3章 旅立ちの朝

「やってるかもな」
「そういえば。お姉ちゃんもよく褒められてたな。習字やってたから、字が綺麗だったんだ。あまり見たことないけど」
「へぇ……」
「戻ろうよ。皆、待ってるから」
「そうだな」

リョウスケとタカナオは戻ろうとしたのだが、タカナオが立ち止まる。

「あ、先に行ってて」
「あ?」
「トイレ行ってくる」

リョウスケは「わかった」と頷くと先に部屋へ戻って行った。それを見送ると、タカナオは、トイレへ行く。用を済ませると、部屋へ向かい、また歩き始めた。

途中、半開きのドアがあり、気になって覗いた。その部屋は資料などをたくさん置いてあり、本もかなりの量があった。そこに一人、真剣に本や資料を読んでいる青年がいた。シゲルである。彼は、タカナオに気づくと微笑む。

「どうしたんだい?」
「いや、ドアが半開きになってたから……、気になって……」

覗いたのを少しうしろめたくなり、躊躇しながら話す。そんな彼をシゲルは手招きした。手招きされたタカナオは、ゆっくりと彼の所まで歩く。

シゲルは、今読んでいた本をタカナオに渡した。

「これは?」
「スイクン伝説の中の北風使いについて書かれてるものだよ」
「スイクン伝説? 北風使い?」
「あ、そうか。君の姉がどうして追われているのか、話していなかったね」

シゲル達は昨日話すのを忘れていた。それを思い出し、彼は、説明してくれた。色んなことがあってパンクしていたが、確かにタカナオは一番大事なことを聞きそびれている。

大人しく話を聞くことにした。

「スイクンはわかるかい?」
「うん」

タカナオは頷いた。ゲームはかなりやっている。彼にとっては知っていて当たり前だった。

「そのスイクンの神話に、スイクンが信頼した人がいると言われている。その人を昔の人々は北風使いと呼んだらしい。スイクンが北風使いと親しかったのはもう一つある。彼女は破滅の鍵という、世界を簡単に破滅させてしまう物を操ることが出来る力を生まれつき持っていたんだ。スイクンは操り方を知っていて彼女に教えてたんだよ」
「へぇ……」
「だけど、そんな危ない物を北風使いはこの世に必要ないと言って、その鍵を破壊する方法をスイクンに聞いた」
「……そしたら?」
「破壊する前に、北風使いとスイクンの仲を良く思わない者が、何処からか、時空間を探し出し、彼女を異世界へと飛ばしてしまったんだ。その破滅の鍵は今も何処かに在ると伝えられてる」
「……あの、それとお姉ちゃんが追われているのと何の関係が……」

いい加減、焦れったくなりタカナオが言った。シゲルは、本に書いてある北風使いの文字を指した。

「ミズカは北風使いの生まれ変わりなんだよ。異世界と言うのは君の住んでいる世界のことだ」

そう言われたが、いまいちピンと来なかった。自分の住んでいる世界を異世界と言われるとなんだか不思議な気分になる。

「ある組織の目的というのは、世界の破滅だ。生まれ変わりのミズカも、操る力を持ってるらしい。彼女を利用したいんだよ」
「どうして、お姉ちゃんが北風使いの生まれ変わりだってわかったの?」
「昔、スイクンに会ったミズカが言われたらしい。僕はその時いなかったけどね。サトシに聞けばわかるよ」

タカナオはどう反応すれば良いのかわからなかった。自分の姉がそんな凄い人だとは思っていなかった。いや、聞いた今も思えない。きっと本人もそうに違いない。

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