10章 8年前
「……ごめん! まさか、タカナオ達が部屋の外にいるなんて思ってなくて……」
ポケモンセンターの食堂で、思い切り申し訳なさそうな表情のミズカはサトシに言った。過労で寝てろと言われたのにも関わらず、起き上がってサトシに土下座するような勢いで謝っていた。
サトシは苦笑するが、何を言えば良いのかわからない状況だ。
「とりあえず3人で話し合った方が良いわ」
「2人がちゃんと話せると思うのか?」
ヒカリが言うと、タケシが突っ込んだ。彼女は苦笑し、ミズカとサトシを見た。
「じゃあ、この場で話した方が良いんじゃない?」
マサトが言った。タカナオは顔を歪める。サトシの旅仲間は全員、この事実を知っていたらしかった。それが少し腹立たしい。
とりあえず3人は4人席に座った。声が聞こえる程度に仲間たちは見守る形で他の席に座っている。
「えっと……。こういう時ってなんて言えば良いの?」
「たしか、オーキド博士からは急に言われたよな」
何から話せば良いのかわからないミズカとサトシは、8年前を思い出した。
『お前さん達は、兄妹なんじゃ』
まずは何も周り口説いことは言われず、ストレートに兄妹だと言われた。
「俺達、その……兄弟なんだ」
「うん。らしいね」
タカナオの素っ気ない返事に、ミズカとサトシはひきつる。明らかに不機嫌だ。言わなかったことに怒っているのか。それとも別のことで怒っているのか。
リョウスケとヒナは、タカナオとミズカ、サトシを交互に見る。言われてみれば少し似ている気がする。
改めて聞き、不思議な感じがした。
「なんではじめの時に話してくれなかったの?」
「ミズカがいた方が良いと思ったからだ。いない状況で話してたら、タカナオは信じられなかっただろ?」
「そのほうが良かった」
サトシの言葉に、タカナオはそう返した。信じないで、冗談だと思い続けていた方がどんなに楽だっただろう。
どんな事実でも受け止めるつもりだった。しかし、それとこれとは話が違う。
「……お姉ちゃん達は、すぐに理解してなんとかなったかもしれない。でも僕は違う。いきなり知ってる人が兄だって言われても、何も愛情なんか湧かない。……どうしたら良いか、わからない」
「タカナオの気持ち、凄くわかる。だけど、これが現実なの」
いきなり兄だと言われても現実味がない。受け止められそうになかった。冗談じゃない。サトシの存在を受け入れたら、自分たちがサトシの父親を奪ったことになるではないかと。
ミズカは仲が良かったから平然としていられるかもしれないが、タカナオはサトシとは旅をしていない。姉が自分の気持ちをわかるわけがない。
「何だよ。姉ぶって」
「え、そうじゃなくて……」
ミズカの言葉に無性に腹がたつ。タカナオはバンとテーブルを叩いた。シーンと空気が張り詰める。
ついには、彼女にひどい言葉をかけてしまった。
「どうせ、お父さんがろくなことしなかったんでしょ。だから、お前が生まれて、僕が生まれた」
姉を睨む。うまく丸めようとするミズカが今は敵のように感じる。なんでサトシの隣に座っているんだと、サトシとの方が兄妹みたいじゃないかとわけわからないことを考える。
「大体、なんでお前が僕の姉貴なのかもわからないね」
ミズカを産んだあと、なぜノリタカはそれが間違いだと思わなかったのか。なぜ、そのあとに自分を産んだのか。
「間違ってたんじゃないの」
気がつけば、タカナオはミズカに椅子を倒されていた。そのまま、椅子から落ちたタカナオにのしかかり、今にも殴りかかりそうだった。
「おい、ミズカ!」
サトシは驚いて、慌てて彼女を止めに入る。こんなミズカ、見たことがなかった。
「ミズカ、やめなさいよ」
「落ち着くんだ」
カスミとタケシも止める。ミズカの目には涙が溜まっていた。
8年前。ミズカは生まれて来なければ良かったと本気で思った。何度、心の中でサトシに謝っただろう。自分が父親を奪った。今も変わらずにこの現実が突きつけられてる。心の奥に閉まっていたはずなのに……。
