3章 旅立ちの朝

用心深く研究所の外へ出ると、リョウスケは息を吐いた。辺りを見回し、誰もいないことを確認する。そうして、リョウスケは真剣な顔で電話をかけた。

「もしもし、リョウスケです。あ、今、大丈夫ですか?」

母親に連絡しているわけではない。リョウスケは辺りを気にし、小声になりながら話す。

「少し待て……。……大丈夫だ。連絡がないから、心配したぞ」

向こうも誰もいないことを確認した。しばらく連絡できず、心配を掛けていたことを知り、リョウスケは「……すみません」と謝った。

「オーキド研究所に連れてきてから、なかなか電話するタイミングが見つからなくて……」
「謝る必要はない。逆に感謝しているんだ。お前とマルナには」
「もう裏切り者っていうのはバレてますか?」

リョウスケはすばりシャイルに聞いた。リョウスケは、ある事情で組織に所属し、シャイルとマルナと行動していた。勿論、世界の破滅なんて考えていない。阻止しようとしている。今では組織の裏切り者なのだが。

「悪いがすでにお前を始末する話になっている。一応、俺の言葉で幹部達はシンオウやジョウト地方を中心にお前を探すことにしているがな」

シャイルの言葉に、リョウスケは安心した表情で「良かった」と呟いた。

そんな彼の役目はタカナオを守ること。同時に、世界の破滅を導くと言われる北風使いの鍵を探すことなのだ。見つかったら、かなり困る。

そもそも見つかったら、タカナオ達に自分のことを明かさなければならない。それは避けたいところだ。

「油断するな。明日には俺達も組織を出る。カントー地方も探されるだろう。オーキド研究所から離れる時間くらいしかない」
「だったら、そちらも気をつけて下さい」

リョウスケが言うとシャイルは「あぁ」と返す。互いに捕まるわけにはいかない状況だ。リョウスケはポケギアを握る手に力が入る。自分がどうのとは言っていられない。

組織に見つかったときのことは、後で考えることにした。

「それと、なんか北風使いを探すことになったんですが……」

それよりも報告しなければならないことを述べる。言いづらそうにすると、ポケギアの向こうから大きなため息が聞こえてきた。彼の表情は少しひきつる。

「……やはりな。まあ良い。俺達に会わないようにしろ」
「やっぱ会わないんすか?」

リョウスケが聞く。まずいことを聞いたかと思ったが、シャイルは冷静だった。

「だから、お前に頼んでいる。時間があればで良い、連絡もしてくれ」
「……わかりました」

シャイルの説得は無理そうだと思いながら、リョウスケは電話を切った。リョウスケは再度辺りを気にしながら、研究所の中へ戻って行った。

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