1章 北風使いの生まれ変わり
「ミズカって子が北風使いの生まれ変わりであることは知っていたのかい?」
「さっき挙げた皆と、シゲルもサトシも知っていたわよ。でも、スイクンと北風使いが仲が良かったという話しか知らなかった。それが何なのかまでは知らなかったし、スイクンも何も言って来なかったみたい。多分、ミズカに言ったら、この世界に残ってたと思うわ」
「スイクンとは何度か?」
「会ってる。最後のお別れにも来てくれてた」
「オーキド博士は知っている様子だったかい?」
「さあ……。でも、このことを知っていたら、時空間が歪んででも往復に頷いていたんじゃないかしら?」
「……そもそも、彼女は向こうの世界にいたわけだよね? なぜ博士は彼女を呼んだんだい?」
さっきまで意気揚々と答えていたのに、カスミは言葉を詰まらせた。エーフィが不安げにサトシを見る。
スタスタと歩く足音だけが耳に響く。サトシはおかしく思い、「おい、カスミ?」と肩を叩く。振り向くカスミを見てギョッとした。泣きそうな表情だ。
「……あたし、もしかしたら残酷なことを言うかもしれない」
「……え?」
「記憶のないサトシに言っていいのか、本当はわからない。ショックを受けるかもしれない。でも、あたし、ミズカが大好きで……。助けたいのよ。それにはサトシの力もシゲルの力も必要なの……。……だから、許してほしい」
カスミの言葉に怪訝になる。シゲルではない。自分に言っている。
「俺が関係してるのか?」
聞けば、彼女は素直に頷いた。なんだか胸騒ぎがする。自分の奥に眠る記憶が外に出ようとダンダンダンと叩いてくる。
オーキド研究所へ繋がる階段の前でカスミは立ち止まった。ピカチュウは相変わらずカスミの腕の中だ。エーフィも心配そうにカスミを見つめていた。
カスミは目を合わせる勇気はなかったらしく、目を逸らす。そして、口を開いた。
「……あんたとミズカね。兄妹なの」
「は?」
「だから、ミズカはあんたの妹なの」
サトシは目をしばたたかせた。妹がいるなんて寝耳に水だ。冗談かと返そうかと思ったが、カスミの表情が事実であることを物語っている。
そして、ミズカがどんな存在であるかは、流石のサトシにもわかった。彼女は違う世界の住民だと言っている。つまりは、生まれた場所はマサラタウンではないはずだ。
父親は幼い頃からいなかった。母のハナコからは、父親はトレーナーとして出て行ったことを聞かされている。
だとすれば、多分、自分の妹であっても、ハナコの娘ではないということだろうか。
「俺とミズカって奴は、母親が違うのか?」
「……うん」
「知ってて旅してたのか?」
「ううん。最初はまったく知らないで旅していたわ。旅仲間として……。大切な友人の一人として……。途中で博士が話してくれたのよ」
言われてどうなったのか。カスミの表情を見ると、聞きづらい。
「博士は最初隠していたということか。サトシと北風使いの生まれ変わりが兄妹だと言わなければいけない原因が、彼女が呼ばれていた原因に繋がるということなのかい?」
話を元に戻すシゲルにカスミは言葉に詰まった。言わなければならないのだろうが、本当は言いたくない。兄妹については言えても、この先を言うことはかなり勇気がいる。
「お前さんたち、そこで立ち止まってどうしたんじゃ?」
研究所から声がする。階段を降りてくるオーキドがいた。いることに気づいていなかった。オーキドはただならぬ空気に顔をしかめる。
「さっき挙げた皆と、シゲルもサトシも知っていたわよ。でも、スイクンと北風使いが仲が良かったという話しか知らなかった。それが何なのかまでは知らなかったし、スイクンも何も言って来なかったみたい。多分、ミズカに言ったら、この世界に残ってたと思うわ」
「スイクンとは何度か?」
「会ってる。最後のお別れにも来てくれてた」
「オーキド博士は知っている様子だったかい?」
「さあ……。でも、このことを知っていたら、時空間が歪んででも往復に頷いていたんじゃないかしら?」
「……そもそも、彼女は向こうの世界にいたわけだよね? なぜ博士は彼女を呼んだんだい?」
さっきまで意気揚々と答えていたのに、カスミは言葉を詰まらせた。エーフィが不安げにサトシを見る。
スタスタと歩く足音だけが耳に響く。サトシはおかしく思い、「おい、カスミ?」と肩を叩く。振り向くカスミを見てギョッとした。泣きそうな表情だ。
「……あたし、もしかしたら残酷なことを言うかもしれない」
「……え?」
「記憶のないサトシに言っていいのか、本当はわからない。ショックを受けるかもしれない。でも、あたし、ミズカが大好きで……。助けたいのよ。それにはサトシの力もシゲルの力も必要なの……。……だから、許してほしい」
カスミの言葉に怪訝になる。シゲルではない。自分に言っている。
「俺が関係してるのか?」
聞けば、彼女は素直に頷いた。なんだか胸騒ぎがする。自分の奥に眠る記憶が外に出ようとダンダンダンと叩いてくる。
オーキド研究所へ繋がる階段の前でカスミは立ち止まった。ピカチュウは相変わらずカスミの腕の中だ。エーフィも心配そうにカスミを見つめていた。
カスミは目を合わせる勇気はなかったらしく、目を逸らす。そして、口を開いた。
「……あんたとミズカね。兄妹なの」
「は?」
「だから、ミズカはあんたの妹なの」
サトシは目をしばたたかせた。妹がいるなんて寝耳に水だ。冗談かと返そうかと思ったが、カスミの表情が事実であることを物語っている。
そして、ミズカがどんな存在であるかは、流石のサトシにもわかった。彼女は違う世界の住民だと言っている。つまりは、生まれた場所はマサラタウンではないはずだ。
父親は幼い頃からいなかった。母のハナコからは、父親はトレーナーとして出て行ったことを聞かされている。
だとすれば、多分、自分の妹であっても、ハナコの娘ではないということだろうか。
「俺とミズカって奴は、母親が違うのか?」
「……うん」
「知ってて旅してたのか?」
「ううん。最初はまったく知らないで旅していたわ。旅仲間として……。大切な友人の一人として……。途中で博士が話してくれたのよ」
言われてどうなったのか。カスミの表情を見ると、聞きづらい。
「博士は最初隠していたということか。サトシと北風使いの生まれ変わりが兄妹だと言わなければいけない原因が、彼女が呼ばれていた原因に繋がるということなのかい?」
話を元に戻すシゲルにカスミは言葉に詰まった。言わなければならないのだろうが、本当は言いたくない。兄妹については言えても、この先を言うことはかなり勇気がいる。
「お前さんたち、そこで立ち止まってどうしたんじゃ?」
研究所から声がする。階段を降りてくるオーキドがいた。いることに気づいていなかった。オーキドはただならぬ空気に顔をしかめる。