8章 交差

「あれ、ミズカは?」
「ちょっと遅いですが、昼食を作って下さるそうです」

さっきいたはずのミズカがおらず、サトシは辺りを見回しながらマルナに聞く。マルナは奥の部屋の方を見た。

「そう言えば、飯まだだったっけ……」
「ホットケーキを作ってるみたいだよ」

シゲルが言う。聞いていてあまりにもお腹が空いてきてしまい、腹の虫が鳴いた。

「ちなみにピカチュウも台所だ」

ノリタカが口を開いた。今、聞こうとしていたところで、聞かずに済む。「わかった」と返事をして台所へ向かった。

「ピピカ?」

台所へ行くと、ピカチュウがミズカの顔を覗いているところが見えた。何かあったのかと、声をかけずに話を聞く。

「皆……、あたしの事を知ってるって、なんか変な感じ」
「ピィカ?」
「思い出せない自分が情けなくて……。貴方ともバトルをした事があるんでしょ?」
「ピカピカ」

手を動かしている感じ、ホットケーキの生地を混ぜているようだった。ミズカが聞くとピカチュウは頷いた。

「タカナオのため、世界のためだから、記憶を思い出したいって格好つけてるけど……。本当はさ……」
「ピ?」
「本当は……、単純に思い出したいだけなの」

ニコッと笑う彼女にピカチュウはつられて笑った。

「ピカピカ、ピカチュウ!」
「そうだね。きっと、思い出せるよね」

ピカチュウがミズカの肩に乗る。少し元気が出た気がした。

「よし、後は生地を焼くだけ! ピカチュウ、危ないから下がって」
「ピカ。……ピ? ピカピ!」
「え?」

驚いて、後ろを振り向く。そこにはピカチュウのトレーナーがいる。ミズカは今の話を聞かれていたと気づき、「あっ」と声を漏らした。

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