3章 旅立ちの朝

「で、朝飯はなんですか?」
「オムライスよ」
「あ……、朝から……」

タカナオは苦笑した。そういえば、姉もよくオムライスを作っていた。朝だろうと何も関係なしに、弁当にして持って行っていた。しかも、とても美味しかったのを覚えている。

「ミズカの味に似せて作ってるのよ」
「お姉ちゃんの?」

聞いて驚いた。カスミは目を丸くしているタカナオに、メモを渡す。そこには、オムライスの作り方が丁寧に細かく書かれていた。最後には『勝手にアレンジしないこと!』と、オムライスの作り方より強調して書いてあった。

「昔ね。たしか、ミズカがあなたの住んでいる世界で9歳だった時かしら。レシピを教えてもらったの。でもあたし、料理出来ないから、ずっと放っておいて、つい最近まで何処かにしまい込んでいたのよね」
「で、最初に練習したのが、このオムライスだよな」

サトシが少し笑いを堪えて言う。最初は素晴らしいくらいにまずかった。もちろん今では美味しく食べられるが。

「良いじゃない、今は美味しいんだから。ミズカが帰って来たら、あっと言わしてやるわよ!」
「カスミって、お姉ちゃんと仲良かったの?」

楽しそうに、そして嬉しそうに話しているカスミを見て、そう思った。彼女はニコッと笑い、「そうよ」と答えた。

「あたしとミズカは親友なのよ」
「……親友?」

少し驚いた。あまりミズカは親友というものを作らないことをタカナオは知っている。友達と親友の差を作りたくなさそうだったし、何より、あまり人を信用していなかったというのもある。そんな彼女が親友を作っている。

きっとカスミに限らず、サトシやシゲルもかなり信頼されていたのだろう。そう思うと、彼らはとても凄いと感じた。

「さてと、朝食が出来るまで部屋に……」
「リョウスケ!!」

リョウスケが台所から出ようとすると、先程まで家に帰っていたはずのヒナが勢いよく彼の胸ぐらを掴んだ。いきなりなもので、タカナオ達はぎょっとする。

「おい、どうし」
「どうしたじゃないわよ! 君の両親、行方不明って、ママが言ってたの!! 本当なの?」

息つく間もなくヒナが言った。リョウスケは言葉が詰まる。

「いや……。ん、んなわけないだろ!! 今、旅行してんだよ!」

咄嗟に思いついた嘘だった。しかし、ヒナは聞く耳を持たない。

「君の嘘はバレバレなのよ! いいから教えなさ……」

それを遮るようにインターホンが鳴る。まだ朝の8時。タカナオ達は顔を見合わせる。こんな非常識とも言える時間から客が来るなんて忙しい。

「あ、俺、見てくる」
「僕も行く」

逃げるように、ヒナから離れたリョウスケの後をタカナオが追う。果たして、本当に自分の姉みたいに彼の両親も行方不明なのか気になったのである。
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