1章 北風使いの生まれ変わり

シゲルはカスミの話を聞きながら、少しずつ覚えのない記憶がチラついていた。そういえば最近、黒髪のショートの女の子の夢をよく見る。写真は髪がロングだったから一致しなかったが、おそらく夢に出てくる彼女がミズカではないだろうか。

少しずつ顔や輪郭を思い出す。

彼女がサトシの妹だということは知っていた。サトシの異母兄妹だと知ったあの写真のとき、二度と会いたくないと思った人物だった。

しかし、シゲルが思っていたことは意図も簡単に崩された。サトシに似ていて、無茶苦茶で明朗快活で。しかし、その反面、彼女はすごく脆くもあった。そんな彼女の笑った顔がシゲルは好きだった。

最後にカスミ達が二人きりにさせてくれて歩いた道を、彼女を思い出すようになぞって歩く。通り慣れた道が、今は特別に感じた。一緒に歩いた道での会話を思い出す。

勝手に二人きりにさせられて、彼女はかなり緊張をしていた。お互いに好き合ってはいた。が、自分たちは違う世界に住む。だから、そこから先には踏み込めなかった。

『オーキド博士がね。さっき、あたしとサトシの出会いは奇跡だって話してたの』 
『奇跡?』
『うん。まったく会わせるつもりなかったんだって』
『……』
『てことは、シゲルとも会わせるつもりなかったんだろうなって。でも、出会えなきゃ、この気持ちは知らないままだった』

にこりと笑うミズカは、自分を好きになったことに嬉しさを感じてくれているようだった。翌朝にはお別れだったが、自分もそれからミズカも、好きになったこと自体には後悔はなかった。

だが、シゲルは止めたかった。彼女が帰るという口を塞ぎたかった。できなかったのは、彼女に言ったら、きっと迷っていたからだ。シゲルはミズカに、向こうの世界の家族を裏切るようなことをさせたくなかった。

なぜなら、その裏切り行為でミズカが生まれたからだ。

サトシもミズカも、それに苦しんだ。だから、言えるわけがなかった。しかし、このときばかりは行くなと言いそうで、シゲルはミズカの肩を引き寄せて抱き締めた。

シゲルはミズカを抱き締めた場所に立ち止まった。

また何かに巻き込まれている。今回はとても大きな敵だ。カスミが急いでサトシのところへ駆けつけたのがよくわかる。何も連絡がないということは、おそらくミズカは記憶が戻っていないまま、この世界に来たはずだ。

微かに思い出す、ミズカを抱き締めたときのぬくもり。

「探すしかないね」

踵を返してオーキド研究所へと向かった。
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