5章 初めてのジム戦、リョウスケの苦悩

「ふっ。逃がしたところで、お前が負ければ終わりだな」

メガネをかけ直しながら、敵が言った。

「簡単だ。勝てば良い」
「今のお前では、俺には勝てない。複雑な気持ちのままではな」

リョウスケの言葉に、ニヤリと笑いながら、敵は返事をする。彼は、眉間にしわを寄せた。

「いけ、オニドリル」

オニドリルが前に出てきた。リョウスケは、ギュッと一つのモンスターボールを握ると投げた。中から出てきたのは、デンリュウである。

「頼んだぞ、デンリュウ」

リョウスケの言葉に、デンリュウは頷いた。

「デンリュウか……。まあ良い。オニドリル、電光石火だ」

まずはオニドリルが先行してきた。

「正面から雷パンチだ!」

物凄い勢いでデンリュウは、電光石火をしてきたオニドリルに正面から攻撃した。威力は強く、オニドリルは吹っ飛んだ。

「さすが、リーグ優勝者の持っているポケモンは違うな」
「褒めたって何も出ないぞ」
「別に欲しい物などない。お前がこの私に捕まればな」

ニッと笑った敵に、リョウスケは思わず舌打ちした。敵は、「怖い怖い」と彼を馬鹿にする。

「デンリュウ、充電だ」
「組織に戻る気はないか? カルナ様なら、お前を歓迎するだろう」

充電をするデンリュウを横目に今度は勧誘し始めた。

「戻る気は、全くねぇな」
「シャイルとの約束だからか」
「……」

その言葉に、思わず詰まった。ギリッと歯を食い縛る。

「お前とマルナ嬢は妙にアイツに好いていたからな……。あんな男なのか女なのかも不明な奴の何処が良いのやら」
「雷だ」

リョウスケは敵の言うことを無視し、デンリュウに指示を出した。充電をしていたためか、オニドリルはその一撃で倒れる。冷たい目で見ると、敵はオニドリルをモンスターボールへ戻した。

「次は容赦なく、お前を攻撃する」
「何故そんなに抵抗する。シャイルとは、一ヶ月くらいしか共にしなかっただろう? 裏切ったところであっちが馬鹿だった事になる」

敵はリョウスケの前まで来た。最初からバトルをする気はなかったらしい。ただ彼を再び組織に入れようと交渉しに来たのだ。

「俺は、世界の破滅なんて、少しも望んじゃいねえよ」

リョウスケは何故そうまでして組織が自分を連れ戻したいのかをわかっている。シャイルを連れ戻したいからだ。男なのか、女なのかわからないとは言うが、シャイルの噂をリンクは知っているはずだ。幹部となれば尚更、シャイルの正体を知っているはず。

脳裏にタカナオやサトシ達の顔が思い浮かぶ。彼らへの最大の裏切りは、自分が組織にいたことではない。自分の知っていることを話していないことだ。

「……お前、本気でバトルした事があるか?」

拳を握りながら、リョウスケが聞いた。
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