9章 悲しき現実と蘇る記憶
「ミズカ、何処行ってたのよ。心配したかも」
「そうだよ。自分の身をわきまえて行動してもらわないと、此方がもたないよ」
戻って来ると、ハルカとマサトが迎えてくれた。ヒナのことも心配だったが、ミズカのことも心配だった。
「平気、平気。あたしは不死身だから」
ミズカは適当に返事をした。ハルカとマサトも変わらないなと思う。記憶が戻り、自然に溶け込んでいけるのも彼らが変わらないからだろう。
「ところで、マルナは?」
「一番奥の病室かも」
「ありがとう」
ハルカからそれを聞くと、ミズカは病室に向かって歩き始めた。彼女が遠ざかったところで、ハルカとマサトはやっとミズカが記憶を取り戻した事に気づく。あまりにも会話が自然過ぎて気づかなかったのだ。二人は顔を合わせると苦笑した。
ミスカはガチャッと病室のドアを開ける。もう明るい。窓から日が差していた。差した光がマルナを包み込んでいるようだった。
今でもマルナが生きているのではないかと錯覚してしまう。病室には、リョウスケもいた。
「あ、ミズカさん……」
リョウスケが気づいた。リョウスケは席を立とうとするがミズカに制された。彼の隣に行く。
「不思議ですよね。マルナ、微笑んでるように見えるんです」
リョウスケの言葉に、ミズカはマルナを見た。たしかに、口元が笑っているように見える。とても幸せそうだった。
「親に刺されたのに……。変な言い方ですけど、ちょっと誇らしそう」
そんなリョウスケの横顔を見て、ミズカは顔を歪める。
「ごめん……」
マルナが心配する。だから、あそこで歌って泣いて終わりにしよう。そう思ったのだが、目の当たりにすると、やはり無理があった。
「ごめんね……」
マルナの事を考えると、きっと謝って欲しくないだろう。しかし、もしあの時、家に残しておいたら、彼女が亡くなる事はなかったのだ。嫌でも責任を感じてしまう。
「マルナが泣きますよ」
「そうだね」
わかっている。わかっているのだがとまらない。謝っても謝りきれない。解決した後の未来にマルナがいないなんて考えていなかった。
「……リョウスケもごめん」
「な、何がですか?」
泣きながら言うミズカに戸惑う。何故謝られるのだろうか。むしろ謝るのは自分ではないかと思っている。
「マルナのこと……、好きだったんでしょ?」
「あ……。知ってたんですか」
リョウスケは顔をしかめた。少し顔が赤くなっている。ここにずっといるのが何よりの証拠だ。
ヒナに遠慮して大人しくしているが、本当はリョウスケだって何かに当たりたい気分だった。NWGのアジトへ乗り込んで、建物ごと燃やしてやりたい。それをしないのは、ここで終わりではないから。まだ戦いは続くからだ。
「……言っておけば良かった」
「え?」
「マルナも貴方のこと好きだったの」
それも後悔の一つだった。マルナは愛することも愛されることも知らなかった。そんな彼女が、ある日、リョウスケを好きだと言ってきた。だから、応援してあげたかったのだ。
出来れば、彼ら自身で、見つけられればと思い、言わなかった。ミズカは、マルナの頬を優しく撫でた。
「あたしが8年前に死んでれば……。ってそんな事言ってられないよね。前を見なくちゃ」
ミズカは、マルナに言った。リョウスケはミズカも同じ気持ちなんだと感じる。本当は悲しみで塞ぎ込みそうなのを必死で堪えている。……北風使いだから。
「庇ってくれてありがとう。約束するよ。未来は必ず守ってみせる。マルナの死、絶対無駄になんかしないからね」
ミズカは部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
「リョウスケ。……あたし達は、マルナの生きた証……、そうだよね?」
聞いてきたミズカに、リョウスケは震えた声で「はい」と返事をした。泣いているらしい。きっと心の何処かで詰まっていたものから解放されたのだろう。ミズカは振り向くことなく、部屋を出て行った。
