5章 初めてのジム戦、リョウスケの苦悩

「……ナ? ヒナ!?」
「え……?」
「……大丈夫? 休憩しようよ」

ボーッとしているヒナにタカナオが言った。彼女は小さく、「ごめん」と謝ると、開けたところの木にもたれるように座った。暗い表情の彼女に、タカナオはかける言葉が見つからなかった。

タカナオは顔を歪める。考えもしなかった。あの彼が、何故、悪の道へ進んだのだろうか。何か理由があるにしろ裏切られた気持ちになっているのは確かである。恐らくヒナも、タカナオと同じ気持ちだろう。二人はしばらく黙ったまま、そこから動かなかった。

「……行くわよ」

5分とせず沈黙を破り、ヒナは言った。彼女は静かに立ち上がった。

「リョウスケ、待たないの?」
「来ないかもしれないじゃない。ハナダシティに行って、カスミさんに伝えないと……」

タカナオの気持ちは無視し、彼女は俯き、勝手に歩き出した。ヒナの声は震えていた。それを追いかける。

「リョウスケは来る。敵に勝って、また僕達のところに戻って来るよ」
「勝てないかもしれないじゃない」
「……ヒナはリョウスケと幼馴染みなんでしょ? どうして信じられないんだよ。たしかにリョウスケは裏切りに近いことをしたかもしれない。でも、理由があるはずだ。違う?」

タカナオの言葉に彼女は立ち止まった。顔を上げる。彼女の目には涙が溜まっていた。タカナオは、いつも気の強い彼女の弱気な姿に思わずぎょっとする。

「わかってるわよ。リョウスケのことは信じてるわ! だけど、今は最悪な状況も考えないといけないの! あたしの……。あたしの役目は、君を守ることなんだから」

ヒナの目から涙がボロボロ溢れてきた。リョウスケを信じてはいる。トレーナーズスクールからの仲だ。旅立ちの日も彼と一緒だった。どちらが何のポケモンを選ぶかで揉めたこともあった。

それぞれの志は違っても、互いに応援していたし、連絡も取っていた。ヒナにとっては大切な友人だ。そのため、彼が組織に戻るとは全く考えていない。

しかし、もし万が一、彼が敵に負けてしまっていたら、タカナオは今より危険な状況に立たされる。そして何より、ヒナが一人で彼を守らなければならない。

「ハナダシティへ行って……、カスミさんの所へ行くのが今一番良い選択なの」

タカナオは何も言えなくなり、黙りこくる。

「—―悪かったな。黙ってて」

そんな暗い表情の二人の後ろから声がした。リョウスケである。彼は、少し後ろめたそうな表情を浮かべるも、二人の目の前に来た。二人は少し驚いたらしく、まじまじと彼を見る。しかし、目は逸らされた。

「ほんと、ごめん。混乱させちまって。……ある人との約束だったんだ。敵にこのことをバラされるまで、絶対に話さねぇって……」
「……どうしてそんなことをする必要があったのよ」
「最初から全て話したら、絶対、タカナオを守る役目をやらせてもらえないと思った。その人とは他にタカナオを守ること。そして、破滅の鍵を探すことを約束してるから」

ヒナに聞かれ、ちゃんと答えた。シャイルには、バレた時点で自分のこと以外のすべてのことを話しても良いと言われている。あまり話して欲しくはなさそうだったが。

「破滅の鍵って……。北風使いしか見つけることが出来ないんじゃ……」
「迷信かもしれないだろ? だから、とりあえず探すように言われてんだ」

リョウスケの言葉に、タカナオは少し顔を歪めた。もしも迷信で鍵が見つかりでもしたら、大変なことになると思ったからだ。

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