9章 悲しき現実と蘇る記憶
「ならば……」
カルナは、黙っていた後ろのしたっぱに何やら合図をした。
彼らは、モンスターボールを投げ、自分のポケモンを出す。それは全て、エスパータイプだった。そして、全てのエスパータイプのポケモンに、金縛りを指示し、マルナ達を動けなくさせた。しかし、何故だかミズカだけは、サイコキネシスでカルナの二、三メートル前まで連れてこられた。
「コダック、金縛りだ」
自分の手持ちであろうコダックに、やっとミズカに金縛りをかけるよう指示をする。ミズカは何をされているかわからず戸惑う。しかし、コダックに金縛り……。どこかであったような気がする。
「ま、まさか……」
サトシは目を見開いた。8年前のあの嫌な記憶が思い出される。
「8年前の事は調べさせてもらった。再現だ。お前らが最もショックを受けた事件のな」
――……この事はたしか、タカナオもリョウスケもヒナも知らないはずよね……?
カスミは見える範囲で、タカナオ達を捉える。いくら記憶がないとは言え、ミズカがタカナオに漏れるはずの内容をリョウスケにするとは思えない。もし、詳しく話されて、サトシとミズカが兄妹だと知られたら、タカナオがかなりのショックを受けるだろう。
8年前の彼らがそうだった。
――8年前の……ショックを受けた事件……?
タカナオ、リョウスケ、ヒナは意味がわからなかった。彼らにこんなことがあったのだろうか。明らかに危ない状況だ。そして、一生のうちに何度も経験するような場面ではない。とはいえ、何があったか聞けるような状況ではない。
「始めようか。北風使い」
カルナはそう言って、ナイフを取り出した。ミズカは驚いて目を見開く。
「ナイ……フ?」
ナイフを見て、一瞬嫌な映像が頭に流れた。それは、今みたいな昼ではなく、暗く不気味な森の中だった。息を切らした自分に、ニヤッと笑う父親、そして自分に金縛りをかけているコダック、隣には自分を助けようとしたエーフィがいた。
父親の手には、月に照らされ、ギラッと不気味に輝くナイフが握られている。そんな情景が頭に浮かんだ。
「ミズカさん!」
マルナに声を掛けられて我に返った。額から冷や汗が出ているのに気づく。呼吸が浅い。
――助けなきゃ。
マルナも他も必死だった。なんとか身動きがとれるようにしなければならない。
「なんとか……。……っ!?」
タカナオのモンスターボールが揺れる。勝手に出てきたのはエーフィだ。
「フィフィ」
エーフィは出てきて間髪入れずにミズカの前に立つ。彼女には、今の頭に浮かんだ情景と同じエーフィだとわかった。ノリタカからは、エーフィが最初のパートナーである事を聞かされている。しかも、タカナオが預かっていることも知っている。間違いない。このエーフィが自分の最初のパートナーだ。
「ほう……。勝手に出てきたという事は、北風使いのポケモンか」
カルナは余裕だった。エーフィがアイアンテールを仕掛ける。しかし、カルナは他のポケモン数匹にエーフィを任せて、すぐに戦闘不能にさせた。何匹も相手では勝てるわけがない。
「フィ……」
しかし、エーフィは諦めずに立ち上がる。
エーフィは必死だった。ミズカに会えることを楽しみにしていたのに、こんな状況で再会なんてしたくなかった。記憶なんて戻ってなくてもいい。自分がミズカのパートナーになったときは、ミズカは昔に自分と会っていたことなんて覚えていなかった。関係はいくらでも作れる。だから、こんな状況なんて望んでいなかった。ミズカの苦しむ顔なんて見たくなかった。
しかし、こうなっては仕方ない。自分が動ける今、自分がなんとかしなくては。ミズカを助けたい。その一心だ。
「早く、動けなくしてやれ」
「やめて! その子は関係ない!」
ミズカは見ていられなかった。このままでは、あのエーフィは自分のせいで大怪我を覆ってしまう。自分のポケモンだったポケモン。記憶にないのに、脳裏に出てきたポケモン。あのときもエーフィは必死だった。
「ダメです。どんな傷を負っても止まりません」
「金縛りだ」
したっぱが言うと、カルナは指示を出した。エーフィは動けなくなる。エーフィはサイコキネシスで対抗するが、うまくいかなかった。
「占い師からは、お前が死のうと思っても死ねない話は聞いている」
「……何がしたいの?」
「なぜ、お前をここまで泳がせていたかわかるか?」
「?」
カルナの言葉にミズカは首を傾げる。
「昔の仲間に会って、温かい言葉を掛けてもらって、少しは死にたくないと思っているのではないか?」
ミズカは言葉が詰まる。咄嗟に返事ができなかった。死にたくない……。そんなはずはないと言い切れなかった。
サトシと話して、自分の居場所があることを知ってしまった。サトシに沢山昔のことを教えてもらいたくなった。
解決したら、マルナともリョウスケとも、もっと仲良くできたら……、サーナイトやチルタリスと楽しいバトルができるようになったら……。無意識に考えていた。
カルナは、黙っていた後ろのしたっぱに何やら合図をした。
彼らは、モンスターボールを投げ、自分のポケモンを出す。それは全て、エスパータイプだった。そして、全てのエスパータイプのポケモンに、金縛りを指示し、マルナ達を動けなくさせた。しかし、何故だかミズカだけは、サイコキネシスでカルナの二、三メートル前まで連れてこられた。
「コダック、金縛りだ」
自分の手持ちであろうコダックに、やっとミズカに金縛りをかけるよう指示をする。ミズカは何をされているかわからず戸惑う。しかし、コダックに金縛り……。どこかであったような気がする。
「ま、まさか……」
サトシは目を見開いた。8年前のあの嫌な記憶が思い出される。
「8年前の事は調べさせてもらった。再現だ。お前らが最もショックを受けた事件のな」
――……この事はたしか、タカナオもリョウスケもヒナも知らないはずよね……?
