3章 旅立ちの朝

「明日の出発は9時くらいで良いだろ。道は長いからな。ゆっくり休む。荷物をまとめて、もう寝るぞ」

マルナが何か言おうとするが、シャイルは話を変え、適当に荷物を整理すると、その服装のままベッドへ寝転がった。

出ていくのを見合わせたほうがいいと言おうとしたマルナだが、シャイルが十分わかっていての行動だとわかると、「おやすみなさい」と言って、自分の部屋に戻って行った。

横目で見送るとシャイルは深くため息をついた。今自分が置かれている状況が、シャイルには堪らなかった。元々、悪の組織とは何の繋がりもなかった。どちらかと言うと逆である。悪に向かい打つのがシャイルの生き方だった。今は、ある事情で北風使いについて調べ、素顔をバラさず、この組織にいなければならない。凄く息苦しさを感じている。マルナやリョウスケがいなかったら、自分は今頃どうなっていたかわからない。

シャイルは静かに起き上がった。どうせ明日からは、裏切り者だ。これからいやと言うほど追いかけられる。きっとリョウスケのところは手薄になるだろう。組織のボス、カルナはシャイルのことをわかっている。だからわざわざメモにあんなことを書いたのだ。

――ややこしくなったな……。

シャイルは再度ため息をつく。しかし、どうなろうがやらなければならないことは、組織の外にある。シャイルは自分の荷物を持つと、ドアを開けた。

「シャイル様、一人で行くなら、ちゃんと言って下さい……。私は、反対しますけど……」

ドアを開けるとマルナがリュックを背負い、仁王立ちしていた。シャイルは驚く。旅立ちは明日だと嘘をついたのにバレていたようだ。

とりあえず、マルナは外に聞かれないようにシャイルをもう一度部屋に入れて、ドアを閉めた。

「リョウスケの……、両親ですよね?」

少し戸惑ったがシャイルは頷いた。リョウスケがこの組織に入った理由は、ちゃんとある。彼の両親がこの組織に捕まったからである。リーグ優勝者を組織に入れたい。組織は無理矢理に所属させるのに、人質をとって脅した。当然リョウスケは両親を助けようと思い、組織に入った。が、なかなか両親の居場所の手掛かりが掴めなかった。

「リョウスケの両親は地下にいる」
「……知っていたのなら、何故リョウスケに言わなかったんですか!?」

小声でバレないようにきつく言った。マルナもリョウスケの両親の居場所は知らなかった。シャイルは知っていたらしい。

「言ったさ。両親を助けて、さっさと組織を抜けろとな」
「え……」
「破滅の鍵については、俺が何とかすると言ったんだ。だがな、あいつは、それで世界が滅びるんだったら、俺やマルナの手伝いをする方が良いに決まってると譲らなかった。たとえ、自分のことがバレてマサラから追放されても」

彼が選択した。この辛い道のりを。シャイルは、せめてもの感謝の気持ちとして、リョウスケの両親を助けようとしているのである。

「すみません……、つい……」

マルナは恥ずかしそうに言った。シャイルは基本的に周りを巻き込みたくない性格だ。今だって、マルナを置いていこうとしていた。

シャイルは、マルナの頭を撫でると、「行くぞ」少し大きめのショルダーバックを肩にかけ直した。
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