7章 シャイルとミズカ
――あたしは……、どうすればいいの?
先程のサトシの言葉に、ミズカに迷いが出ていた。黙ったまま、その場に立ち尽くしている。
バレた今、素直に応じればいいのだが、それができなかった。
――あたしに……、帰る場所なんて……あるの?
わからなかった。彼らの所へ行った所で、自分にちゃんと居場所があるのか。記憶がない自分を彼らは受け止めてくれるのだろうか。いや、受け止めてくれたとしても、自分は迷惑をかけるだけだ。
しかし、タカナオやリョウスケの事も気になるのも、昔の自分がどんな旅をしていたのか気になるのも事実だ。記憶も戻るかもしれない。
一度、彼らの所へ行って、また出て行くという方法もあるが、その間に敵が現れたら? きっと、関係のない彼らを巻き込んでしまう。ならば最初から、彼らの所に行かない方が良い。今は、自分より他人だ。
「俺に、……帰る場所はない」
これで良い。タカナオのことはリョウスケに連絡すればわかる。彼らに会っても記憶が戻らないなら、もう会う必要はない。そう思い、歩こうとするが、マルナは未だに手を離さず、それどころか力を入れて進ませないようにしていた。
「もう良いです。もう良いですから……」
マルナは、ミズカに抱きついた。顔を見上げ、帽子とマフラーの隙間にわずかに見える彼女の目を見た。マルナはまるで駄々をこねる子供のようだとミズカは思う。
「男口調もやめて良いです。ハンチング帽子も、マフラーもとって良いです。もう……、自分を隠さないで下さい……」
「マルナ……」
「もう……、良いじゃないですか……。彼らなら……、たとえ、あなたの記憶が戻らなくても受け止めてくれます。彼らなら……、あなたが思うような大きな傷を負うことはないと思います……」
マルナの言葉に、足が進まなくなった。辛い。本当は物凄く辛い。世界の破滅なんて、何故考えなきゃならないのか不思議でしょうがなかった。
何故、自分が?
何故、この世界が?
考えても切りがないこの疑問に彼女は押し潰されそうだった。
「待ってたんだ。8年前から」
色々、考えを駆け巡らせていると、徐にサトシが口を開いた。ミズカのところまでゆっくり歩いて来る。
「ミズカに、こうして再び会える日を」
ニコッと笑うサトシに戸惑った。一歩踏み出せない自分がここにいる。すぐに決断出来ない自分が情けない。
「僕達にとって、君はそのくらい大切な存在なんだよ」
後ろから声がする。振り向くとシゲルがいた。自分は彼らとどんな過去を歩んでいたのだろうか。
「皆、お前を助けたいんだ」
優しい声色だった。けれど、絶対に退かないという意志を感じる声でもあった。
「……どうして?」
上ずった声になった。
「どうして……、そんなに……」
目に涙が溢れてきた。温かい。彼らの気持ちが伝わってくる。どうして、こんなにも真剣になってくれているのだろうか。
マルナの言った通りかもしれない。彼らなら、頼っても良い気がした。
怖かった。巻き込んじゃいけないと思っていた。そもそも自分は彼らにどう思われているかわからない。昔何があったかは知っている。サトシとの関係だって知っている。だから会う勇気などなかった。とくに、自分の中でのアニメのヒーロー、サトシには。
二人を見ると優しくニコッと笑いかけられた。ミズカは一呼吸おくと、ハンチング帽とマフラーをゆっくり外した。
「宜しく……お願いします」
ボスのカルナには、すでに北風使いだとバレている。たとえ、素顔を出しても出さなくてもやってくることは変わらない。手下達もカルナの指示の元、動いている。
襲うも襲わないも、彼女次第なのだ。つまり、彼女がこれを身に付けていた理由は、他からバレないためであり、目の前にいる彼らに見つからないようにするためだった。もう、これらは必要ない。
ミズカの素顔は、少し大人びたという印象だけで、あまり変わっていなかった。ただ、別れた時はショートだった髪の毛がロングに伸びており、ポニーテールにしてある。ようやくミズカの顔が見られてサトシとシゲルは安心した表情を浮かべる。
「初めまして、ミズカです。貴方達があたし達を追っていた事は知っていました。サトシさんにシゲルさん、アニメで存じています」
ミズカにとっては、初めましてという状況だった。彼らと旅をしていた記憶は戻っていない。二人は少し物寂しさを覚える。それだけじゃない。彼女が自分達に対して敬語なこと、名前が「さん」付けなことにも違和感に感じた。
先程のサトシの言葉に、ミズカに迷いが出ていた。黙ったまま、その場に立ち尽くしている。
バレた今、素直に応じればいいのだが、それができなかった。
――あたしに……、帰る場所なんて……あるの?
