7章 シャイルとミズカ
「今、何処にいるの?」
「クチバシティに向かって歩いてる。だから待ってて」
「え?」と聞き返すが、タカナオはもう一度、「待ってて!」と言って一方的に電話を切ってしまった。
「……切れたのか?」
「はい。なんかタカナオに、きつく、クチバシティでそのまま待っていろと……」
サトシに聞かれ、ミズカは苦笑しながら答えた。
「待つの、嫌なのかい?」
シゲルの質問に彼女はちょっと困った表情で首を横に振った。
「タカナオに、本気でそんなこと言われたの初めてだったので……。ちょっと驚いてるんです……。あ、着きました」
ミズカが答えている間に、目的地へと着いた。そこは住宅街の中にあり、他の家と何一つ変わらなかった。ミズカはノックも何もせず、勝手にドアを開けて中へ入って行った。
それに続いてマルナもスタスタ歩いていく。少し躊躇うが、二人が入ったなら大丈夫だろう。そう思ってサトシとシゲルも入って行ったのだが。
「く、暗くないか?」
入ってすぐに口を開いたのはサトシだった。とても暗い。前が見えず、隣にいる人と前にいる人がやっと見えるくらいだった。
「いつもの事です。もうじき、明かりが灯りますよ」
マルナが言うと同時に、廊下に備え付けられていたロウソクに火が灯った。すると辺りが一気に明るくなり、すぐそこにドアがあることに気づいた。なんの躊躇いもなく、ミズカがドアを開ける。その部屋も廊下と同じで暗かった。
「お邪魔します」
マルナが先頭になって部屋へ入る。
「……よく来たな。ミズカ、それにマルナ」
「こんにちは」
中にいたのは、五十代前半の男性。その男を見て、サトシとシゲルは目を見開いた。二人はこの男性を知っているのだ。
「サトシもシゲルも久しぶりだな」
男性が話しかけた。驚いて声も出ないのか、サトシは口をパクパクさせている。シゲルも驚きを隠せない様子だった。まさか、彼にこんなに早く再会するとは思っていなかったのだ。と言っても、ミズカ同様、8年ぶりの再会だが。
「と――」
彼を呼びかけて口を噤んだ。ミズカには記憶がない。彼女の目の前でこの呼び方はタブーだ。
「もう昔のことは聞いてます。どうぞ気になさらないで下さい」
しかし、ミズカは知っていた。どうやら、目の前の男性に聞いているらしい。
「お父さん。サトシさんとは異母兄妹なんだよね?」
ミズカが確認するように聞くと、五十代の男性、ノリタカは頷いた。
「一体何処まで知ってるんだい? どうして、そこまで……」
シゲルが口を開いた。そこまで知る必要が何処にあるのか不思議に思ったのである。
「この町にいる、占い師に聞いたんです。昔の記憶を思い出せば、破滅の鍵は見つかると……」
「占い師だって?」
占い師という言葉を聞いて、乗り出すように聞いた。ミズカは、黙って頷く。
「しかし、ミズカはいくら昔の話を聞いても、調べても、思い出せなかった。俺がナイフで刺したという話をしてもだ」
二人は何も言えなかった。あまり八年前の、ミズカがナイフで刺された事を思い出したくない。ミズカとの旅の記憶が戻ってからというもの、サトシは時々夢に見てはうなされる。
タカナオが旅立った日、そのときの夢にうなされて、サトシはカスミに突っかかった。
「今なら八年前、ミズカを殺そうとした理由がわかるだろう?」
「……ミズカが北風使いだから……ですね」
シゲルが言う。八年前の残酷な出来事……。父親が娘を刺す。思ってもみなかった。あの時は理由もわからず、ミズカも戸惑いと恐怖を隠せていなかった。
「クチバシティに向かって歩いてる。だから待ってて」
「え?」と聞き返すが、タカナオはもう一度、「待ってて!」と言って一方的に電話を切ってしまった。
「……切れたのか?」
「はい。なんかタカナオに、きつく、クチバシティでそのまま待っていろと……」
サトシに聞かれ、ミズカは苦笑しながら答えた。
「待つの、嫌なのかい?」
シゲルの質問に彼女はちょっと困った表情で首を横に振った。
「タカナオに、本気でそんなこと言われたの初めてだったので……。ちょっと驚いてるんです……。あ、着きました」
ミズカが答えている間に、目的地へと着いた。そこは住宅街の中にあり、他の家と何一つ変わらなかった。ミズカはノックも何もせず、勝手にドアを開けて中へ入って行った。
それに続いてマルナもスタスタ歩いていく。少し躊躇うが、二人が入ったなら大丈夫だろう。そう思ってサトシとシゲルも入って行ったのだが。
「く、暗くないか?」
入ってすぐに口を開いたのはサトシだった。とても暗い。前が見えず、隣にいる人と前にいる人がやっと見えるくらいだった。
「いつもの事です。もうじき、明かりが灯りますよ」
マルナが言うと同時に、廊下に備え付けられていたロウソクに火が灯った。すると辺りが一気に明るくなり、すぐそこにドアがあることに気づいた。なんの躊躇いもなく、ミズカがドアを開ける。その部屋も廊下と同じで暗かった。
「お邪魔します」
マルナが先頭になって部屋へ入る。
「……よく来たな。ミズカ、それにマルナ」
「こんにちは」
中にいたのは、五十代前半の男性。その男を見て、サトシとシゲルは目を見開いた。二人はこの男性を知っているのだ。
「サトシもシゲルも久しぶりだな」
男性が話しかけた。驚いて声も出ないのか、サトシは口をパクパクさせている。シゲルも驚きを隠せない様子だった。まさか、彼にこんなに早く再会するとは思っていなかったのだ。と言っても、ミズカ同様、8年ぶりの再会だが。
「と――」
彼を呼びかけて口を噤んだ。ミズカには記憶がない。彼女の目の前でこの呼び方はタブーだ。
「もう昔のことは聞いてます。どうぞ気になさらないで下さい」
しかし、ミズカは知っていた。どうやら、目の前の男性に聞いているらしい。
「お父さん。サトシさんとは異母兄妹なんだよね?」
ミズカが確認するように聞くと、五十代の男性、ノリタカは頷いた。
「一体何処まで知ってるんだい? どうして、そこまで……」
シゲルが口を開いた。そこまで知る必要が何処にあるのか不思議に思ったのである。
「この町にいる、占い師に聞いたんです。昔の記憶を思い出せば、破滅の鍵は見つかると……」
「占い師だって?」
占い師という言葉を聞いて、乗り出すように聞いた。ミズカは、黙って頷く。
「しかし、ミズカはいくら昔の話を聞いても、調べても、思い出せなかった。俺がナイフで刺したという話をしてもだ」
二人は何も言えなかった。あまり八年前の、ミズカがナイフで刺された事を思い出したくない。ミズカとの旅の記憶が戻ってからというもの、サトシは時々夢に見てはうなされる。
タカナオが旅立った日、そのときの夢にうなされて、サトシはカスミに突っかかった。
「今なら八年前、ミズカを殺そうとした理由がわかるだろう?」
「……ミズカが北風使いだから……ですね」
シゲルが言う。八年前の残酷な出来事……。父親が娘を刺す。思ってもみなかった。あの時は理由もわからず、ミズカも戸惑いと恐怖を隠せていなかった。