9章 悲しき現実と蘇る記憶

「どうしたの?」
「お願いです。早くこの子を……」

着いたと同時に涙が溢れて来た。ジョーイは頷き、すぐに担架を用意した。そして、ある所に電話をし、手術室に運んだ。数分後には、男性が来て、手術室の中へ入って行った。ミズカはそれを見送るとその場に泣き崩れた。

「マルナ……。お願い、無事でいて……」
「ミズカさん……」

ただ祈るしか出来ない自分が情けなかった。リョウスケはミズカの肩を擦る。ヒナは耐えきれず外に出ていった。

「なんで、あたしじゃないの……。あの子には刺される理由がなかったのに……」
「ミズカさんのせいじゃないですよ」
「あたしのせいだよ。あの時、無理矢理でも家に残らせとくんだった……。組織に戻るって言えば良かった……」

ミズカの赤く染まった手が見える。リョウスケはそれ以上掛ける言葉が見つからない。ミズカの肩を擦る自分の手も震えている。カルナにマルナが刺される未来なんて望んでいなかった。

「あなた、北風使いさん……よね? 指名手配中の……」

ジョーイが恐る恐る話しかけてきた。ミズカは思わず睨み付ける。何が指名手配中だ。世界の破滅など望んでいないのに、何で悪役にされなきゃならないのだ。目の前で友人が死にそうなのだ。指名手配で周りを気にしなければいけないなんて反吐が出る。気が狂いそうだった。

「シゲル君から連絡があったの。早く個室へ来て。ここだと警察にバレるわよ」

どうやら味方らしい。さっきの頷きは、自分はここを離れない代わりに、やれることはやっておくということだったようだ。ミズカは、そういうところは変わらないなとボーっと考えながら、ジョーイに頷く。フラつきながら、なんとか立ち上がった。

「ジョーイさん。ミズカさんを宜しくお願いします。俺は、皆を待ってるんで」
「わかったわ」

ジョーイは了承し、ミズカを個室へと連れて行った。リョウスケは顔を歪めながら、それを見送った。

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