7章 シャイルとミズカ
「すみません。すぐにこれに着替えて隣の部屋へ来てください」
怪訝になっていると、少女がジーパンと黒いコート、マフラーにハンチング帽を押し付けてきた。ミズカは何か言おうと口を開いたが、その前に二人は部屋を出て行ってしまった。
「一体……、なんなの?」
呆然としながら、渡された衣類を見た。たしかに、今のジャージにTシャツの部活の姿だと着替えた方が良い。しかし、ハンチング帽とマフラーを見ると、まるで身を隠せとでも言われているようだった。
嫌な予感がする。そう思いながらも、とりあえず着替える事にした。そして、隣の部屋で待っている二人の所へ行く。
「あの……」
「よし、今から説明する」
父親はミズカが部屋に入るなり、すぐに説明した。まず、ここがポケモンの世界であり、ミズカが普段見ているアニメの世界だということ。
そして昔にミズカがこの世界へ来たことがあること、次に北風使いや破滅の鍵、そして、NWGという組織に狙われていることを説明した。
「つまり、あたしが北風使いで、狙われてるから、この服で身を隠せと?」
「そうです」
嫌な予感は的中だった。まさか、狙われているとまで思ってはいなかったのだが。
「でも、あたしなんかに、世界を救うなんて出来るわけないじゃん……。かなり責任が……」
世界と言われても広すぎて、ピンとこない。責任が重いとは思うが、あまり実感がなかった。そんな適当で曖昧な気持ちではやりたくない。
「あなたしか……、いないんです」
マルナの言葉を詰まらせる。たった二時間くらい前まで、自分の事で精一杯だった自分に何が出来るだろう? 自分に、この世界を守る事が出来るのだろうか。
「大丈夫です。あなたは、一人ではありませんから」
不安な表情を浮かべるミズカに、マルナがニコッと話しかけた。それでも心は晴れず、結局、複雑な気持ちのままで頷いた。それから説明されたのは、これからの行動だった。
「これから、お前には組織に入ってもらう」
「……はい?」
あまりにも唐突過ぎて、ミズカは理解出来なかった。何故、わざわざ敵の中へ突っ込まなければならないのだろう。
「安心しろ。NWGのボスがお前とわかっていても捕まえることはない」
「なんで?」
「鍵が見つからんと、目的を果たせないからだ。鍵が見つかるまでは、組織内にもお前が北風使いである事は言わないだろう。それに、下手にオーキド研究所へ行くより、組織に入った方が、管理のもとにいるお前をボスはある程度自由にするはずだ」
だったら……。とミズカは何か言おうとしたが、口を噤んだ。身を隠す必要がないと言いたかった。
「他の奴にバレて、騒ぎになったら大変だろう。組織はお前を捕まえるしかなくなる」
「そっか……」
「組織に入り、二、三週間経ったら、様子を伺って警察に連絡しろ。無事というのは伝えておかないとならない」
「うん、わかった」
「その後、占い師のところへ行く」
「……占い師ってさっき話してた?」
頷く父親に、「わかった」と返した。鍵が見つかるまでは何とかなるだろう。ミズカはそう思ったのだが、
「鍵を探すフリはしてろ」
「え?」
「そうしないと、捕まって無理矢理探す事になるぞ」
と父親に言われ苦笑し、ため息をついた。結局のところ自由はないらしい。
「それから、サトシ達の事だが……」
「その人達に、会うつもりはないよ」
「いや、会ってもらいたいんだが」
ノリタカの言葉に、ミズカは「無理」と即答し、後に続けた。
「知らないあたしを知ってる人に会いたくない。それにその人達まで巻き込まれても責任とれないよ。昔の仲間だったなら、尚更、巻き込んじゃいけないと思う。あたしの記憶が戻るかもしれないとか、相手が心配してるからっていう理由だったら、やめたほうが良いと思う」
「……そうか。だったら、好きにするといい。サトシ達に会いたいと思ったら言ってくれ」
一度言えば聞かない娘なのを知っていた。そのため、ノリタカはもうそれ以上言わなかった。
「じゃあ、早速、NWGに行くね」
「待て。こいつを連れていけ」
落ち着きのないミズカに、一つのモンスターボールを渡した。
「その中にはサーナイトがいる。お前が昔連れていたポケモンの一匹だ」
「あ、うん……。ありがとう」
こうして、ミズカのNWGによる生活は始まった。組織にはすぐに入れたが、一番大変だったのは、男口調に変え、自分を俺と呼ぶことだった。北風使いが女であると知られているため、少しでもバレないようにしようと、男口調にしたのだ。