マルナが脳裏にちらつく。深く突き刺さってくる。痛い。胸が締め付けられる。
ポケモンセンターの食堂で、思い切り申し訳なさそうな表情のミズカはサトシに言った。過労で寝てろと言われたのにも関わらず、起き上がってサトシに土下座するような勢いで謝っていた。
サトシは苦笑するが、何を言えば良いのかわからない状況だ。
「とりあえず3人で話し合った方が良いわ」
「2人がちゃんと話せると思うのか?」
ヒカリが言うと、タケシが突っ込んだ。彼女は苦笑し、ミズカとサトシを見た。
「じゃあ、この場で話した方が良いんじゃない?」
マサトが言った。タカナオは顔を歪める。サトシの旅仲間は全員、この事実を知っていたらしかった。それが少し腹立たしい。
とりあえず3人は4人席に座った。声が聞こえる程度に仲間たちは見守る形で他の席に座っている。
「えっと……。こういう時ってなんて言えば良いの?」
「たしか、オーキド博士からは急に言われたよな」
何から話せば良いのかわからないミズカとサトシは、8年前を思い出した。
『お前さん達は、兄妹なんじゃ』
まずは何も周り口説いことは言われず、ストレートに兄妹だと言われた。
「俺達、その……兄弟なんだ」
「うん。らしいね」
タカナオの素っ気ない返事に、ミズカとサトシはひきつる。明らかに不機嫌だ。言わなかったことに怒っているのか。それとも別のことで怒っているのか。
リョウスケとヒナは、タカナオとミズカ、サトシを交互に見る。言われてみれば少し似ている気がする。
改めて聞き、不思議な感じがした。
「なんではじめの時に話してくれなかったの?」
「ミズカがいた方が良いと思ったからだ。いない状況で話してたら、タカナオは信じられなかっただろ?」
「そのほうが良かった」
サトシの言葉に、タカナオはそう返した。信じないで、冗談だと思い続けていた方がどんなに楽だっただろう。
どんな事実でも受け止めるつもりだった。しかし、それとこれとは話が違う。
「……お姉ちゃん達は、すぐに理解してなんとかなったかもしれない。でも僕は違う。いきなり知ってる人が兄だって言われても、何も愛情なんか湧かない。……どうしたら良いか、わからない」
「タカナオの気持ち、凄くわかる。だけど、これが現実なの」
いきなり兄だと言われても現実味がない。受け止められそうになかった。冗談じゃない。サトシの存在を受け入れたら、自分たちがサトシの父親を奪ったことになるではないかと。
ミズカは仲が良かったから平然としていられるかもしれないが、タカナオはサトシとは旅をしていない。姉が自分の気持ちをわかるわけがない。
「何だよ。姉ぶって」
「え、そうじゃなくて……」
ミズカの言葉に無性に腹がたつ。タカナオはバンとテーブルを叩いた。シーンと空気が張り詰める。
ついには、彼女にひどい言葉をかけてしまった。
「どうせ、お父さんがろくなことしなかったんでしょ。だから、お前が生まれて、僕が生まれた」
姉を睨む。うまく丸めようとするミズカが今は敵のように感じる。なんでサトシの隣に座っているんだと、サトシとの方が兄妹みたいじゃないかとわけわからないことを考える。
「大体、なんでお前が僕の姉貴なのかもわからないね」
ミズカを産んだあと、なぜノリタカはそれが間違いだと思わなかったのか。なぜ、そのあとに自分を産んだのか。
「間違ってたんじゃないの」
気がつけば、タカナオはミズカに椅子を倒されていた。そのまま、椅子から落ちたタカナオにのしかかり、今にも殴りかかりそうだった。
「おい、ミズカ!」
サトシは驚いて、慌てて彼女を止めに入る。こんなミズカ、見たことがなかった。
「ミズカ、やめなさいよ」
「落ち着くんだ」
カスミとタケシも止める。ミズカの目には涙が溜まっていた。
8年前。ミズカは生まれて来なければ良かったと本気で思った。何度、心の中でサトシに謝っただろう。自分が父親を奪った。今も変わらずにこの現実が突きつけられてる。心の奥に閉まっていたはずなのに……。
マルナが脳裏にちらつく。深く突き刺さってくる。痛い。胸が締め付けられる。