6章 ハナダジムの戦い

「あ、あの人……!?」

小声で呟く。リョウスケと対峙した敵で間違いない。

「行かないと……」

席を立ち上がろうとしたタカナオに、ヒナは「駄目」と言って彼の腕を掴み、引っ張った。

「今、君が行ったら、混乱が更に大きくなるじゃない」

そう言われ、ハッとした。しかし、関係のない観客の人達を見ていると黙っているのが辛い。

「この中に、北風使いの弟君はいる?」

二十代くらいの男性……ジンが、観客席を見回しながら言った。探されて、ドキリとする。

「ここにはいないわ!」

ヒカリが言う。

「いるのはわかっているんだよ。でなきゃ、僕達は、ジムを襲ったりしない。僕が聞きたいのは、この観客席の中に紛れてるかってこと」
「いないわよ」

冷たくハルカが冷たく返す。

「わからない人達だね。シラをきるって言うなら良いけど」

男性はハルカから、視線を観客席に向けた。

「北風使いの弟君? いるなら出て来てくれないかなぁ? 出て来ないなら、関係のないお客さん達、皆、吹っ飛んじゃうよ?」

その言葉にタカナオは、ごくりと息を飲んだ。これ以上、関係ない人達を巻き込みたくはない。ヒナを見た。彼女は未だに首を横に振っている。

「わかったよ、弟君。君が出て来たら、ここにいる人達を皆、解放してあげるよ。約束する」

タカナオは、ヒナの手を振り払うと、恐る恐る静かに立ち上がった。カスミ、ハルカ、ヒカリ、そしてヒナは驚いた表情で彼に目を向けた。敵たちは、ニッと笑う。

「そうそう。初めから素直にならなきゃ。君達、観客席の扉を開けてきて」

ジンが言うと敵達が、観客席の扉を開けた。どうやら彼らは、ジンとリンクの手下みたいなものらしい。

「ここから出ると良い」

リンクの号令で観客達はあっという間に、ハナダジムから出て行った。残ったのは、タカナオ、ヒナ、カスミ、ハルカ、ヒカリとNWGの連中である。

「リザードン、火炎放射で縄を斬るのよ!」
「エーフィはサイコキネシスで、三人を助けるんだ!」

ヒナとタカナオの声が静けさを消し去った。リザードンは天井から、エーフィは椅子の裏から飛び出すと、指示通りに動いた。リザードンが火炎放射で縄を斬ると、エーフィのサイコキネシスにより、カスミ達をこちらに動かして助け出した。

タカナオとヒナは観客達が逃げている間にモンスターボールからポケモンを出しておいたのだ。

「二人とも、有難う」
「なかなかやるのね」
「かもかも」

三人はそれぞれに言うと、敵に視線を向けた。リョウスケがいないことに気づき、不審に思ったが今はそんな事を聞いている場合ではない。後回しすることにした。

「この間は逃げたが、今回は逃げないのか。北風使いの弟よ」

リンクがタカナオに話しかけた。タカナオは、ムッとした表情になる。

「僕は、お前らが許せない」

ギュッと拳を握る。タカナオの表情は、かなり恐かった。いつも穏やかな表情のせいかギャップがあり、一緒に旅をしているヒナはとくに驚いた。

「もう、これ以上、他の人が巻き込まれて苦しむのを見たくない。だから……、誰が何と言おうと僕は逃げない」

逃げたら、それだけ、関係のない人達が巻き込まれ、苦しむ。彼はそれを見ていられなかった。

何より、リョウスケが無理やりNWGに所属させられたことが許せなかった。それがなければ、リョウスケが暗い顔をする必要も、ヒナとの間に壁ができることもなかった。

「ふ、馬鹿げたことを。弱いクセに何を言ってるんだか」

飛び込み台からリンクに見下ろされ、下唇を噛む。たしかに、自分は弱い。しかし、その事を馬鹿にされたくない。
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