7章 シャイルとミズカ

「き、君の母親がかい?」
「はい……。私は今まで、……母親に利用されていたんです。ですが……、限界で……、そんな私を助けてくれたのが、シャイル様でした」

震えた声で、マルナは言った。未だに俯いたままだ。シャイルは彼女の肩に軽く手をおいた。

「もう、言うな。二人も、もう良いだろ?」

シャイルが言うと、二人は頷いた。

母親に利用されていた娘を助けていた。サトシとシゲルは変わらない彼女に何とも言えない気持ちになった。

「悪い事を聞いてしまってすまなかったね」

シゲルが言うと、マルナは首を横に振った。

しばらく沈黙が続く。そこへ、タイミング悪く、飲み物が来た。店員は気まずそうな空気を感じると、飲み物を置き、そそくさと行ってしまった。

「もう用がないなら、俺達は行くぞ」

シャイルの言葉に、ハッとした。二人には、ちゃんと目的があり、リョウスケに頼まれていたこともある。

『サトシさん、シゲルさん。宜しくお願いします! シャイルさんとマルナを助けてやって下さい!』

それが、リョウスケからの頼みだった。救い方なんてわからない。今の状況で助け出せるとは思っていない。しかし、やらなきゃならないことのヒントを彼はくれた。

成功すれば、世界は暗闇から明るい世界へと変わる大事な一歩。いや、百歩くらいにはなるくらいのことだ。

「破滅の鍵は見つかったのか?」

咄嗟にサトシが質問をした。シャイルは首を横に振る。

「北風使いは?」

その言葉にも、シャイルは同じ素振りをした。

「一つ、聞いて良いかい?」

シゲルは呼吸を整える。リョウスケの言うことに半信半疑なところもあったが、一瞬の会話で確信が持てた。それに、無理はしているが声だって、懐かしさを感じる。

シャイルに一番聞きたかった質問を始めた。

「君は、タカナオを此方の世界に連れてくる時、マルナとリョウスケだけで、あっちの世界へ行かせたんだね?」
「あぁ。リョウスケが手伝ってくれると言ったからな」
「マルナの代わりにあっちの世界へ行こうとは思わなかったのかい?」

シャイルは、あまりマルナとリョウスケに危ない橋を渡らせたくなさそうに話していた。しかし、二人だけを行かせ、シャイルだけ、この世界へ残っていた。心配なら、マルナと交代するか、しなくても同行くらいするだろう。

「い、言われました。ですが、リョウスケと二人で十分だと私が言ったんです」
「もしリョウスケがいない状況だったら、どうしていた?」

シゲルは、マルナにではなく、シャイルに聞く。

「何が言いたい」
「これはリョウスケがいないと出来なかった作戦じゃなかったのかい?」
「いや、実行している」
「君は、あちらの世界へ行けないのに?」

シゲルの言葉に、シャイルはピンと来た。

――リョウスケの奴……。

この二人は、一部しか知らない自分の秘密を知っている。

――おかしいと思ったんだ。

シャイルは喉に詰まった嫌な物を飲み込んだ。

「何が言いたいか、わかったみたいだな」

サトシが、シャイルの様子を見て言った。マルナもわかったらしく、シャイルを不安げな表情で見つめた。

「マルナ、行くぞ」
「……は、はい」

シャイルはいきなり立ち上がると、威嚇するようにお金を置いた。そして、そそくさと店を出ていく。

「ま、待てよ!」
「代金は僕が払っておく。サトシは追ってくれ」
「わかった」

サトシはシゲルに頷くと、ピカチュウと一緒にシャイルとマルナを追いかけて行った。

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