カスミは見える範囲で、タカナオ達を捉える。いくら記憶がないとは言え、ミズカがタカナオに漏れるはずの内容をリョウスケにするとは思えない。もし、詳しく話されて、サトシとミズカが兄妹だと知られたら、タカナオがかなりのショックを受けるだろう。
8年前の彼らがそうだった。
――8年前の……ショックを受けた事件……?
タカナオ、リョウスケ、ヒナは意味がわからなかった。彼らにこんなことがあったのだろうか。明らかに危ない状況だ。そして、一生のうちに何度も経験するような場面ではない。とはいえ、何があったか聞けるような状況ではない。
「始めようか。北風使い」
カルナはそう言って、ナイフを取り出した。ミズカは驚いて目を見開く。
「ナイ……フ?」
ナイフを見て、一瞬嫌な映像が頭に流れた。それは、今みたいな昼ではなく、暗く不気味な森の中だった。息を切らした自分に、ニヤッと笑う父親、そして自分に金縛りをかけているコダック、隣には自分を助けようとしたエーフィがいた。
父親の手には、月に照らされ、ギラッと不気味に輝くナイフが握られている。そんな情景が頭に浮かんだ。
「ミズカさん!」
マルナに声を掛けられて我に返った。額から冷や汗が出ているのに気づく。呼吸が浅い。
――助けなきゃ。
マルナも他も必死だった。なんとか身動きがとれるようにしなければならない。
「なんとか……。……っ!?」
タカナオのモンスターボールが揺れる。勝手に出てきたのはエーフィだ。
「フィフィ」
エーフィは出てきて間髪入れずにミズカの前に立つ。彼女には、今の頭に浮かんだ情景と同じエーフィだとわかった。ノリタカからは、エーフィが最初のパートナーである事を聞かされている。しかも、タカナオが預かっていることも知っている。間違いない。このエーフィが自分の最初のパートナーだ。
「ほう……。勝手に出てきたという事は、北風使いのポケモンか」
カルナは余裕だった。エーフィがアイアンテールを仕掛ける。しかし、カルナは他のポケモン数匹にエーフィを任せて、すぐに戦闘不能にさせた。何匹も相手では勝てるわけがない。
「フィ……」
しかし、エーフィは諦めずに立ち上がる。
エーフィは必死だった。ミズカに会えることを楽しみにしていたのに、こんな状況で再会なんてしたくなかった。記憶なんて戻ってなくてもいい。自分がミズカのパートナーになったときは、ミズカは昔に自分と会っていたことなんて覚えていなかった。関係はいくらでも作れる。だから、こんな状況なんて望んでいなかった。ミズカの苦しむ顔なんて見たくなかった。
しかし、こうなっては仕方ない。自分が動ける今、自分がなんとかしなくては。ミズカを助けたい。その一心だ。
「早く、動けなくしてやれ」
「やめて! その子は関係ない!」
ミズカは見ていられなかった。このままでは、あのエーフィは自分のせいで大怪我を覆ってしまう。自分のポケモンだったポケモン。記憶にないのに、脳裏に出てきたポケモン。あのときもエーフィは必死だった。
「ダメです。どんな傷を負っても止まりません」
「金縛りだ」
したっぱが言うと、カルナは指示を出した。エーフィは動けなくなる。エーフィはサイコキネシスで対抗するが、うまくいかなかった。
「占い師からは、お前が死のうと思っても死ねない話は聞いている」
「……何がしたいの?」
「なぜ、お前をここまで泳がせていたかわかるか?」
「?」
カルナの言葉にミズカは首を傾げる。
「昔の仲間に会って、温かい言葉を掛けてもらって、少しは死にたくないと思っているのではないか?」
ミズカは言葉が詰まる。咄嗟に返事ができなかった。死にたくない……。そんなはずはないと言い切れなかった。
サトシと話して、自分の居場所があることを知ってしまった。サトシに沢山昔のことを教えてもらいたくなった。
解決したら、マルナともリョウスケとも、もっと仲良くできたら……、サーナイトやチルタリスと楽しいバトルができるようになったら……。無意識に考えていた。