5章 初めてのジム戦、リョウスケの苦悩

「その数週間後、また警察に連絡があったのよ。ミズカさんから」
「なんて言ってたの?」
「あたしは無事です。それよりも弟が危ないんです。助けて下さい。オーキド研究所に連絡を入れれば多分、何かわかるから。そう言ってたらしいわ。それだけ伝えて、後は切れたって」
「警察は、言われた通り、オーキド研究所に連絡した。そして、偶々帰ってきてた俺達が、ある組織からタカナオを守ることになった。わかるだろ? あの日だよ」

あれは姉のおかげだったのか。そう思うと、少し気が抜けた。当時、この話を聞いていたら、きっと自分は混乱していただろう。だから、彼らは今までこの事については話さなかったのだ。

「でもさ。それなら、お姉ちゃんの記憶は戻ってるんじゃない?」
「いや。昔の自分の事について知っていれば、記憶はなくとも、オーキド研究所に連絡しろと言えるだろ」

そう言われ、言葉が詰まった。たしかにそうだ。

「でもおかしな話よね。案外、NWGがある組織だったりして」
「それ本の読みすぎだよ」

ヒナの発想に思わずタカナオは笑ってしまった。「そうよね」とヒナもつられて笑った。

――本の読みすぎじゃねぇし……。

ため息をついてリョウスケは二人を見ていた。



「見~つけた。あれが北風使いの弟君らしいね」

そんな三人を空から見ている二人組がいた。一人は、ピジョットに乗り、もう一人はオニドリルに乗り、三人の様子を眺めている。

「お前は本部に伝えておけ。ここは私一人で十分だ」

オニドリルに乗った三十代ほどのメガネをかけた男性……リンクが、ピジョットに乗った二十代ほどの青年ジンにそう言った。

ジンはリンクに目をパチクリさせる。リンクは知らん顔だ。ジンがやりづらく感じていることを悟っているのだろう。それに邪魔をされては敵わない。そういう雰囲気でもあった。

ジンは、「了解」と少し嬉しそうに言いながら、ピジョットで何処かへ飛んでいった。

「さてと、仕事を開始するか」

メガネをかけた男性は、オニドリルに指示を出して地面に降りた。

「あれ以来、お姉ちゃんから連絡なかったって言ってたけどさ」
「ん?」
「敵も現れないし、捕まってたりしないかな……」

心配した表情でタカナオが言うと、リョウスケとヒナは顔を合わせ、困った表情をする。彼からすればかなり心配なはずだろう。

「教えてやろう。北風使いは捕まっていない」

すっかり暗い雰囲気になってしまった彼らの後ろから声がした。メガネをかけた三十代ほどの男性である。隣には、オニドリルがいる。

タカナオは、ごくりと息を飲んだ。彼らの目の前にいるのは間違いなく敵だろう。ついにある組織とご対面らしい。

「お前が北風使いの弟か」

そう聞かれ、額に冷や汗が出てくるのを感じた。彼の顔はひきつっている。

「ヒナ、タカナオを連れて逃げろ」

リョウスケの言葉に、タカナオは目を見開いた。

「行くわよ」

ヒナは冷静にタカナオの腕を引っ張り、逃げようとする。しかし、彼は拒んだ。

「リョウスケを置いて行くなんて嫌だよ!」
「冷静になりなさいよ。君が捕まったら大変でしょ! だから、君を逃がそうとリョウスケは……」
「違うな」

敵はニヤリと笑いながらヒナの言葉を遮った。タカナオとヒナは顔を見合わせると、怪訝な顔で男性を見つめる。

「まあ、たしかに、その考えもあるだろう。しかし奴には、もう一つ理由がある」
「やめろよ」

リョウスケはリンクを睨み付けた。二人には、聞いてはいけないことだと、すぐにわかった。しかし、聞かなくてはならないことだとも思ってしまい、金縛りに掛かったように足が動かなかった。

「こいつはな……」
「やめろ!」
「こいつは……」

楽しむようにリンクは、リョウスケを見る。彼は顔を歪めた。おそらく次の言葉は、二人を大きく動揺させるだろう。

「裏切り者だ。……我々、組織のな」

タカナオとヒナの中で、何かが砕ける音がした。敵が何を言っているのか理解出来ない。

「やめろ……って……」

リョウスケはわかっていた。敵に見つかれば、必ず自分についてバラされることは。だから覚悟もしていた。喉が渇く。手には汗が滲む。

いざ彼らを前にすると後ろめたい気持ちで一杯になってしまった。

「もう一度言う。こいつは、我々組織の裏切り者だ」

リンクの二度目の言葉で、タカナオとヒナはやっと理解したようだった。こちらを見られている。リョウスケはタカナオとヒナの顔を見ることができなかった。しかし、このままではいけない。

自分の役目はタカナオを守ること。シャイルとの約束は必ず守ると決めている。

「事情は後で話す! お前らは逃げてくれ!!」

リョウスケは嘆くように言った。二人は、動揺しつつも、彼が組織に入っていたことがあるのには、何か事情があったのだと何とか理解した。そして、ハナダシティに向けて走り出した。

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