3章 旅立ちの朝

タカナオは目を覚ました。もう朝のようで窓から光が差している。昨日、いつ寝たのかは覚えていない。いや、何があったのかさえ、記憶が定かでなかった。ただ夢のような現実が降りかかってきたことは、しっかりと覚えている。

少し重く感じる体を起こすと、自分の横に洋服が置いてあるのに気づいた。その洋服の上にはメモが置いてある。メモには、『タカナオ、制服で旅はないだろ。これに着替えろよ! リョウスケより』と書いてあった。

学校帰りだったのだから、当たり前かもしれないが、制服のまま寝ていた自分に苦笑いを浮かべる。そそくさと洋服に着替え、部屋を出る。

「だから、朝からオムライスはないだろ!」
「あたしはこれしか作れないの! 文句を言うなら、ケンジに言いなさいよ!」

台所の方で、うるさく言い合う声がする。タカナオは思わず耳を塞いだ。起きたばかりで頭に響く。少し気になり、台所へと足を運んだ。この声の主は想像がついていた。サトシとカスミである。

アニメでも二人の言い合いを何度か見ているが、まさか、8年後の彼らが喧嘩しているところを見るとは思っていなかった。

「ケンジは、ミズカを探しに行ってくれてるんだ。文句なんか言えるわけないだろ」
「じゃあ、あたしにも文句なんか言わないでよ!」
「う……」

カスミの一言に、サトシは言葉が詰まった。カスミに文句を言っても仕方がない。彼は何処かでイライラしていただけだ。

「悪い。別に、当たるつもりはなかったんだ……」

すっかり頭が冷えたサトシはため息をついた。カスミは、「わかってるわよ」と優しく微笑みながら呟く。

「あの夢……、見たんでしょ?」

カスミが顔を覗くと、サトシは、再度ため息をつき頷いた。タカナオが来たからなのか、どうなのかはわからないが、サトシの夢見は非常に悪かった。

朝起きたときには汗がびっしょり。ピカチュウに10万ボルトで起こしてもらったくらいだった。

8年前にミズカが父親に刺された場面。記憶を蘇らせてから、何度も脳裏に繰り返されるが夢で見たのは久しぶりだった。夢でなら、もっと前向きな話を見たいところだが。

ピカチュウが肩に乗って心配そうにサトシを見つめている。

「あの夢って?」

後ろから声がして、やっと二人はタカナオがいることに気づいた。きっと話しかけてもらうまで気づかなかっただろう。

「おっす! 起きてるんなら言えよな!」

夢について聞こうとすると、タイミングが悪くリョウスケが来た。彼は、タカナオの肩をポンと叩く。いきなりで驚いたのか、タカナオは噎せた。それを見て、サトシとカスミは苦笑する。

「あれ、ヒナは?」
「あぁ、一度帰った。朝食には戻るってよ」

タカナオが聞くと、リョウスケがそう答えた。たしかに、彼らの故郷はこのマサラタウンだ。家に帰るのにどうってことはないだろう。
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