7章 シャイルとミズカ

「いただきます」

緊張しつつも、タカナオ、ヒナ、そしてリョウスケは、用意されたショートケーキを口に入れた。前に並んで座っているカスミ、ハルカ、ヒカリは美味しそうにケーキを食べている。

タカナオは、チラッとカスミを見た。まだハルカやヒカリはまともに話を聞いてくれそうだが、姉と親友だと言っていた彼女は、リョウスケに対してどういう態度をとるのか、全く想像がつかなかった。

「あ、あの……」

イチゴを口に入れ、飲み込むとリョウスケが三人に話しかけた。

「どうしたのかも?」
「いつものリョウスケらしくないわね」

ハルカとヒカリが目をぱちくりさせながら言った。リョウスケは一呼吸する。

「さっき、占い師の件、不思議に思いませんでしたか?」

真剣な顔つきになった。カスミ達は顔を見合わせる。リョウスケの表情以外に、タカナオやヒナの表情を見ていると、二人も真面目に黙って頷いている。

「……? 占い師が悪の組織に繋がっている話?」
「はい。向こうの言い方、それを俺たちが知っている言い方でしたよね」
「そうね」
「……話さなきゃならねぇことがあって」

思いつめた表情のリョウスケがいる。カスミ達はフォークを置いて聞く態勢になった。

「今から言うことに、驚かないで下さい」

リョウスケは少し躊躇するも、やがて決心して口を開いた。

「……俺、ミズカさんを追っている組織の一員だった事があるんです」

その第一声に、三人は揃って凍りついた。タカナオとヒナを見るが、二人は目を合わせようとしない。

それからリョウスケは、言葉を選びながら、世界の破滅を望んでいる組織こそがNWGであること。リーグ優勝後に両親が捕まったこと。NWGがどんな卑劣な組織だったかということ。シャイルやマルナという同じ組織の裏切り者もいたこと。その二人が、サトシやシゲルが追っている人物だということ。とにかく、全てを話した。

「本当に、本当に……すみませんでした!」

リョウスケは席を立ち、深く頭を下げた。彼の声は震えている。

「り、リョウスケを怒らないで下さい!!」
「両親が捕まったなら、あたしもそうしてしまうと思います!」

タカナオもヒナも立ち上がり、深く頭を下げる。リョウスケは悪くない。悪いのはNWGの連中だと訴える。

「NWGが悪いのはわかったわ。まずは、三人とも落ち着きなさい」

カスミはそう言って三人を席に座らせた。

「でも、これからはこういう事はやめなさいよ」

カスミはキツく言った。それでも抑えているようだった。本当は思い切り怒りたかった。それでも出来なかったのは、リョウスケが相当な勇気を持って話してくれたのがわかったから。

リョウスケはカスミの気持ちを汲んだ。殴られても仕方ないと思っていた。堪えてくれているカスミに大きく頷いた。とはいえ、まだ隠していることがある。彼らを欺いていた最大の内容だ。

「それでまだ話があるんです。これは、タカナオにも、ヒナにも話してない……」

リョウスケはポケットから『リョウスケ君へ』と書かれた封筒を出した。そして、その中身の手紙を取り出す。

「これ……、リョウスケを応援してる人からの手紙じゃなかったっけ?」

以前、リョウスケが両親に渡された手紙だった。

「これは、俺を応援してくれてる人からの手紙じゃねぇよ」

タカナオは少し考えるとピンときた。リョウスケはあの時、両親が帰ってきていて驚いていた。そして、彼の両親は風変わりな旅人に助けられたと言っていたのだ。つまり、今までのリョウスケの話を繫げると、この手紙は、シャイルかマルナからの手紙となる。

「シャイルさんからの手紙だ」

リョウスケは、その手紙をタカナオに渡した。

「さっきサトシさんとシゲルさんには話した。シャイルさんには、無理に二人に会ってもらうように言った。今頃、クチバシティのファミレスへ会いに行ってるさ」

その言葉に驚いた。彼は、サトシとシゲルにもう全てを話していたらしい。

「お前が読め」
「ぼ、僕が?」

タカナオは聞き返した。リョウスケは頷いている。手紙を渡された彼は、ゆっくり読み始めた。読み進めながら思う。この世界の文字だから、さらっと流してしまっていた。あのとき、なぜ綺麗な字で気が付かなかったのか。なぜ、リョウスケが向こうの世界でタイミングよく自分を助けに来られたことに疑問に思わなかったのか。タカナオの顔色はやがて変わっていった。

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