9章 悲しき現実と蘇る記憶

「ごめん。ありがとう」

何時間泣いていたのだろう。ヒナは顔を上げた。止めようとずっと思い続け、やっと止まったのだ。

「落ち着いた?」
「うん。少しだけ」

寂しげに、無理に笑ったヒナにタカナオは顔を歪める。

「もうすっかり朝みたいね」

正気に戻ったせいか、急にタカナオに抱きついた自分が恥ずかしくなった。顔が赤くなり、パッと離れて後ろを向く。ずっと文句も言わず、自分を受け止めてくれていたタカナオが、ヒナにはやさしさの塊に見えた。

「そうだね」
「皆、何してるかしら」
「さあ……、どうだろう」

実際、想像がつかなかった。

「もう……、誰もいなくならないわよね」

ヒナの言葉に、詰まった。いなくならない。簡単にそう言えたら、どんなに楽だろう。現に、ミズカだけではない。自分も危ない気がした。

「いなくならないよ」

少し間をおいて、そう言った。ヒナは困った表情で笑う。

「本当に?」
「本当だよ」
「じゃあ、世界は破滅なんてしないわね」
「……うん」

タカナオは頷いた。世界の破滅はない。そのためには、NWGを倒すために重要な役割を果たすと言われた自分も生き残らなければならない。もうこれ以上の犠牲者を出すのは嫌だ。

だから、誰もいなくならないと言ったのは、単に彼の願望だったりする。現実はどうなるかわからない。

「おい、タカナオ。ヒナ」

そこへ、リョウスケが来た。

「ん、どうしたのよ」
「聞いて驚くんじゃねぇぞ」
「……何」

リョウスケの勿体ぶるような言い方だ。

「ミズカさん、昔の記憶を取り戻したんだってよ」

その言葉に、二人は顔を見合わせた。すぐにミズカの所へ行こうとするが、リョウスケに止められる。

「今、寝てる」
「寝てる?」
「またこんな時に……」

タカナオはため息をついた。ヒナは苦笑する。

「いや、ジョーイさんに診てもらったら、過労だって」
「過労って……」
「かなり無理してたらしい。なんでもかんでも自分で何とかしようとしてたら、いつの間にか、過労が……」

リョウスケは苦笑しながら話す。

「今は、病室。カスミさんが看病してる。俺らは先に飯を食っとけだって」

記憶が戻ったなら、カスミに頼んで安心だろう。時計を見ると、もう七時半を過ぎていた。お腹も空いて、今にも腹の虫が鳴きそうだ。三人は食堂に行った。
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