3章 旅立ちの朝

『イーブイよろしくね!』

ミズカがそう言って自分に握手を求めた時と、今のタカナオが重なって見え、ゼニガメと自分も重なって見えた。タカナオとミズカの顔は姉弟だけあって似ている。尚更かもしれない。あのときの自分もゼニガメのように目が輝いていたのだろうか。

「ピカピカ?」

ピカチュウが心配して、エーフィに話しかける。

「心配するなって。タカナオが狙われてるってことは、ミズカは無事ってことなんだからさ」

サトシに頭を撫でられ、エーフィは少し困った表情で笑った。ミズカが無事だというのはわかっている。だが、彼女が今までどれだけ無鉄砲な事をしてきたか、数えても切りがない。また無茶苦茶をしていないか心配だった。

――エーフィ……、お姉ちゃんのこと本当に好きなんだ……。

エーフィの表情を見て、タカナオはそう思った。きっと自分の知らない姉を多く見てきているのだろう。そんな、エーフィに何か出来ないかとタカナオは考えた。

そして、ゼニガメを抱き上げると決心して、エーフィの前に来た。

「僕達と、一緒に行かない?」

エーフィは、きょとんとした顔で彼を見上げる。彼の表情は優しかった。その優しい表情はミズカとそっくりだ。

「エーフィは、お姉ちゃんに会いたいんだろう? だったら、敵に追われる僕と一緒にいれば、会える確率は高くなる」

ニコッと笑ったタカナオ。エーフィは目をしばたたかせる。まさか、誘ってくれるとは思っていなかった。けれど、純粋に嬉しい。エーフィは笑い返し、頷いた。どんな危険に巻き込まれても良い、ただミズカの顔を見て安心したい。ミズカの弟を守りたい。

「決まりじゃな。これがエーフィのモンスターボールじゃよ」
「あ、ありがとうございます」

タカナオは、オーキド博士からエーフィのモンスターボールを受け取った。そのモンスターボールは、ゼニガメのより妙に重く感じられる。

エーフィとミズカの友情が詰まっている物なのだろう。これは大切にしなくては、とタカナオは責任を感じた。

「タカナオ、明日の朝には出発しようぜ!」

リョウスケの言葉に、うん。と返事をした。

「今日はここで休むと良い。君はまだ、ここへ来たばかりだからね」
「それに、まだ何処へ行くかも決めてないでしょ?」

シゲルとカスミの言葉に頷いた。まだ、頭の整理もちゃんとついていない。何処へ行くかも決めていない。この世界に来ただけで随分疲れた。姉は、初めてこの世界に来たとき、疲れなかったのだろうか。ふと、そんな疑問が頭に浮かんだが、もう考える気力はなかった。

「ゼニゼニ?」

そんな彼の疲れた表情に気づき、ゼニガメが話しかけてきた。思わず嬉しくなり、「大丈夫」と返した。

「サトシ」
「なんだ?」
「言わなくて良いの?」

タカナオを見ていたサトシは、そうカスミに聞かれ、首を横に振った。サトシとタカナオの関係のことをミズカと会うまでは明かせない。
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