「そうだよ。自分の身をわきまえて行動してもらわないと、此方がもたないよ」
戻って来ると、ハルカとマサトが迎えてくれた。ヒナのことも心配だったが、ミズカのことも心配だった。
「平気、平気。あたしは不死身だから」
ミズカは適当に返事をした。ハルカとマサトも変わらないなと思う。記憶が戻り、自然に溶け込んでいけるのも彼らが変わらないからだろう。
「ところで、マルナは?」
「一番奥の病室かも」
「ありがとう」
ハルカからそれを聞くと、ミズカは病室に向かって歩き始めた。彼女が遠ざかったところで、ハルカとマサトはやっとミズカが記憶を取り戻した事に気づく。あまりにも会話が自然過ぎて気づかなかったのだ。二人は顔を合わせると苦笑した。
ミスカはガチャッと病室のドアを開ける。もう明るい。窓から日が差していた。差した光がマルナを包み込んでいるようだった。
今でもマルナが生きているのではないかと錯覚してしまう。病室には、リョウスケもいた。
「あ、ミズカさん……」
リョウスケが気づいた。リョウスケは席を立とうとするがミズカに制された。彼の隣に行く。
「不思議ですよね。マルナ、微笑んでるように見えるんです」
リョウスケの言葉に、ミズカはマルナを見た。たしかに、口元が笑っているように見える。とても幸せそうだった。
「親に刺されたのに……。変な言い方ですけど、ちょっと誇らしそう」
そんなリョウスケの横顔を見て、ミズカは顔を歪める。
「ごめん……」
マルナが心配する。だから、あそこで歌って泣いて終わりにしよう。そう思ったのだが、目の当たりにすると、やはり無理があった。
「ごめんね……」
マルナの事を考えると、きっと謝って欲しくないだろう。しかし、もしあの時、家に残しておいたら、彼女が亡くなる事はなかったのだ。嫌でも責任を感じてしまう。
「マルナが泣きますよ」
「そうだね」
わかっている。わかっているのだがとまらない。謝っても謝りきれない。解決した後の未来にマルナがいないなんて考えていなかった。
「……リョウスケもごめん」
「な、何がですか?」
泣きながら言うミズカに戸惑う。何故謝られるのだろうか。むしろ謝るのは自分ではないかと思っている。
「マルナのこと……、好きだったんでしょ?」
「あ……。知ってたんですか」
リョウスケは顔をしかめた。少し顔が赤くなっている。ここにずっといるのが何よりの証拠だ。
ヒナに遠慮して大人しくしているが、本当はリョウスケだって何かに当たりたい気分だった。NWGのアジトへ乗り込んで、建物ごと燃やしてやりたい。それをしないのは、ここで終わりではないから。まだ戦いは続くからだ。
「……言っておけば良かった」
「え?」
「マルナも貴方のこと好きだったの」
それも後悔の一つだった。マルナは愛することも愛されることも知らなかった。そんな彼女が、ある日、リョウスケを好きだと言ってきた。だから、応援してあげたかったのだ。
出来れば、彼ら自身で、見つけられればと思い、言わなかった。ミズカは、マルナの頬を優しく撫でた。
「あたしが8年前に死んでれば……。ってそんな事言ってられないよね。前を見なくちゃ」
ミズカは、マルナに言った。リョウスケはミズカも同じ気持ちなんだと感じる。本当は悲しみで塞ぎ込みそうなのを必死で堪えている。……北風使いだから。
「庇ってくれてありがとう。約束するよ。未来は必ず守ってみせる。マルナの死、絶対無駄になんかしないからね」
ミズカは部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
「リョウスケ。……あたし達は、マルナの生きた証……、そうだよね?」
聞いてきたミズカに、リョウスケは震えた声で「はい」と返事をした。泣いているらしい。きっと心の何処かで詰まっていたものから解放されたのだろう。ミズカは振り向くことなく、部屋を出て行った。