怪訝になっていると、少女がジーパンと黒いコート、マフラーにハンチング帽を押し付けてきた。ミズカは何か言おうと口を開いたが、その前に二人は部屋を出て行ってしまった。
「一体……、なんなの?」
呆然としながら、渡された衣類を見た。たしかに、今のジャージにTシャツの部活の姿だと着替えた方が良い。しかし、ハンチング帽とマフラーを見ると、まるで身を隠せとでも言われているようだった。
嫌な予感がする。そう思いながらも、とりあえず着替える事にした。そして、隣の部屋で待っている二人の所へ行く。
「あの……」
「よし、今から説明する」
父親はミズカが部屋に入るなり、すぐに説明した。まず、ここがポケモンの世界であり、ミズカが普段見ているアニメの世界だということ。
そして昔にミズカがこの世界へ来たことがあること、次に北風使いや破滅の鍵、そして、NWGという組織に狙われていることを説明した。
「つまり、あたしが北風使いで、狙われてるから、この服で身を隠せと?」
「そうです」
嫌な予感は的中だった。まさか、狙われているとまで思ってはいなかったのだが。
「でも、あたしなんかに、世界を救うなんて出来るわけないじゃん……。かなり責任が……」
世界と言われても広すぎて、ピンとこない。責任が重いとは思うが、あまり実感がなかった。そんな適当で曖昧な気持ちではやりたくない。
「あなたしか……、いないんです」
マルナの言葉を詰まらせる。たった二時間くらい前まで、自分の事で精一杯だった自分に何が出来るだろう? 自分に、この世界を守る事が出来るのだろうか。
「大丈夫です。あなたは、一人ではありませんから」
不安な表情を浮かべるミズカに、マルナがニコッと話しかけた。それでも心は晴れず、結局、複雑な気持ちのままで頷いた。それから説明されたのは、これからの行動だった。
「これから、お前には組織に入ってもらう」
「……はい?」
あまりにも唐突過ぎて、ミズカは理解出来なかった。何故、わざわざ敵の中へ突っ込まなければならないのだろう。
「安心しろ。NWGのボスがお前とわかっていても捕まえることはない」
「なんで?」
「鍵が見つからんと、目的を果たせないからだ。鍵が見つかるまでは、組織内にもお前が北風使いである事は言わないだろう。それに、下手にオーキド研究所へ行くより、組織に入った方が、管理のもとにいるお前をボスはある程度自由にするはずだ」
だったら……。とミズカは何か言おうとしたが、口を噤んだ。身を隠す必要がないと言いたかった。
「他の奴にバレて、騒ぎになったら大変だろう。組織はお前を捕まえるしかなくなる」
「そっか……」
「組織に入り、二、三週間経ったら、様子を伺って警察に連絡しろ。無事というのは伝えておかないとならない」
「うん、わかった」
「その後、占い師のところへ行く」
「……占い師ってさっき話してた?」
頷く父親に、「わかった」と返した。鍵が見つかるまでは何とかなるだろう。ミズカはそう思ったのだが、
「鍵を探すフリはしてろ」
「え?」
「そうしないと、捕まって無理矢理探す事になるぞ」
と父親に言われ苦笑し、ため息をついた。結局のところ自由はないらしい。
「それから、サトシ達の事だが……」
「その人達に、会うつもりはないよ」
「いや、会ってもらいたいんだが」
ノリタカの言葉に、ミズカは「無理」と即答し、後に続けた。
「知らないあたしを知ってる人に会いたくない。それにその人達まで巻き込まれても責任とれないよ。昔の仲間だったなら、尚更、巻き込んじゃいけないと思う。あたしの記憶が戻るかもしれないとか、相手が心配してるからっていう理由だったら、やめたほうが良いと思う」
「……そうか。だったら、好きにするといい。サトシ達に会いたいと思ったら言ってくれ」
一度言えば聞かない娘なのを知っていた。そのため、ノリタカはもうそれ以上言わなかった。
「じゃあ、早速、NWGに行くね」
「待て。こいつを連れていけ」
落ち着きのないミズカに、一つのモンスターボールを渡した。
「その中にはサーナイトがいる。お前が昔連れていたポケモンの一匹だ」
「あ、うん……。ありがとう」
こうして、ミズカのNWGによる生活は始まった。組織にはすぐに入れたが、一番大変だったのは、男口調に変え、自分を俺と呼ぶことだった。北風使いが女であると知られているため、少しでもバレないようにしようと、男口調にしたのだ。