9章 悲しき現実と蘇る記憶

刺されると思っていたのに、ミズカには何ともなかった。目を開けて、目を見開いた。

「マルナ!!」

金縛りは解けていた。動ける様になっているのだが、彼女にとって今はどうでもいいことだった。前でバサッとツインテールの少女が倒れる。カルナのナイフは赤く染まっている。衝撃が走った。

「マルナ! ……マルナ!!」

マルナを腕に抱えた。その腕は震えている。ミズカの手は赤く染まっていた。

眼前の状況と、8年前の刺された時の記憶が交互に押し寄せてくる。動悸が酷い。あちこちが熱い。汗がダラダラと流れてくる。

「……撤収だ」
「カルナ様、北風使いは?」
「記憶は思い出したも同然だろ」

NWGのメンバーは消え去った。やっと動けるようになったヒナとリョウスケが一目散に駆け寄って来る。

「おい、マルナ!」

リョウスケが声をかける。ミズカはハッとした。そうだ。マルナを助けなければ。記憶なんて今はどうでもいい。

マルナの意識はまだあった。彼女は力なく笑う。

「ミズカさん……。良かったです。ご無事で」
「良いわけないでしょ。今、病院に連れていくからね」

泣きたいのをグッと堪える。ミズカは、マルナを背負った。内部の損傷が激しいのか、マルナは咳き込み、吐血する。サトシは金縛りにあったように動けなかった。頭が真っ白になっている。

「リョウスケ走れる?」
「はい」
「じゃあ、マルナの荷物をお願い」

焦りながらも、リョウスケは頷き、マルナの荷物を持った。ミズカは動揺しながらも指示を出す。嫌な記憶がミズカをざわつかせる。この場は、サトシにお願いしようと口を開くが、声が出なかった。真っ青な顔になっている。

隣にいるシゲルを見ると、彼は頷いた。ミズカはごくりと息を飲む。本当は自分がサトシの近くにいるべきだ。エーフィだって、置いていきたくない。が、一刻の猶予も許されない。

ミズカは、自身の身体に鉛のような重さを感じながら、タカナオを見た。

「ヒナは、マルナに話しかけてあげて。タカナオ達は、傷ついたみんなとエーフィを宜しく」
「あ、うん」

タカナオが頷いたのを確認して、ミズカは走り出した。後ろでヒナが一生懸命に、マルナに話しかけている。

「ミズカさん、たしか今、指名手配になってませんでしたか?」
「なってる。だから、裏道を使って行く。ポケモンセンターまでの近道なの。あそこなら確か人間も診てくれる!」

リョウスケに聞かれ、ミズカは答えた。

「マルナ、しっかりして」
「……ありがとう」

ヒナの言葉に、マルナはそう返事をした。ヒナの目から涙が溢れる。こんなマルナを見たくなかった。

「もうすぐだから」

ミズカは、顔を歪めるながら言った。

「もう、お別れだと思います」
「もうすぐ着くから」
「思ったより深く刺されたんです。だから……」
「大丈夫。助かるから」
「皆に会えて良かった……」

マルナの言葉を信じたくない。耳を塞ぎたい。マルナの口を塞ぎたい。何を諦めてるんだと言いたくなった。しかし、マルナを叱っても仕方がない。

風を切る。一刻も早くマルナを診てもらわなければ。急いで走り、裏道を使ってやっとのことでポケモンセンターについた。
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