5章 初めてのジム戦、リョウスケの苦悩

翌日、タケシ一家と別れた一行は、ハナダシティを目指し、オツキミ山を通っていた。

「そう言えばさ、北風使いってなんでそんなに知れ渡ってるの?」

途中、急にタカナオが二人に聞いてきた。トキワの森での少年や、サトシとシゲルの言動を聞いていると、少なくともカントー全域には北風使いについて広まっているとタカナオはわかっていた。

「雑誌とか、テレビよ。一時期、凄く流行ったの」
「なんか世界が破滅の危機を迎えてるとか、変な占い師がテレビに出てきて、それを予言したとか言いやがったんだ」

ヒナとリョウスケが答える。

「その時は凄い騒ぎになって、北風使いは誰だとか、破滅の鍵は何処だとか」
「騒ぎになったけど、誰も信じていなかったのよね」

クスッと笑いながら、ヒナが言う。ただの遊びにしていたのだ。世界の破滅があるわけないと。

「大半の人は知らないけど、その数日後、NWGが一人の少女の存在に気づいたんだ」
「まさか、それって……」
「そ、お前の姉ちゃん」

リョウスケはタカナオを指差した。

「え、じゃあ……」
「二、三年前に占い師が依頼してたんだとよ。北風使いの生まれ変わりを探せって」

呆れた表情でリョウスケが言った。ヒナはその隣で苦笑している。

「そこから、どう裏で出回ったのかは不明なんだけど、二ヶ月前に、ある組織がミズカさんをこの世界へと呼び寄せた」
「じゃあ、どうやって君達にその話が回ってきたの?」

顔をしかめながら、タカナオは聞く。聞けば聞くほど謎が多くなる。

「ミズカさんがこの世界に呼び寄せられる前、北風使いの生まれ変わりの存在に気づいたNWGが、オーキド博士に協力をお願いしたの。この世界と異世界を繋げてくれ、北風使いの生まれ変わりを連れて来るからって。だけど、博士は断ったわ」
「どうして?」
「この世界とあちらの世界を繋ぐと、その間にある時空間が歪んで、大変なことになるんだとさ」
「どうして博士が知ってたの?」
「今から18年に、そういう実験をやってたらしい。スイクン伝説の存在を知って、北風使いの生まれ変わりを探そうとしたんだ」

タカナオは「へぇ」と少し不思議そうな表情を浮かべた。

「断った理由は、もう一つあったらしいわ」
「何?」
「ミズカさんの記憶が蘇っていたからよ。知っている彼女を態々危険な目に遭わせたくないでしょ?」

そう聞かれ、タカナオは苦笑した。こんな事に、巻き込まれるなど、自分なら絶対に嫌だと思ったのだ。

「その後、北風使いの生まれ変わりが呼び寄せられたって話が、占い師からカントー全域に回ったって話だ」
「今じゃ、全国で知られてるわ」

しかし、こんなにも落ち着いている。つまり、誰も占い師の言うことを信じなかったのだ。

「ある組織は全て知っていたのよ。昔、ミズカさんが来てたこと。そして、世界と世界を繋ぐ時空間を自力で見つけ、ミズカさんを捕まえようとしたの。でも彼女は隙をついて逃げてしまった」
「そして警察に連絡を入れたんだ。助けて下さい。追われています。ってさ。それからやっと、警察はある組織の存在に気づいたんだ。だけどその後、ミズカさんから連絡はなかった。捕まったのかと思ったけど、ある組織は動かず全く静かなままだった」

二人の話に、タカナオは息を飲んだ。あまりミズカは、人を頼ろうとしない。そんな彼女が頼っているのだ。きっと、当時は凄く辛かっただろう。

10/15ページ
スキ