3章 旅立ちの朝

「お前は、外で待っていろ。警備員を眠らせておけ」
「はい」

マルナは口角を上げる。シャイルが一緒に行こうとしていることを許してくれたことがわかった。組織にいる息苦しさをわかってくれたのだとマルナは感じる。マルナはシャイルの指示に頷くと音を立てないよう入口まで走って行った。

シャイルはそれを見送ると、モンスターボールを一個取り出し、ポケモンを出した。サーナイトである。

「サーナイト、昨日話した通りだ。頼むぞ」

サーナイトはニコッと笑った。シャイルも顔は見えていないだろうがニコッと笑う。そして、表情を一気に引き締め、地下へと走って行った。

行き交い、すれ違った者は皆、サーナイトの催眠術によって眠らせていく。

「やっぱり行くのか」

地下に行く階段の手前、ジンが腕を組んで待っていた。

「……止めるつもりか?」
「止めたいけど、シャイルは強いから」

優しく微笑むジンに、シャイルは眉を潜める。

「先に謝っておく。命令が出た」
「……?」
「北風使いの弟を捕まえてこいって」

シャイルは目を見開いた。帽子とマフラーの間に覗く瞳がジンの申し訳なさそうな表情を捉えた。シャイルは何も返せなかった。

この組織がどういうところかはわかっている。命令に背けば、命はない。そもそもジンは自分のせいで一度目をつけられている。実はリョウスケが来るまではよくジンと行動していた。

「命令が下った以上は、ここから先、僕はシャイルの敵だ」
「……そうか。向こうは強いやつしかいないから大変だろうな。リーグ優勝者だけでなく、チャンピオンもいる」
「止めないのか?」
「止めなくても、ジンは優しいから」

シャイルがそう言うと、ジンから表情がなくなった。急に素に戻るシャイルにジンはため息をつく。 

「これからリョウスケ君の両親を助けるつもりだろ?」
「……あぁ」
「ここは見張っとく。中には警備員がいるから気をつけて」
「ジン……」

シャイルは目を見開いた。

「占い師が世界は破滅するとハッキリ幹部達に話してきた」
「……」
「必ず逃げ切れ。だって君が……」

ジンはその続きを言わなかった。シャイルにはその後に続く言葉はよくわかった。下唇を噛みしめる。ジンはシャイルの肩を叩くと、地下へと促した。

「ジン。ありがとう」

シャイルはもうジンの顔を見られなかった。泣きそうにもなった。だが、呑気に泣いている時間はない。
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