5章 初めてのジム戦、リョウスケの苦悩

「タカナオ。これを受け取ってくれ」
「え……、でも……」

タカナオは驚き、そして躊躇った。タケシが彼に渡そうとしているのは、このジムのバッジ、グレーバッジなのだ。

「受け取れよ。お前じゃどうせタケシさんに勝てないって」

リョウスケはタカナオの背中をポンと叩いた。言葉がとても酷い。

「それ酷くない……?」

ムッとしながら、リョウスケを見た。

「まあ良いじゃない。渡してあげて下さい」

ヒナはニコッと笑い、タケシに言った。彼は頷き、タカナオにグレーバッジを渡す。タカナオも少し納得いかない様子だったが、グレーバッジを受け取った。

「さて、夕食にしよう。お腹空いただろう?」

タケシに聞かれて三人は頷いた。タカナオに関してはとてもお腹が減っているらしく、腹の虫を鳴かしている。そして、タカナオ達はジムの裏にあるタケシの家に戻って行った。

「本当、ミズカに似てるな」

夕飯のシチューを食べていると、タカナオに向かってタケシがそう言ってきた。タケシの兄弟姉妹がいて大勢で食べているせいか、注目されることが少し恥ずかしい。

「な、何が……?」
「顔が」

そう言われ、タカナオは苦笑した。顔が似ているとはよく言われる。しかし、彼的には似ていると思っていない。きっと姉もそうだろう。

「……お姉ちゃんはどんなトレーナーだったの?」
「先程も言ったが、ポケモンの気持ちを一番に考えるトレーナーだった。後は、かなり無鉄砲だったな……」
「無鉄砲……」

なんとなく無鉄砲という言葉は、しっくりときた。ミズカは、もとの世界でもよく無茶なことをしていたからだ。

「激しい流れの川に飛び込んだり、崖から落ちたり、そう言えばヘリコプターから落ちたりもしてたな」

その言葉に、タカナオ、リョウスケ、ヒナは開いた口が塞がらなかった。驚きのあまり声も出ない。

「……まあ、もっと酷いのもあったけど」

タケシは苦笑しながら、シチューを口に運んだ。

「お姉ちゃん……、大丈夫かな……」

ミズカが無茶をしているのではないかと不安になる。タカナオはため息をつく。

「そう言えば、ミズカさんを保護しようとしている組織があったわよね?」
「あ……、ああ」

ヒナが突然、リョウスケに聞いてきた。彼は少し躊躇いながらも頷く。

「たしか、え……エ~……」
「NWGだよ」

名前を思い出そうとしているヒナの隣に座っていたタケシの弟、サブローが言った。彼は普段、旅に出ているのだが偶々帰ってきている。 

「そうそう、それ」
「人助けしたり、ポケモンを保護したりする慈善団体。本来は依頼に2、3年掛かるって」

サブローが腕を組ながら言う。NWGへと依頼はそれだけ数が多いらしい。そんな組織が探しているのに、ミズカは見つかっていない。

「でも、そんな良い組織ばかりじゃないのよね……」

ヒナはため息をついた。そう、ここにはもう一つミズカを追う組織が存在する。実態はまだわかっていない。

「お姉ちゃんを追ってる組織について、タケシは何か知ってる?」
「知らないな。組織はミズカを探すときにも注意を向けているが、ロケット団のように大っぴらにせず、警察も知らなかったほどだ。あっちが動かないと見つけにくいだろう」

タカナオが聞くと、タケシは首を横に振って答えた。警察までもその組織の存在に気づいていなかったのでは話にならないだろう。

――NWGが……その組織だったりすんだよな……。

リョウスケは一人、後ろめたそうにシチューを食べ、彼らの話を聞いていた。両親の捕まった日が思い出される。

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