7章 シャイルとミズカ

「こうなるとわかっていた。だから、八年前、血の繋がった娘を殺そうとしたんだ」

ノリタカはミズカを見た。彼女の表情は、少し悲しそうである。

「許されることじゃないのは百も承知だった。刺した後、どれだけ後悔したことか……。だがな、退くわけにはいかなかった」

『辛い事があったのなら、殺してやった方が楽になる……そう思わないか?』

サトシはノリタカに言れた言葉を思い出した。辛い事が重なっているミズカを見ていられず、父親を止めようと追いかけた。結果、この言葉が返ってきたのだ。きっと、これは今の状況も含めて言った言葉だったのだろう。

「ミズカを殺せば、将来、世界の破滅の心配がない。ミズカも辛い思いはしない。そう自分に言い聞かせていた。本当にすまなかったな」

悔いても悔いきれぬ過去に、ノリタカはただ娘に謝ることしか出来なかった。たとえ彼女にその時の記憶がなくとも許されることではない。

「もういいよ。お父さんのやったことは確かに許されないし、聞いた時はさすがに動揺した。でも、もう済んだことだし、その分助けてもらってる。だから、もう平気だよ」
「ミズカ……」
「ほらほら、早く説明してあげて!」

ニコッと笑って急かすミズカは本当の心境を隠している様だった。無理やりに笑う顔。サトシはあの時から変わっていないミズカを見て、眉を潜めた。

「わかった。お前は隣の部屋に行ってろ。そのコートじゃ動くのに重いだろ。隣に動きやすい服を用意しておいた」

そんな父に、ミズカはお礼を言って部屋を出て行った。マルナは、ミズカが気になったが、一人にしておいた方が良いと思い、彼女について行かなかった。

ノリタカはミズカが出て行ったことを確認すると、口を開く。

「たしか、もう三、四ヶ月も前になるな。マルナが慌てて俺の所へ来たのは」
「マルナが?」

サトシが、驚いてマルナを見た。彼女は、頷いている。

「えぇ。母が北風使い様をあちらの世界からこちらの世界に、連れてくると偶々聞いてしまって……。ノリタカさんの事は、調べさせてもらっていました。北風使い様の父親だということを知っていたんです。そこで、北風使い様を助けることにしました」

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