの男のことが、あまり好きではない。
「また会ったわね、キッド海賊団」
「あ?おめぇか」
「雑な態度ね」
「もう見飽きたんだよそのツラ。もういちいち喧嘩する気にもなれねぇ、消耗するだけだ」
「同意だわ」
その男の船長も、気に食わない男だけれど。愚直に見えて冷静になれば頭の回る男だ。あんまり航路で会おう事が多いから、もういちいち喧嘩にすら発展しなくなった。ああ、口喧嘩は別だけれど。
「ねえ、キラーはいるの? ちょっと貸してよ」
「あいつならもうお前らの船見て逃げてったぞ」
「はぁ? 何よそれ、つまんない」
「おめぇがあいつに絡みすぎるんだ」
「あんまり好きじゃないんだけど、もしかしたら好きになれそうな相手っていない?そういう相手ほど、気になっちゃうのよ」
「ほぉ? 本気で言ってんのか」
「彼の顔見るまで本気になれるかはわからないわ」
「はぁ、せいぜい自分ちの船長とオレには迷惑かけねぇようにするこった」
「半分くらいは善処するわ」
その半分っていうのも、自分の船長にって意味だけど。
そう、その男の名前はキラー。いつもおかしなヘルメットをかぶっているスタイルのいい男。見た目はあんなだけど、ちょっと話してみたら常識人で、そんな感じが気になっている。
嘘つきっていうのは、彼の笑い声のこと。取引先にでもするように、そっと息を吐くように笑うだけ。一度だけ大笑いさせそうになったことがあったのよ。でも、トイレににげられちゃった。
だからあいつが気になるし、お互い嫌いじゃないはずなのになかなか壁を崩さないところが、好きじゃない。
「せんちょー、ちょーっと出かけてきていいかしら」
「お前、さっき船番するって言ったろうが」
「そうおもったけれど、暇つぶしがどっかに出掛けちゃったらしいのよ。ってわけで代わりによろしくねん」
「なんてクルーだお前は本当に…」
たまのわがままなんだから、聞いてくれたっていいじゃない。バッグをひっつかんで、街に繰り出した。
この街にはパスタの専門店があった。
まあでも、私から逃げてるんだから、パスタ屋にいると見せかけて向かいのカフェにいるような気がする。覗くと、一番奥の席にいるのがすぐにわかった。目立つに決まってるわよ、その恰好は。
「ハァイ、相席いいかしら?」
「……席は他にも空いていているように見えるが?」
「釣れない男ね。女性から誘ってるのよ?」
「逃げてきたと知っているくせに、ずいぶんな物言いだなドルカ」
カフェオレ一つを店員に頼む。キラーはそれを見てポケットに手を伸ばした。
「まだコーヒーがずいぶんと残ってるじゃない」
「口に合わなかっただけだ」
「なら私が頼んだのと交換しましょう。口に合うかも。」
私が頼んだのはホットだ。すぐに運ばれてきて、キラーのアイスコーヒーと交換する。ホットにストローはつかない。彼は私がくわえたストローをみてため息をついた。
「いいのよ~そのメット外して飲めばいいのよ」
「つくづく嫌な女だ。年下のおことをいじめて楽しいか」
「そういいながら付き合ってくれるのね」
腕を伸ばして、マスクに手をかける。その手をキラーがつかむ。
「その下を知っている女はいるの?」
「故郷にはな」
「ここはグランドラインよ、あなたの故郷にはもう戻れない。だから、居ないのね、マスクの下を知ってる女は」
ねえ、見せてよ。
秘め事のように、そっとつぶやく。
ほらほら、コーヒー冷めちゃうわよ。
「見せればお前は消えるか」
「嫌よ、なんでやっと壁を取っ払ったところで消えなきゃなの」
「後悔する。世の中顔を隠すのは大抵ブ男だ」
「美男子なんて求めてないわ」
キラーは深くため息をついた。後頭部に手を回し、がちゃん、とキーの外れるような音がする。まだ、マスクに手をかけていた。
もう好きにしろと言いたげだ。昼間のカフェなのに、夜のホテルのような緊張感が走る。
そうっともち上げ、彼の結ばれた赤い口元が見えた。
「誰がブ男ですって?」
拒否する様子もないので、そのまま腕を上げていく。もっさりと毛量の多い髪が現れた。その隙間から、下まつげの長い目が覗き見えた。
「…気はすんだか」
「私は珈琲を飲めるように上げてあげたのよ」
キラーはカップを持ち上げて、口元に運ぶ。初めて見るこの男の顔。
「ふ、なんだその顔は」
「照れてる女を見て笑う男だったのね」
「ふ、ふふ、ファッファッ、」
ふぅん
本当はそんな風に笑うのね、あなたって。
ひとしきり笑い終えると、彼はもうマスクをかぶりなおす様子もなく机に置き、椅子に背を預けた。
「で、感想は?」
「あなたが嫌いだったところなおしてくれたから、惚れちゃったわよ」
やるじゃない。
そういうと、キラーは口の端をニヤリとあげて、誘うようにもう一度カップに口づけをした。
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