わからなかった。彼らの所へ行った所で、自分にちゃんと居場所があるのか。記憶がない自分を彼らは受け止めてくれるのだろうか。いや、受け止めてくれたとしても、自分は迷惑をかけるだけだ。
しかし、タカナオやリョウスケの事も気になるのも、昔の自分がどんな旅をしていたのか気になるのも事実だ。記憶も戻るかもしれない。
一度、彼らの所へ行って、また出て行くという方法もあるが、その間に敵が現れたら? きっと、関係のない彼らを巻き込んでしまう。ならば最初から、彼らの所に行かない方が良い。今は、自分より他人だ。
「俺に、……帰る場所はない」
これで良い。タカナオのことはリョウスケに連絡すればわかる。彼らに会っても記憶が戻らないなら、もう会う必要はない。そう思い、歩こうとするが、マルナは未だに手を離さず、それどころか力を入れて進ませないようにしていた。
「もう良いです。もう良いですから……」
マルナは、ミズカに抱きついた。顔を見上げ、帽子とマフラーの隙間にわずかに見える彼女の目を見た。マルナはまるで駄々をこねる子供のようだとミズカは思う。
「男口調もやめて良いです。ハンチング帽子も、マフラーもとって良いです。もう……、自分を隠さないで下さい……」
「マルナ……」
「もう……、良いじゃないですか……。彼らなら……、たとえ、あなたの記憶が戻らなくても受け止めてくれます。彼らなら……、あなたが思うような大きな傷を負うことはないと思います……」
マルナの言葉に、足が進まなくなった。辛い。本当は物凄く辛い。世界の破滅なんて、何故考えなきゃならないのか不思議でしょうがなかった。
何故、自分が?
何故、この世界が?
考えても切りがないこの疑問に彼女は押し潰されそうだった。
「待ってたんだ。8年前から」
色々、考えを駆け巡らせていると、徐にサトシが口を開いた。ミズカのところまでゆっくり歩いて来る。
「ミズカに、こうして再び会える日を」
ニコッと笑うサトシに戸惑った。一歩踏み出せない自分がここにいる。すぐに決断出来ない自分が情けない。
「僕達にとって、君はそのくらい大切な存在なんだよ」
後ろから声がする。振り向くとシゲルがいた。自分は彼らとどんな過去を歩んでいたのだろうか。
「皆、お前を助けたいんだ」
優しい声色だった。けれど、絶対に退かないという意志を感じる声でもあった。
「……どうして?」
上ずった声になった。
「どうして……、そんなに……」
目に涙が溢れてきた。温かい。彼らの気持ちが伝わってくる。どうして、こんなにも真剣になってくれているのだろうか。
マルナの言った通りかもしれない。彼らなら、頼っても良い気がした。
怖かった。巻き込んじゃいけないと思っていた。そもそも自分は彼らにどう思われているかわからない。昔何があったかは知っている。サトシとの関係だって知っている。だから会う勇気などなかった。とくに、自分の中でのアニメのヒーロー、サトシには。
二人を見ると優しくニコッと笑いかけられた。ミズカは一呼吸おくと、ハンチング帽とマフラーをゆっくり外した。
「宜しく……お願いします」
ボスのカルナには、すでに北風使いだとバレている。たとえ、素顔を出しても出さなくてもやってくることは変わらない。手下達もカルナの指示の元、動いている。
襲うも襲わないも、彼女次第なのだ。つまり、彼女がこれを身に付けていた理由は、他からバレないためであり、目の前にいる彼らに見つからないようにするためだった。もう、これらは必要ない。
ミズカの素顔は、少し大人びたという印象だけで、あまり変わっていなかった。ただ、別れた時はショートだった髪の毛がロングに伸びており、ポニーテールにしてある。ようやくミズカの顔が見られてサトシとシゲルは安心した表情を浮かべる。
「初めまして、ミズカです。貴方達があたし達を追っていた事は知っていました。サトシさんにシゲルさん、アニメで存じています」
ミズカにとっては、初めましてという状況だった。彼らと旅をしていた記憶は戻っていない。二人は少し物寂しさを覚える。それだけじゃない。彼女が自分達に対して敬語なこと、名前が「さん」付けなことにも違和感に感じた。