5章 初めてのジム戦、リョウスケの苦悩

「ミズカはな。どのポケモンに対しても対等に接していた。例え、最悪なトレーナーのポケモンでも、ロケット団の実験台にされたポケモンでもな」
「お姉ちゃん……が?」

タカナオが聞くと、タケシは口角を上げて頷いた。

「どんなに嫌われようとも。なんとかしようと向き合っていた」
「……もし、お姉ちゃんが今の僕の状況だったら……」
「わからんが、多分、そのポケモンと息が合うまでバトルするだろうな。あいつはそういう奴だ」

タケシは微笑む。タカナオは居た堪れない気持ちになった。エーフィに申し訳ない。自分はそういうつもりでなくてもそうしてしまった。

エーフィはバトルを教えてくれるために、こういうときはこの方が良いという意味で自分の判断で動くことがあった。それは決して、自分本位で動きたいという表れではない。

タカナオがバトルで強くなれるように。ゼニガメやバタフリーにも応用できるようにしていたのだ。それを自分はエーフィなら一匹でも勝てると思い、全部頼りにしてしまった。

今回のエーフィの暴走は一人でやって勝てなかったときを考えたプレッシャーによるものだった。

罪悪感が襲ってくる。

「ごめん……。別にそういうつもりはなくて……」
「フィフィ」

エーフィは首を横に振った。わかっている。ただ、この不安を誰にぶつければ良いのかわからなかった。ミズカが心配。タカナオとは息が合わない。だからと言って、新人トレーナーで、況してや、ポケモンを生で触れたことのない彼を責めることは出来ない。

そもそもゼニガメやバタフリーで手一杯のはずだ。そんなタカナオの負担にはなりたくない。しかし、不安に押し潰されそうで、楽しいはずのバトルも楽しくなくなっていた。ただ勝たなくてはならない。その一心で。

「強くなることが全てじゃない。ポケモンの気持ちを理解する事もトレーナーにはとても重要なことだ」

タカナオの胸に深く突き刺さった言葉だった。ポケモンの気持ちは理解していたつもりだったのに、どこかで人間とポケモンとを別に見ていたのかもしれない。だから、見落としてしまった。とても重要なことなのにも関わらず。

「もしかして、だからエーフィを最後に?」
「ああ。最後までバトルした上で、言おうと思っていた。だが、あまりにもエーフィが独りでバトルするから、ゼニガメにしてもらったんだ。間を開ければ、エーフィはタカナオと息を合わせようとするかと思ってな」

しかし、タケシの考えは甘かった。エーフィは、モンスターボールから出るなりゴローンに攻撃しようとした。だから、バトルを中断させた。

「一人で背負い込もうとするな。なんかますますミズカに似てきたな」

エーフィはタケシにそう言われると苦笑した。たしかにと、感じてしまったのだ。そんな彼女をタカナオは呼んだ。

「本当にごめん。ちゃんと気持ちを汲めなくてごめん。改めて僕は君と旅を続けて行きたい。バトルも強くなりたい。僕に引き続きバトルを教えてくれないかな。これからも一緒に旅をしてくれない?」

タカナオの言葉に、エーフィはニコッと笑い、大きく頷いた。どうやら、旅を続けてくれるらしい。タカナオはホッとする。エーフィが寛大な性格で良かった。
6/15ページ
スキ