3章 旅立ちの朝

玄関を出ると、いたのは女性と男性。リョウスケは、口を開けたまま硬直している。

「なんで、母さんと父さんがここに……?」

噂をすればと言うのだろうか。リョウスケにとって今、ありえないことが起こっているのは、タカナオにもわかった。リョウスケは開いた口が塞がらない様子だ。つまり行方不明というのは本当だったことになる。

「やっぱりここにいたのね。家にいないからここだと思ったのよ」
「オーキド博士はいるか?」
「人の質問に答えろよ!!」

勝手に話しを進める両親にリョウスケが怒る。両親は苦笑した。

「ごめんなさいね。助けてもらったのよ」
「助けてもらった……?」
「なんか風変わりな旅人さんだったな。顔を隠した人と金髪の可愛いお嬢さんだった」

リョウスケの顔が歪む。その二人には心当たりがあった。シャイルとマルナだ。きっとあの二人が両親を助けてくれたのだろう。自分のことは良いと言ったのに。シャイルは気にしてしまったらしい。

「えっと……」
「あ、僕、タカナオです」

リョウスケの母親が不思議そうに、タカナオを見た。タカナオは慌てて自己紹介をした。

「俺、わけあって、こいつと旅するから。……それと……さ……、……俺のせいでこんな事になってごめんなさい」

リョウスケは相当責任感を感じていた。両親が捕まったのは自分にリーグ優勝経験があるからだと責めているのだ。優勝しなければ、きっとこうはならなかった。優勝したときは、あんなに嬉しかったのに後悔しかない。

何も知らないタカナオは意味がわからず首を傾げる。

「貴方のせいじゃないわ」
「そうだ。責任を感じなくて良いさ。俺達は、皆にも黙っておくよ」

リョウスケは眉間にしわを寄せる。これ以上は堂々巡りになることは想像つく。だから、何も返さないが、それでも罪悪感は否めない。

「タカナオ君もこの話は何も聞かなかったことにしてくれないか?」

リョウスケの父親に頼まれ、タカナオは頷いた。どうせ自分にとってはわけのわからないことだ。他人が口を挟むものでもないと思った。

「リョウスケのことだから、友達には両親は旅行してるって言ってあるでしょ」
「あ……、あぁ……」

流石、母親。リョウスケのことをよくわかっていた。リョウスケは困惑しながらも苦笑する。

「そうそう。旅人さんがね。リョウスケを凄く応援してるんだって! だから、手紙を渡して下さい、と言われて預かってきたのよ」

母親は手紙を渡した。『リョウスケ君へ』と書かれた封筒は、筆ペンで書かれていて、とても丁寧で綺麗な字だ。

「それじゃあ、俺達は帰ってるよ。オーキド博士にはよろしく伝えてくれ」
「わかった」

リョウスケが頷くと、両親は帰って行った。

「良かったね」

タカナオはニコッと笑う。リョウスケは困った顔で笑いながら「まあな」と頷いた。そして、封筒を見る。

「それにしても、字……上手いな」

達筆な字。シャイルの字を見たことがなかったリョウスケはボソッと呟いた。マルナはこんな達筆ではない。まさかシャイルの字が綺麗だとは思っていなかったのだ。

「本当だ。……習字やってたのかな?」

ポケモン世界に習字をやっている人はいるのかと疑問に思いながら、タカナオはその字を見て言った。ポケモン世界の字であるから、綺麗さはわからないはずなのだが、なぜかタカナオはポケモン世界の字を認識できている。
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